夜の虹

實鈴和美

夜の虹

「夜の空に虹ってできる?」

「はあ?」

 質問の意図がすぐには掴めず、突然の言葉にオレはなんとも間抜けな声で返してしまった。会話に脈絡が――まあそもそも会話すらしてなかったが――無いのはいつものことだと慣れてはいるが、頭の悪いオレが即座に気の利いた言葉を返せないのは分かってるだろうに。大体夜空を眺めること一時間、その間お互い何も喋らず無言を貫いてたからすぐに理解なんかできねえっての。

 案の定オレの返事がお気に召さなかったらしく、我が幼馴染みは露骨に眉を顰めた。

「何、そのいちゃもんつけるような返し方」

「悪かったな、自覚してるわ。でも突然意味不明なこと言ったのはお前だ」

 肩を竦めてみるが相手は不機嫌丸出しだ。だったらもう少し順序立てて話せっつーの。チンピラ張りの反応したのは悪いと思うけど、その原因はお前にあるんだからな。で、えーっと? 夜に虹ができるかって話だよな。んなもん無理だろ。

「夢が無い」

「お前よりは遥かにあるわ。現実主義者はそっちだろ」

 確か昔、小学校一年生くらいの出来事だ。作文のテーマで『将来の夢』と出されたとき、周りの奴らがそれはもう子供らしくお花屋さんとかサッカー選手とか無邪気で可愛らしい内容を読み上げる中、こいつはいやにハキハキとした口調で「お金が毎月きちんと支払われて、突然肩を叩かれて上司に退職を促されたりしない職に就きたい」と言い切りやがった。

 そりゃまあ金関係の話書いた奴もいたよ? でもそいつらもやっぱ六、七歳のガキだから、ただ「お金持ちになりたい」「それでゲームが欲しい」「親孝行したい」って漠然としてて、理由もせいぜいそのとき欲しい物があったからとかちびっこの優しさが溢れた年相応のもんとかだった訳よ。そんな中で夢も何もあったもんじゃないシビアな現実を突然七歳児が無感情に語るってのは、まあ普通微妙な気持ちになるし、どうリアクションすればいいのか困る。そのときの先生の顔といったら、笑顔完全に固まってたし、しかも後日こいつの親呼び出されたらしいし(おじさんとおばさんは笑って受け流したらしいけど)。ちなみにオレの夢はパイロットだった。な、夢が溢れてるだろ?

 落ち着いた性格を飛び越して早々に冷えた目で現実を見据えてたこいつだが、その割には今みたいに訳の分からんことをなんとも言えないタイミングで切り出すから大変だ。普段はドライアイスよりも冷たい目をしてクラスの野郎共から恐れられてるのに、山火事でも起こす勢いの炎を突然背後に従えてるときがある。幼馴染みの自分が言うのもなんだが、〝キャラが読めない変人〟という第一印象は物心ついた頃から一度も変わったことが無い。さっきこいつをリアリストと称したがあれは一側面だ。かといって夢見がちと呼ぶには振り幅が極端すぎる。

「で、それがどうかしたか? とうとうロマンチストに乗り換える気か?」

「それは君でしょう。別に。なんとなく聞いただけ」

 返答は実に淡泊だった。しかもぶった切っちまった話をせっかく繋げてやったのに、あろうことかあいつはオレに背中を向けてしまう。おいと呼びかけても無反応。疑念を込めた視線で訴えてもぴくりとも動かない。あーあ、直に寝転んでっから服に細かい人工芝くっついてるぞ、丘に寝そべってるのはオレも同じだけど。

 軽く息を吐いて視点を再び切り替えれば、そこには煌々と過度に己を魅せている、プラネタリウムの星が視界一面に広がる光景。規則的に吹く風は冷房から吹いているみたいに涼しかったが、同時に肌の下がむず痒く感じて仕方ない。

(……綺麗、だとは。思うんだけどな)

