暴君

―――ホ別セーフ逆可5以上

今日もアプリにボクの美しい姿を載せ、集まってくる異常動物達を見てほくそ笑む。

ボクの王国に転がり込んでくる哀れな子たちは、自分の姿を私に見てもらおうと必死にボクに写真を送りつけてくる。多くはボクとの階級の違いを知らない、ボクの王国には必要がない豚共。見るだけで嫌になる。誰とでもヤると勘違いしてる醜い愚か者はたとえ下賤な国民であってもボクには必要がない。今日の獲物は誰か、舌なめずりしながらズリの中から宝石を探し出す作業に明け暮れる。

人を支配するという行為、それはとてもボクの心を満足させてくれる。

ボクの心に闇は渦巻いていない。ただ存在しているのは快楽を求める本能。その本能も動物的な感情とは程遠い。動物達の中に存在しているのは子孫を残すという本能のみで、それが奴らの脳を快楽という餌で騙している。二つの鎖に騙され、反射だけで生きる哀れな存在達。でもボクは人間だから奴らとは違う。そう、ボクの王国に動物はいらないんだ。そんな下等な存在は必要ない。異常動物かもしれないが、生命という形の檻から解き放たれ鎖を断ち切った霊長のみがボクの王国の住民になれる。

入国審査をしていると、一人の男が目に留まる。アラサー、国Ⅰの官僚、イケメン、高身長。頭がいい男、それで且つカッコいい男は好きだ、ボクはすぐに入国許可の印を押す。


「今日はどっか行く?ナンパしに行こうぜ」

6限目を終えると、ボクはクラスの男から話しかけられる。言っただろう、ボクは頭の悪い男は嫌いなんだ。折角、そんな奴らがいないようにとわざわざ家から遠い、偏差値の高い高校に入ったのにいつもこうだ。多分、ボクがいれば女が寄ってくるだろうとでも思っているのだろう。でもそれはお前達が引き寄せてきたモノじゃないんだ。そんなおこぼれに預かるスカベンジャーのようなことをして惨めにならないのか、とボクは一瞬思った。でも、彼らはそもそもボクとは違う。生まれつきスカベンジャーなんだ、屍や狩猟者のおこぼれを漁る、醜い存在。実際の処、同級生を誑かしてみたいという欲求もなくはないが、残念ながらこの高校にはボクの王国の査証を持った男はいない。

「今日は用事があるんだよね」

適当にはぐらかして、ボクは動物園をあとにした。


待ち合わせの場所に向かう間はただただ不快だ。

汚い世界、仕事に追われた醜い豚共が闊歩する養豚場。まだ早い時間帯だが、それでもアルミで作られたソーセージは少しずつ肉が充填されていく。薄皮に穴が開くと、密着していなくても強い圧力で押し込められていた肉が逃げ場を求めて外へと溢れ出していく。形が変わらないソーセージはまた新しい原材料を詰め込み、どこかへと走り去っていく。

ボクに従わない弱者達の背を追い抜いていく。何故こいつらはボクの歩く道を開けないのだろうか。振り向いてみると、ボクの歩いた軌跡は道になっている。それもそうだ。両性が羨む美しい顔、どんなに頑張っても誰もが手に入れることのできない綺麗な肌。ボクの髪は覇者のマントのように、民衆の心に位の違いを刻み込む。そんな英雄のペニスは今宵の獲物を求めて既に固くなっていた、同性の誰もが羨む存在感を示しながら……。


「えっと……」

待ち合わせ場所につくと、きょろきょろと周りの目を気にしながら一人の男がボクに話しかけてきた。

「そうだよ」

ボクは笑みを浮かべ、彼に目をやる。品定めをするように頭から、足の先へと、ゆっくりと。加工をする奴は少ないから、すぐに首より上の部分には合格の印を押す。スーツも高いものを着ているし、時計もいいものをつけている。靴も磨かれている。うん、彼は国民になる資格がある。ボクは自然と頷く。

それにしても、人間とは面白いものだ。何故だか知らないが、他の生物とは違うと思っているにも関わらず生物であろうとするからだ。でも、そうではない者たちもほんの一握りではあるが確かに存在している。彼みたいなある意味理想的な男なら恋人くらいすぐに作れるだろう。もしかしたら彼の両親は彼に結婚しろと毎日のように呟いているのかもしれない。でもそんなあるべき姿というくだらない枷を壊して、自分の中に宿る人間という輝きに目を向けボクの王国への移住を求める彼は、そういう所も合格と言ったところか―――まぁそういう男しかボクの王国への移住を許可しないのだが。

