十五本目 ~大阪駅前第3ビル、ロイヤルゲームセンターの『怒首領蜂』~

「ちょっとは人通りが戻ってきたかな」


 仕事帰りに梅田の地下街を歩く人々を眺めて、少しホッとする。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除され、長らくシャッターを下ろしていた店も徐々に開き始めた。とはいえ、客足はまだ七割程度といったところだ。


「あっ」


 晩飯にと、行きつけだったインドカレーの店を訪れると看板が外されていた。やはり飲食店にとっては、あまりにも厳しい自粛期間だったのだ。いや、飲食店だけではない。


「あっちも様子を見に行ってみるか」


 心配になった私は、ある店を目指して地下街を進んだ。


※ ※ ※


「よかった、営業再開してる」


 レトロな看板に「ロイヤル」の文字。ここは大阪駅前第3ビルに居を構える、来年で創業四十年を迎える老舗のゲームセンターである。


「梅田のビデオゲーム専門店は今や希少だからな。ここに潰れてもらっては困るんだ」


 梅田といえば、かつてはゲームセンターの宝庫だった。第4ビルの地下にはプレイシティキャロットが、堂山の地上にはプラボがあった。モンテカルロは3店舗で営業していたし、百又ビルの地下ゲーセンで映画の上映開始を待つこともよくあった。だが、そのほとんどが今では姿を消してしまった。


 このロイヤルは、全盛期には二十近くものゲーセンがひしめいていた大阪駅前ビルの中においては、それほど目立つ存在ではなかった。特に派手なイベントをするでもなく、新作ゲームの対戦が特別に盛り上がっているわけでもない。けれど、いつ訪れても筐体のメンテはよく、古いゲームを流行に流されず長く置いてくれる……そんな安心感があった。信頼と言い換えてもいい。それが、四十年もの長きに渡って愛され、生き残ってこられた秘訣なのかもしれない。


「さて、何で遊ぶかな」


 格闘ゲームにシューティングゲーム、ベルトスクロールにパズルに麻雀に……往年の名作たちが時代を超えて並んでいる。たった百円でよりどりみどりだ。


「最近ハマっているのはテラクレスタとR-TYPEⅡだが……」


 初めて遊ぶゲームはすべて新作であるという言葉に従い、ここらでまだ手を出していないタイトルに挑戦してみたくもある。しかし、せっかく久しぶりに来たのだから、いまだ家庭用移植の無い『19XX』にも惹かれるところだ。


「うーむ……」


 と、悩んでいるところに目についたのは、画面を覆い尽くす弾、弾、弾。元祖・弾幕シューティング『怒首領蜂』である。


「学生時代によく遊んだな。久々にやってみるか」


 四角い椅子に腰掛けて筐体に向き合う。私にとってはこれがゲーミングチェアだ。百円硬貨を投入すると、まずは自機の選択画面が表示された。三種類の中からCタイプのレーザー強化型を選ぶ。レーザーに貫通能力があって使いやすいというのもあるが、極太レーザーの美しさが昔から好きなのだ。


 ステージ1。


 順番に撃ってくださいと言わんばかりに並んだ敵戦車を、コンボが途切れないように少しずつ壊していく。


(おっと、このオレンジの中型機は弾をたくさんバラまいてくるんだったな)


 すばやく自機を移動させて破壊する。弾幕シューティングというジャンルは、一見するとすさまじい反射神経で弾を避けているように思えるが、本当に危険な攻撃は撃たせないのが攻略のポイントである。


(それにしても、覚えてるもんだな)


 プレイと共に忘れていた記憶が蘇る。年をとると二十年以上前のことなんて大抵はあやふやだ。なのに、この指はゲームと出会うことでいとも簡単に古ぼけた引き出しを開いてくれる。ロイヤルというゲームセンターは、店そのものがタイムマシンなのだ。


(確か、この左右のオレンジ色したコンテナをボムを使わずに全部壊すのが1UPアイテムの出現条件だったよな)


 敵戦艦の砲撃をかわしながら、コンテナを一つずつ破壊し…………くそ、弾幕が激しくて難しいな。


(なんとか取れはしたが、しかし随分と下手くそになったもんだ)


 使わない技術は錆びるし、年と共に反射神経だって衰える。いつまでも記憶の通りに動けはしないのだ。


(なんとかステージ5だ)


 このステージはとにかく敵の数が多く、結局、当時は最後まで明確なパターンが作れなかった。つまり、気合で弾幕を避けるしかない。


(さすがに厳しいな……!)


 敵機の猛攻にじわじわとボムと残機が削られていく。そしてボスを前にしたところで、ついに1UP分を含む4機が消滅し、ゲームオーバー……と思いきや、間髪入れず次の機体が出撃した。


(5機設定! リハビリ中のプレイヤーにも優しいロイヤル仕様、ありがたく使わせてもらおう!)


 どうにかボスを撃破し、いよいよ最終面だ。ここまで来ると、さすがにカンが戻ってくる。記憶を辿りながら敵機をかいくぐり、ついに最終ボスと対面する。


(……っ!)


 高速で襲いくる弾幕の中から、瞬間的に「道」を見出して自機を誘導する。脳に走った電撃をダイレクトに画面の中の自機へと接続することで、コンマ数秒の判断を実行に移す。こんなことができるのも、遅延の無いブラウン管モニタを使っているゲームセンターだからこそだ。


「~~~っ! ……だめかぁ」


 結局、あと一歩のところでゲームオーバーになってしまった。クリアを目前にして、実に悔しい。


「……けど、これでいい」


 また、ここに来る理由ができたもんな。


 さて、次はどのゲームで遊ぼうかな。


-おわり-


※ ※ ※ ※ ※


本作品では基本的に実在店舗の名称は出さない方針でしたが、今回は著者が日頃お世話になっている店舗を(勝手に)応援したいという気持ちで書きました。皆様、是非ロイヤルへ遊びに行ってみてください。とても良いお店ですよ。


https://royalgamecenter.com/

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ぶらり、ゲームびより 権俵権助(ごんだわら ごんすけ) @GONDAWARA

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