 思いはする、が、じっと観察し続けてるとほんの僅かな違和感も覚えてしまうから困る。

 建物からの電光なんて存在しないとばかりに輝く無数の光の粒達は、完璧に夜空を覆い尽くし、一定の光量でそこに在り続けてほんの僅かな時間も瞬かない。動かない風景はまるで写真か絵画のようだ。そう、時が止まった――いや、無理矢理止めてしまった悪意ある模写。ふと手を伸ばしてみたが結果は空しく宙を掴むだけで、この手に触れることは無い。腕を下ろしながら何やってんだか、と溜め息をつく。触れたとしてもどのみちあれは今自分が喩えた偽物だというのに。阿呆なことをした。

 オレ達は――というより今の子供は、本物の星を見たことが無い。いや、星以前に本物の空そのものを目にしたことが無い。今この眼前に広がっているのはまさしく複写、過去の星空を投影したスクリーンだ。何十年か前に人が住む場所が巨大なシェルターと化して以降、頭上に広がる無限の空は有限の天井となり、決まった時間帯に青空と夜空の映像を交互に映し出すようになったのだ。オレ達若者世代にとって空は単なる光る屋根。ビルの壁に埋め込まれた大型モニターよりもつまらない、恐らくこの世で一番虚しい無機物と化している。

「見たいんだよね。虹」

 静寂の時間が不意に途切れた。視線をスライドさせるといつの間に体勢を変えたのか、仰向けになって無味乾燥な天球を眺める幼馴染みの姿が目に入った。

「虹なら一応見れるだろ。月一くらいで。昼間だけど」

「それじゃあ意味が無い。君は一回出たら数時間出っぱなしの映像を虹って言うの? そんなタイムスケジュールに合わせたご都合なもの、自分は絶対呼びたくない。ううん、虹だけじゃなくて、そもそも空っていうのは絶えず変化していくものなんだよ。なのに自分達が生まれる前から空は悪い意味で不変的になってしまった。毎日毎日単調で変化は皆無。十分以上雲凝視してて一ミリも動かないどころか位置すら毎日同じなんだよ? つまらない通り越して鳥肌が立つ」

「……それで、夜に虹が見たいってのか?」

「三十パーセントは」

「あとは?」

「聞きたい?」

「焦らすなよ」

「……壊したいんだ、この非現実を」

 思いのほか切なげに聞こえた七十パーセントに目を丸くする。十五年もずるずる腐れ縁で付き合ってるが、こいつのこんなか細い声を耳にしたのは初めてだ。明日の天気は快晴と設定されてるが、もしかしたら誤作動を起こして土砂降りの雨が降ってくるかもしれない。根拠の無い直感だがなんとなくありえそうだ。

「つくづく失礼だよね、君って」

「槍の可能性もあるな。降ったらテロだけど」

「ほんっとうに失礼だね、君って」

 君は一体自分をなんだと思ってる訳?――とぶつぶつ吐かれる恨み言はスルーする。いちいち反応してたらキリが無いし、オレはこいつにさっき返した茶化し以上の容赦無い毒舌をしょっちゅうぶつけられている。たまには反撃しても罰は当たらないだろう……と思ったが、後々仕返しにとんでもない無茶振りをされそうでちょっと後悔してる。

 密かに今後を憂いていると、今まで空を仰いでただけのあいつが動いた。さっきのオレと同じように天に腕を突き上げ、掌を目いっぱい広げる。余程力を込めてるのか指の付け根付近の筋が一本一本浮き出ていた。そのせいで、いつも巻いてる七色のブレスレットが腕の途中までずり落ちたのを見て口を開きかけたがやめる。ビーズでできたなんの凝りも無い手作りのアクセサリーは形見だと聞いた。でもそれが誰の形見なのかは知らない。初めて聞いたとき「いつか話すかもしれない」と言ったきりでまだ教えてもらえてないからだ。知ってることといえば、こいつがそれを後生大事に肌身離さず身につけていることぐらい。

