突然流行り出した死に至る奇病にはいくつかの特徴があった。
病に冒されていく妹を助けようとする兄の視点から、章ごとにその視点は変わっていき、じわじわと全貌が明らかになっていきます。その重厚感のある文章、まるで伝承物語のような発想たるや本当に素晴らしく、どんどん引き込まれていきました。
古い言い伝えぐらいにしか思っていなかったことが、奇病で現実を帯びていく。それはまさにホラー。しかもその病に関係しているのは、血華と呼ばれる地獄で地獄蝶との血の契約を背負った者。血華であるカンナは血華であることで普通の生活がままならず、人一倍苦労をしてきた。そのため一筋縄ではいかない性格だけれど、奇病に冒された従姉妹の咲を救いたいという思いは本当だった。
咲のためにカンナがとる生死をかけた行動。
本当にうまく行って良かったと思いました。
最初地獄蝶が優勢だったのがカンナの頑張りによって地獄蝶から解き放たれる。
カンナたちの前世や、カンナの現世での辛さを思うと、本当にカンナが解放されて良かったです。
物語としてのレベル、完成度に本当に尊敬を覚えた作品でした。
その《死病》に侵されたものは生きながらにして、地獄に落ちる。
処女だけが掛かるその《死病》は、罹患すると急激に老いていき、知能も理性も損ない、やがては腐乱した骸だけを残して息絶える。患者らは一様に、みずからのうちに《赤ん坊》の鼓動を感じるという。赤ん坊にたいする執着と多幸感に蝕まれ、患者は恐怖を覚えるまでもなく朽ちていく。
まさに呪いの如き《死病》……
その発端となった悲しき伝承が紐解かれたとき、あなたはなにを想うのか。
遠い昔日の幻想が現実を毒す、薄気味悪くも美しい怪奇譚――です。
頁を進めるほどに、此岸と彼岸の境がじわりと侵されていくような錯覚に襲われ、嵌りこむように物語に没入していきました。
蝶、華、契り。それらの謎が解けていくと、単なる恐怖の対象でしかなかった《死病》もまた、悲しい由縁あってのものだったのだとわかります。そうして事の発端となった《ふたり》が、地獄から救われることを祈らずにはいられなくなるのです。
民俗学を根として、そこから幻想の枝葉を拡げていくような著者さまの技術は、まさに圧巻でした。
ほんとうに素晴らしい小説を拝読させていただきました。
人が求めるのは秩序か無秩序か。
この世とあの世の境目が、救いと犠牲との間で揺れ動く。
ひとつの解放は新たな縛りと苦悩を呼び込み、信仰の深い側面を覗かせる。
蝶という形をしたそれを断ち切れるのか。
その人がその人であるための始まりの位置、そこへ立った若い2人の前途が、明るいものとなるように願わずにはいられない。
ただこのことはひとつの終わりであって、全ての終わりではないのだ。
切なく美しく静かな恐怖の世界はこれからも、この先もたぶん、きっと続いてゆく。
季節がめぐり、美しい蝶を見かけた時、あなたはきっとこの物語を思い出す。この蝶はいったい、どこから来たのかと。
早い段階でページ(画面)を繰る手が止まらなくなります。「早く次のカードを捲らせろ」と呟きながら、ページを繰ってしまいます。
作品紹介文にて「人間の尊厳を扱った作品」と有ります。私自身が確固たる尊厳イメージを持ってないので何とも言えませんが、作者の心意気は十分に感じます。
読了後に作品を振り返ると、設定の妙に唸ってしまいました。蝶と華を巡る設定は極めてシンプルです。でも、この設定が秀逸なので、枝葉を伸ばした物語は大木を成して真相を隠し、読んでる最中には結末を予想し難い作品に仕上がっているのです。
ちょっと改行回数が少ない感じがしますが、閲覧者の皆様は匙を投げずに是非、読み進めてみてください。物語としては、かなりハイレベルだと思いました。
また、スプラッター系ではありません。そう言うホラー映画が苦手な方でも、本作品は十分に楽しめると思います。