☆検証:冒頭の書き出しと物語の構造
某所にて、冒頭の大切さについて書かれていた記事があり、大変感銘を受けた。
というわけで、今回は拙作の冒頭について検証してみようと思う。
要点をまとめると、
・物語はフラクタルな構造になっている。冒頭で与えた快感が小説の基本路線となり、読者は冒頭と同じ系統のクライマックスを期待する。
・読者の忍耐力が持つのはせいぜいが3行。その中で物語のサンプル提示をしなければならない。
・例外はあるが、冒頭3行で展開した以上の話にはできない。
(要約引用:「我想う故に
以上の点を踏まえ、 新しい順に拙作の冒頭を見ていこうと思う。3行ではなくもう少し文章は引っ張ってきているが、特に最初の3行に注目したい。
それではレッツ・パーリィ!
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■端的に言って最低です
「……マジかよ」
青年は頬をひきつらせて呟いた。
彼の声へ呼応するように、ざわりと音を立てて木立が揺れる。
市内から離れた山の中腹にある森の中。
アスファルトで舗装された車道から少し離れた砂利道に、一人の青年が立っていた。
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この出だしだと、『青年が森でビビってる話』になる。
いや、ある意味間違ってはいないのだけれども、別にそれは本題ではない。
そもそも、やや彼がビビってるのが分かるのはこの後の文章なので、現段階ではそれすら分からない。
「頬をひきつらせて」「ざわりと音を立てて~」の表現からは、引いている様子や不安感が伝わると思う……ので、感じさせるのは何か不穏な雰囲気だ。
ただ、確かに不穏な空気は漂うものの、そこが全面に押し出された話ではないので、この冒頭は適切ではないのだろう。
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■エトワールは逃げられない
よぉ。久しぶりだな、ミオ・テゾーロ――と、彼は言った。
路地裏から逃げ込んだ先は廃墟となった建物だった。得策ではない、と分かってはいた。が、人目に付く場所を逃げるよりは、こちらの方がマシな結末になることが多い。経験則だった。
もっとも、経験則でいくらかマシとはいえ、結末そのものは何も変わらない。ここまで来れば、訪れる未来はいつも一緒だ。
間もなく、今回が終わる。
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これは! 上手いこと出来ているのではないか……!?
紛うことなく『エトワールは逃げられない』は、彼と『久しぶり』に会うことの出来た話であり、『久しぶり』に彼に見つけ出される物語だ。
3行の範囲からは超えるが、記載した冒頭部分で概ねの設定も説明している。
……とりあえず全滅じゃなくてほっとしている。
ところで関係があるかは不明だが、この作品はPVにほとんど谷がない。1話と2話の間に若干の差はあるが、他のものと比べると微々たるものだ。
(そもそものPV数が少ないという点については目をつぶってもらいたい。よいこのお約束だよ!)
なにぶんサンプルが自分のものだけなので判断材料は足りないが、この結果は大変興味深かった。
本作は、冒頭についてはひとます成功しているといえるのかもしれない。
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■事の端あはせ
空が高い。
琵琶の音色を耳にして、男は立ち止まった。しゃなり、と手にする錫杖が静かに音を立てる。
どこからか聞こえてくる琵琶法師の旋律は、雑多に往来する人の流れを暫し狂わせ、小さな一つの流れを作り始めていた。紡がれる音色に呼び寄せられるように子供らは騒々しくそちらへ集っていく。
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……段々と難しくなってきだぞ!