 暫くその姿をじっと見つめてたが、当の本人はそれ以降全く動かない。腕も伸ばしたままだ。疲れないのか、と少し呆れながらも会話の続きを考えてみる。冗談とはいえ槍が降ってくる可能性を示唆するネタに興味を持たない訳が無い。幼馴染み自身は無自覚なようだが、こいつのこういう話の引きは非常に上手く、絶対乗るまいと心がけていても振られるとすぐ忘れてしまう。関係性を抜きにしてもオレが振り回される所以の一つだ。

「非現実を壊したいって?」

「そう」

「どの辺が〝非〟なんだよ。オレ達にとっては今この瞬間全部が現実で、当たり前だろ?」

「うん、皆そう返すだろうね。それでクラスメイトからも、先生からも、近所の人達からもきっと馬鹿にされて、白い目で見られる。今を原初からの普遍だと思い込んでるから――自分と君以外は」

 でなきゃこんな無意味極まりない天体観測に付き合うなんてしないでしょう? と続けて語る幼馴染みは普段通り。基本的に他人の共感なんて一切求めないのに、長年傍にいるオレにだけは自分と同じ価値観を持ってることを前提にする。ある意味での横暴も慣れてはいるがそれとこれとは話が別だ。だから今回も「オレは違う」と否定した――はずなのに、最初に呼気を飲み下したせいで変に掠れて小声になった。そして乱暴な動きで空を握り――まるで何かを毟り取るように見えた――ぱたりと腕を下ろす、らしくない子供っぽい相手の仕種を何故か不満に感じて。無意識に、柄が悪いとよく注意される棘交じりの口調になった。

「つかさ、夜は誰も外、出ねーよ。気づかねえって」

「じゃあ警報鳴らす。パトカーみたいな音出る赤ランプ、大量に」

 といっても向こうの馬鹿っぽい提案のおかげで苛立ちはすぐ掻き消えた。いや、馬鹿っぽいというか間抜けっぽいというか、うん、気が抜ける。思わず「近所迷惑だぞ、それ」とつっこんでしまうと、「それで皆が気づいて感動するなら越したことはない」と真顔で返された。怒って上見ること忘れなけりゃそれでいいが……つーか光る要素っているのか、これに。てかパトカーのあれってランプが鳴るのか? 鳴るにしてもスイッチどこだ、車の中じゃねーの?

 あまりにも〝非現実的〟な夢想とそれに反した雑な人の集め方にどこから指摘するか悩んだが、でもと考えを改める。

 フィルターが映すのは決まり切った天候。昔は空を愛でて写真を撮ったりする奴もいたらしいが、今その存在は人を魅せるものではなくなっている。一定時間ごとに青、橙、黒と機械的に切り替わるスクリーンに情緒なんてあったもんじゃなく、被写体にするなんて奇行も甚だしい。上空から光は届くけど太陽は映像だし、当然月も映写。雨だって毎朝のニュースで何月何日の何時に降るかがご丁寧に読み上げられて、定時になると即座に黒雲が表示され、きっかり十分、半日、一日、定められた時間内だけ降り注ぐ。全部が全部時間通りで、調整ミスでうっかり狂ってしまえば住民から苦情のオンパレード。千変万化のグラデーションなんて存在しない。あるのは予定調和の単色だけだ。

(そんな空に虹、か)

 通常昼にしか出ないはずの虹が夜に出る――星を背景にしたアーチは異質すぎて鮮明に想像しにくいが、珍しさの度合いと幻想的な雰囲気は一等もんだろう。漆黒の海原に突如架かった七色の橋には、彦星と織姫を逢わせるバーチャルカササギも、そして居住区の奴らもきっと唖然とする。そしたら四苦八苦して出した虹が結局空と同じ紛い物だとしても、もしかしたら何かが変わるきっかけになるかもしれない――そんな予感がした。