彼はさっそくホテルへと向かいたいようでボクの体に行先を教えるように触れる。ボクはすぐに彼を睨んだ。なんで勝手にボクの体に触れているんだ?王者としての正しい対応だ。お前は国民で、ボクは王。お前はボクの許可なく身体に触れてはいけないんだ。正直に言えばこのブレザーなんてボクに相応しくない服で多少汚れても構わないのだけど、そんなことよりも上下関係をしっかりと認識してもらう事の方が大切だ。

まぁこれくらいは許してやってもいいか。大体の男がそうなんだ。ちやほやすればボクを自分だけのモノにできると勘違いしている。身体を売っているような男子高校生はどこか心に闇を背負っていて、それを優しく埋めてやれば自分の愛玩動物になると、哀れにも思い込んでいる。金を取っているのはただの国民税に過ぎないことを理解していない。王は豊かでないといけないから税を徴収している、それだけなのに。

ボクの王国では、王であるボクが国民を選ぶ。そして国民が心から王を敬い、税を納める。選択権があるのはボクの側なのだ。それなのに、選ばれたことで気分が高揚しているのか知らないが、誰もが最初は勘違いしている。愚かにも自分が支配する側だと……。だが、それも最初の数時間だけだ。それはあたかも独裁者が最初は民のために戦っていると騙されていた国民のよう、すぐに知ることになる。


この辺りのホテルは誰が入ろうと気にしない。そういう街だからだ。

部屋に入ると早速ボクは彼のネクタイを掴んで顔をこちらに引き寄せて目を見つめる。

「さぁどうしたい?ボクを犯したいのか?それともボクに犯されたいのか?」

彼の耳元で高圧的に囁くと、また彼の瞳を見つめる。ボクはこの一連の行為が好きで、どんな時でも行っている。鎖で繋がれた犬に上下関係を刻み込むようで、ボクはとても興奮を覚える。その後で目を見ればすぐにわかる。彼の目は既に上下関係を理解していた、私を敬う気持ちを瞳に込めてこちらを見ている。考えてみると、見て確認する必要すらないのだ。ボクに逆らうことが出来た男はいない。

「君みたいな子と、これまでいつも妄想してきたような子とできると思っていなくて混乱してて……」

知性が興奮によって覆い隠されてしまったような言葉を紡ぐ姿を見るだけでボクはとても満足する。彼の言いたいことはとても分かる、ボクは美しいからね。恐らく性という枠組みを超えて、生物という鎖から解き放たれ、そして多くの精を奪ってきたボクは何よりも魅力的だろう。

「まずは……えっと……舐めさせてもらってもいいかな?」

ふふっ、とボクは軽く笑って性器を彼に見せつける。遠慮しがちに聞いてくるようになって、なかなか立場の差をわきまえるのが早いじゃないか。彼は早速ボクに対する奉仕を開始した。うん、なかなかうまいじゃないか。

「ヤり慣れてるね、完全にこっち?」

頭を撫でながら、彼の奉仕を堪能する。ボクの顔色を伺いながら、愛おしそうに接吻をしたり、舐め上げたり吸ったりして、ボクがどういったオーラルセックスを好むのかという事を分析していく。これは完全にこっち住んでいる奴だな。過去にステディがいたか、出会い系で何人も食ったか、そのどちらかは分からないが、回数はかなり多いだろう。ボクはすぐに理解した。

ボクは過去に誰とやったかとかそういったことを咎めたりはしない。ただ望むのは、ボクに傅いてくれること。それだけでいい。だってお前はすぐにボクの奴隷になるんだから。

それにしてもこの構図はたまらない。ボクに跪いて奉仕をしているというこの光景は視覚的にもボクの心を刺激する。

「ん、そろそろいいかな。さっさとやろうぜ、どっちがいい?」

ボクは彼の顔を離そうとしたが彼は強くボクの腰を掴んで離さないようにする―――駄犬。ボクの頭にそんな言葉が過る。まぁこれぐらいはいいか。彼は完全に精を絞り出すための動きへと転換していて、ボクは程なくして彼の咥内に精をぶちまけた。

脈打ちながら射精を続けてる間、彼は微動だにせず恍惚とした表情でボクを受け止め続けていた。口の中で一頻りボクの精を味わうように転がした後に咽喉を鳴らして飲み込むと、彼は謝った。

