『歯車水晶』Gears／Quartz

第一話『時計塔奇機怪械』ビッグベン・ダブルファントム

『さあさあ、やっとご到着だ！　長旅ご苦労様、ザザ！　ついに、ついにやって来た！　ザザ、ロンドンだよロンドン！　倫敦（ロンドン）！　世界の中心（ロンドン）！　蒸気機関の摩天楼（ロンドン）！　いやあ胸が高鳴るじゃあないか！

　　え、なに？　あぁうんそれは言わないでくれ、如何にもどころかそのままだ、都会に初めて来たお上りさんだ！　自覚しているとも！　だけどあぁ、ザザ！　嵐の夜（ワイルドハント）！　此処に、この街に、自分たちが求めたモノがあるんだ、興奮もするだろう！　

　なに、宿の心配はしなくていいよ、自分は抜け目無く予定も資金も注ぎ込んだ！　

　さあ行こう、往こうザザ！　このＤ＝オータムバインとキミの、待ちに待った物語の幕開けだ！　

　――うわあ！？　なにあれ！　あっ！　ねえザザ、ザザ見た！？　鉄馬（くるま）だよ！　本物！　凄いねえ、わたしたちの住んでた田舎（ウェールズ）では結局最後まで見なかったから……こほん。失敬失敬。あまりの感動に化粧が落ちてしまった。自分もまだまだだな！　

　でも、思い出すねザザ。キミとふたり、荷車を押して引いて機材を運んでいた頃を！　

　え？　あぁうん。自分は荷台に乗っていて、荷車を引いていたのはキミだけだ。いいじゃないか、細かいヤツだなあ！　

　ともあれ倫敦！　お待たせしたね！　オータムバインとワイルドハント、ただいま参上仕（つかまつ）った！　遅れたのにはきちんと理由があってね、ちょっとした自己紹介も兼ねて野盗退治をしていたんだ。この街が平和になるのなら、その位の遅れは許してくれるだろう？　うん、寛大な心に感謝する！　

　では、行こうザザ！　これが、ふたりの第一歩だ！』