 そこまでつらつら考えたところでまたあいつの言葉に乗ってることに気づき苦笑する。本当、こいつはオレの気を引くのに長けてるわ。

「……ま、オレは夜でもいいけどな。なんか豪華っぽいし」

「話分かるじゃん」

「でもランプなんか点けたら虹、薄くなるんじゃね?」

「あー……ありえるかも」

 つか赤ランプじゃなくても音出すだけならスピーカーとか拡声器使えばいいんじゃね? と思いついたが本人はそこまで頭が回ってないらしく、顎に親指を当てて星と睨み合いをしている。試しに言ってみるかと声をかけかけるが、ま、どうせすぐ気づくだろと口を噤んだ。

 そもそもこいつはさも平然と言ってのけてるが、実際夜空に虹を映すなんてこと不可能じゃないか? 少なくともオレは方法が全く浮かばな……いや、あるっちゃあるが、天気を管理してる施設に無断侵入とか、どう足掻いても犯罪路線の案しか出てこない。でもこいつ、一般的な倫理観とかから余程外れたもんじゃない限り、自分の突飛な思いつき、何がなんでも実現させようとするからなあ。オレも過去何度か……ああ、うん、何度かじゃなくて全部にオレは付き合わされてる。小学校の秘密の地下通路探検とか、学校の七不思議や心霊現象の検証とかとにかく色々。「世界に三匹しかいない蝶を探しにいこう」と無期限で学校を無断欠席する旨を言い出しても、ああまたか、と普通に受けとめる気がする。慣れというのは恐ろしい。

 話がずれた。とにかく、この幼馴染みは本当に虹を創るのか。だとしたらその方法は? そのときはオレも強制参加か? まあ巻き込まれるのに異論は無い。なんだかんだ言っても結構オレ自身楽しんでるし、なんでか今回は自分から手を挙げて参加したいくらい高揚してる。停学処分のコースに乗るのはちょっとヤバいもしれないが……そこでふと腕時計を見る。暗闇で光るデジタル数字は零時前を告げていた。

「そろそろ帰っぞ。これ以上いたら本物の赤ランプの車に乗せられる」

「あーもうそんな時間? じゃあ帰ろうか」

「背中の草落とせよ」

「取って」

「はいはい。オレのもな」

 向けられた背中を雑にばたばた叩くと「痛い」と怒られ、オレの背中も思い切り叩かれた。痛くはないがちゃんと取れてるのか気になる。

 ちなみに今オレ達がいるのは小高い丘の上。人工芝が敷き詰められたここと裾野はこの区域で最も大きな自然公園として開放されている。だから危険が無い程度の傾斜と高さしかないのだが、山が無いここではこの場所が自然物の中で一番高い。ただ高い所で空見たいだけなら家の屋根とか学校の屋上でもいいだろ、と、ここに通い始めた頃に言ったら首を振られた。曰く「唯一の自然から望むからこそ見通せる」と。

 補導されないよう注意しながら帰路につく。家に着くまでお互い無言だったが、住宅街の入口に入ったところで不意に指を握られた。隣を見下ろすが、向こうはオレを見ずに真っすぐ前を向いている。指の温もりが更に強くなる。

「……皆、自然の美しさを忘れてるんだよね。しかもそれを当たり前だと思ってる。空は綺麗なのに、変わるものなのに、興味を無くして疑念も消した。だから汚れた空を見せたくないからってフィルター掛けた奴や、無関心になってる奴らをビックリさせたい。今この瞬間の現実こそが非現実なんだよって叫びたいの。そしてまた元の空を取り戻そうって主張したいんだ」

「……それがお前の『非現実を壊す』ってやつか」

「付き合ってくれる?」

「今更かよ」

「だって今までの奇行より何倍もとんでもないよ?」

「自覚してたのか、奇行って。ま、倫理と道徳の枠内に収まってりゃ大丈夫だろ。いくらでも付き合ってやるよ、お前の気が済むまで」

「……そっか。ならコータロー、よろしく」

 こっちからも手を強く握り返すと、ようやっと顔を見せてくれた。悪戯っぽく笑む幼馴染みからは、普段周囲に張り巡らせている頑なさが抜けて少しいきいきとしている。……いつもこうやって笑ってればクラスの野郎連中も喜んで寄ってくるんだろうが、今のところオレだけに見せるこの緩んだ顔はずっと独占しておきたいと考えることがある。なんでだろうな?