「ごめん、でもどうしても飲みたくて……」

そんなの、後からいくらでもできるだろう。なんでボクの言う事を聞かないのか。でも謝ったから許してやってもいいか、そう思いボクは彼の口に指を突っ込む。

「ほら、しゃぶってないで口開けな」

彼はボクの意図を理解していなかったのか指をしゃぶり始めたので言葉で理解させると、彼の口にペニスをねじ込み尿を注ぎ込んでやった。その間も彼は反抗しようとせず、恭しくトイレの役を全うした。なかなか物分かりがいいじゃないか。


彼は便器の役を終えると、ボクの手首をつかむ。

「我慢が出来ない犬だな……。なんだお前タチか?」

「いや……君みたいな子が相手なら犯されてみたいという興味はあるんだけどその……」

「開発してねえんだな、いいよさっさとヤろうぜ」

その言葉は彼の鎖を解き放つ、彼の四肢を拘束する枷の鍵となる。ボクを押し倒し、彼は喉元に手を這わせネクタイを解こうとするがうまくいかない。自分のネクタイを解くのには慣れてはいるが他人のそれを解く機会なんてそうそうないからこれも仕方ないか。

「ボクの肌を触りたければボタン外して触ってくれていいんだぜ」

彼はボクの首筋を舐めながら、ボクの肌を少しずつ露出させていく。砂漠をあてもなく放浪し続け強い喉の渇きに殺されそうになった男がオアシスを見つけ水を必死に啜るようにボクの体を貪り始める。蜃気楼とは違いボクの身体は、肌はそこにある。

「がっつくのはいいけどゴムは忘れんなよ」

「君に迷惑をかけるつもりはないから……」

その言葉を聞いてボクは鼻で笑う。


彼は上手い。何をすれば受け側が気持ちよくなれるかをよく知っている。岩肌を少しずつ叩いて音を聞きながら、どこに鉱石があるのかをゆっくりと探っていく。ボクの快楽の鉱脈にたどり着くと最初は優しく、傷つけないように掘り出していく。そして少しずつ、二人で快楽を分け合えるように動きは激しくなっていく。そうなってくるとボクの脳内で火花が散り始める。身体と理性を繋ぐ回路は焼き切れ、ボクの性器は透明な、でも粘リ気のある液体を流し始める。へその方にそれがたどり着くころには既に冷たくなっているのだが、それすらも気持ちがいい。

体中の全てが敏感になり始めると彼の方も完全に自分がエクスタシーを迎えるための動きへと転換し、ボクの中を深く、激しく暴れまわる。ボクの上げる声、喉から出る声、息の音、身体の微弱な震え、その全てが彼を勘違いさせ始めている。

彼が騎手でボクが馬、或いは、彼が船長でボクが船。彼はボクを支配できたと勘違いしているのか、満足げな表情を浮かべてボクを犯し快楽を貪る―――また一人、罠の中に引き摺り込んでしまったか。ボクは笑みを浮かべる。それさえも彼を勘違いさせるだろう。食虫植物の誘引物質におびき寄せられ体を溶かされる虫、光に引き寄せられ一瞬の内に生命活動を停止する羽虫。いや、人間さえもそうなんだ。誰もが罠に嵌って、何もわからずに死んでいく。

それは最もボクが興奮する瞬間。結局の所、ボクの王国にも生物らしいものしかいないわけになるのだけれども、ボクはそれを求めている。彼がボクの中で射精したのを感じると、ボクも時を同じくして射精した。





彼が疲れてベッドで横たわっている中、ボクが帰ろうとすると財布を取り出し厚みを感じる紙束をボクに手渡す。

「合格だよ、君はボクの王国の国民になる資格がある」

ボクはそう耳元で囁き、携帯電話の連絡先を記した紙を手渡すと部屋を後にした。ロマンチックな入国審査、与えられるおよそこの世のものと思えないであろう圧倒的な快楽、そして何よりも私は選ばれたと実感させる入国許可証の授与。誰もがそうしてボクの王国の国民となり、ボクを心から服い、ボクに全てを捧げるようになる。


ボクは暴君。多くの奴隷を囲い、この世の快楽を蒐めた宴会を毎日のように開く絵に描いたような暴君。自分は正常だと思っている奴らが集まった国の領土を、ボクの男女問わず惑わせる美貌で侵略する皇帝。征く先々で彼らの心を破壊し、凌辱し、何もかもを奪っていく。思えばボクはこれまで何人破壊してきただろうか。暴君はすぐに心ある誰かによって排除されるだろう。歴史は何度も繰り返す。だからきっと近いうちにボクは誰かに殺されるだろう―――でもそれでいいんだ。何故ならボクは、美しいまま死にたい。反省もせず、後悔もせず、暴君のまま死にたいんだ。

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蒐集癖 姫百合しふぉん @Chiffon_Himeyuri

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