冒頭のキーワードから感じるのは、そこはかとない寂寥感と和のかほり。
雰囲気としては確かに物語の方向性に合っている。そこそこ成功なのでは、と思えるが……。
これは(カクヨムでは仕方なく歴史ジャンルにしているけれど、)一般的には『ファンタジー』に分類される作品だ。
特殊な力や、天狗や龍などの妖怪が出てくる。
所謂、和風ファンタジーだ。
学生時代に書いた作品だが、批評会の折にあまりファンタジーに馴染みのない人からは「いきなり龍とか出てきて戸惑った」という指摘があった。
おそらく、冒頭にも若干それを匂わせる要素を込めておく方が親切だったのだろう。3行で無理としても、せめて1話目には。(本作にその要素が登場するのは2話以降なのだ。)
方向性としては間違っていないが、序盤での要素の提示が遅くなっているのがこの作品のミス。
早いうちから中心となる要素を感じさせる方が、読者イメージとの乖離が少なくなる。
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■新月の夜には氷の礫を
それは十二月十日の新月の日。
***
「それで、きみはモラトリアムを十二分に謳歌しているのかい」
どんな文脈であっただろうか。今となってはそれも思い出せない。おそらく大した意味も無く、深いことも考えずに成り行きで飛び出した言葉であったのだろうと思う。
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『モラトリアムを十二分に謳歌しているのか問われる話』。
うん。……ちょっと違うかな。
確かに要素の一つではある。しかしそれはスパイスの一つであって、やはり本題ではない。
正直に言うと、自分でも認識している本作の欠陥は、このスパイスがあちこちに飛びすぎていることだ。
『新月』『モラトリアム』の他、他にも彩りを与えるスパイスが幾つか部分ごとにちらほら使用されているため、若干とっちらかった印象を与えてしまう。
因みに本作は、PVが本当に酷いことになっている。
原因がこればかりとは限らないが、自省材料の一つだろう。
なまじサークルでの発表時は評判が良かった作品なので、Webと冊子との違いと、上記の欠陥を思い知った次第。
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■東京シカバネスウィングス
私たちはこの東京ハイイロ桃源郷で、共にあぶれることなく幸せになろうと誓った。
桃の苑の中でもなく、銀の剣をかかげる代わりに、夜遅く人のいなくなった大学のテラスで割り箸を振り上げて。
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区切りがいい場所なので、引用は短め。
だが、まさに最初の一行が全てだ。
この作品は、灰色の世界で私達が幸せになろうとする物語である。
ただこれは1話しかない短編なので、色々と検討はしづらいのだけれども。
余談だが、前回のエッセイで触れた『短編じゃなく長編で書けよ』と周りに言われた作品がこれ。
単純なので、いずれ長編を書こうと思っている。
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■乱舞りんぐファンタジー
『レディース! エーン! ジェントルメーン! ってあっやべジェントルいなかった! 麗しいお嬢様方、このクソ暑い最中に! 御っ機嫌よーう!』
マイクを通じて快活な声が体育館内に響き渡る。威勢のいいその声は、もれなく体育館の外にまで漏れ聞こえていた。
八月の真夏日。登校日で集った生徒たちは、全校集会のため第一体育館に整列していた。しかし教師の姿はなく、居るのは生徒ばかりである。そんな最中、突如登場した司会者に、彼女たちは何かの期待で胸を躍らせている様子であった。
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テンションの高さはすごく伝わる。
最初の3行で伝わるのは、ハイテンションでコミカルな物語、といったイメージだろう。
それは間違っていない。
だが、全てでもない。
芳賀さんの感想を引用する。
『私が序章から受けた内容は、コメディチックながらもストーリー物が展開する予感だ。
たぶん、それは外れているわけではなく、根底にはシリアスなストーリーが潜んでいるのだろう』
まさしくその通りで、序章全てを読んだ場合には、おそらく読者は上記のようなイメージを抱いてくれるのだろうと思っている。
けれども最初の3行だと、ここまでの認識にはならない。
……というか、3行で全部を満たす技量は私にはない。
出来る人、いるのだろうか……? 難問じゃないか……読みたいぜお手本……!
決定的に間違っている、という訳ではないかもしれない。
ただ3行で上記のイメージを与えるというよりは、冒頭で与える快感は別種のものにした上で、コミカル&シリアスな展開を(実際に序章でそう書いているように)序章全体で感じさせる手法が、現実的かつ理想だろう。
つまり冒頭はもうちょっと別の書き出しの方がよりベターだったのだろう、という認識。
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■輪生エッダ
(音楽……?)
微かに旋律が聞こえた気がして、旅の少年は足を止めた。
全身黒い服を身に纏い、髪は同じく闇に溶けそうな漆黒。背には不釣り合いな程大きい両手剣を担いでいる。夜に身を投じれば、彼の姿はたちまち闇に紛れてしまうだろう。
彼の前方には森に囲まれた小さな村があった。今しがた耳にした音色は、その村の方から聞こえてきた気がする。前髪をさらりとなびかせ顔を上げると、少年は微かに目を細めて前方の村を見遣った。
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音楽、旅、黒。
重要なキーワードは入っている。
けれども……うーん、やはり物足りない。
さっきの『乱舞』と同じく、もっとやりようはあるだろう。
……さっきと同じなので、終了。
以上、冒頭についての検証だった。
ほとんどの作品について、かなり見直す余地があった。
基本は読者が一番最初に目にする冒頭の本文。大事というのは勿論のこと意識していたが、はっきり分かりやすく構造を指摘されていた元記事のおかげで、目から鱗が落ちる思いだった。最近、目から落ち過ぎである。
ともあれ、実際に検証して良かった。
データ量が少ないため信ぴょう性はさておくが、実際に冒頭できちんと物語を提示していた場合の例を、他ならぬ自作で目の当たりにしてしまっては、とりあえず直さない手はない。
……とは言え、前回・前々回と続いたこれら一連の検証をやってみた結果、あちこち見直したいことだらけなので、今、ちょっと何をやったらいいか迷って右往左往している(笑)
多分、全部がすぐに書き換わることはないだろう……やりたいことがありすぎる。
今日はこの記事を書くので満足したので明日は何をしようかな。
本当に最近、毎日が色々と楽しみだ。
(2016/06/06)
そうさく日和 佐久良 明兎 @akito39
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