「まあ無理はすんなよ。お前仮にも女だし」

「ならお前じゃなくて名前で呼んでよ。コータローがお前お前ばっかり言うと意識できるものもできない」

「分ぁったよ。……じゃワカナ、無理はすんなよ」

「了解。その分コータローに無理してもらうから」

「おい待てそれはどういう意味だ」

「大丈夫、一蓮托生だから。何かあったら自分が、ううん、あたしがコータローの人生丸ごと抱きしめるから。それじゃあ明日っていうか今日遅刻しないようにね。バイバイ」

「……な、そっ――オレだって同じだよ! ぜってー離れんなよ!」

 言うや否や、ワカナは白いパーカーのフードと青いフリルスカートの裾を翻して、気づけば到着していた自宅の裏に回っていった。玄関じゃなく裏口から帰るのはもう日課だ。

 ……なんかどさくさに紛れて両方凄ぇこと宣言した気がしたが……とりあえず壁殴りてえ。つか取り残されたオレどうすりゃいい? 後からすっげえ恥ずかしくなってきたんだけど!? しかも今しがたの告白をちゃっかりリピートしてるもう一人のオレが羞恥とは別の謎絶叫してるせいで、テンションの持ってきどころが今かなり迷子になってる。

 遅れて熱くなる顔を押さえて一人壁にめり込みかけていたが、そもそもの疑問を――なんで突然虹だなんて言い出したのかを聞き損ねたことに気づいて空を仰ぐ。だが性格面はともかく、そこに至るあいつの思考回路は未だ読み切ったことが無い。考えはしたが結局三秒で諦めた。

「――そういえば」

 疑問解決の代わりに別の記憶が蘇る。そうだ、そういえばオレがパイロットになりたかったのは〝本物の空〟を見たかったからだ。誰かが秘密の宝物だと言って見せてくれた古い本に、確かシェルターの外に広がる本物の空の写真がたくさん載ってて、その澄み切った縁無しの色彩に魅了されて、無邪気に希望を書き綴って――……あー、担任だった先生に叱られたんだよな。言葉遣いこそ柔らかくて顔は笑ってたけど、有無を言わさぬ怒気はしっかり肌で感じ取れて、作文は家に帰った後すぐ破って捨てたんだっけ。あと家庭訪問でもなんか注意された気がするし、幼心にあれは辛くて必死に忘れようとしたんだよなあ、たった今思い出しちまったけど。つかあいつのこと馬鹿にできる立場じゃなかった。すまん。

「虹、か」

 もし本当に夜空に虹が生まれて、それで皆が〝本物〟に気づいたら天は復活するんだろうか。この屋根を壊して――飛べるんだろうか。あの儚くて鮮烈な青の中を。

 意識せずまた笑っていた。やっぱり今回は、オレがあいつを振り回す側かもしれない。




 あいつの向かいがオレの家だ。自宅の真ん前であんなこと口走ったのか、と同じように部屋に戻ったところで再び赤面していると携帯電話が震えた。黒の二つ折りディスプレイにはさっきまで一緒にいた幼馴染みの名前。届いたメールを読んでみると。


『赤ランプの代わりに何使えばいい?   和香奈』


 結局気づかなかったらしい。呆れるというからしいというか、やっぱりこいつは〝キャラの読めない変人〟だ。


『メガホンの拡声器でいいんじゃね?   浩太郎』


 返信して、人知れず笑う。あいつは本気だ。人生丸ごと受けとめる覚悟ならオレだってとっくの昔に固まってる。真面目に作戦聴いて、良くない頭をフル稼働して不安な点は練り直して、用意周到に準備したら必ず実行してやろう。それが暗黙の非現実を破壊するもので、非難や謗りや嘲笑に身を曝す羽目になるとしても上等だ。全部相手してやろうじゃねえか。


 ――オレはワカナと、虹を見たい。

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