謎解きは二つ、『幻術』の仕組みと『事件』そのもの。

タイトルを見て、クリスティの『ABC殺人事件』を連想する方が一定数はいるかと思います。真っ先に思い至るのは、題名の必然性と内容への疑問。

ミステリ・ファンや内容を熱心なミステリ宣教師から聞きかじったことのある方なら、思わず「にやっ」ときてしまうような読み心地の良い要素が散りばめられています。

ミステリ? 難しそう...と云う方もご安心を。この作品、筆者の寛大さが成せる技なのか、ヒロインの下着をガン見出来ちゃいますから。素晴らしいです、ワインレッド。

本作の特筆すべき点は、探偵役と助手役の立ち位置。
王道のミステリにおいては読者は助手役に感情移入し、ある種の天才的変人たる探偵役の推理を拝見する訳ですが、テンプレートと意図的に外している点が新鮮です...!

なんと、主人公が犯人(ここまでは既存の手法)で、ヒロインが教唆犯(ここまでは既存の手法)で、ヒロインが摩訶不思議な色彩現象による事件のトリックを本人に直接突きつけます(仰天しました)。この手法には驚きました。

ヒロインと共に色彩学に基づいた推理をしつつ犯人たる主人公のを掘り進めていく形式でありながら、それに留まらず、そもそもの発端となっている事件を解き進めていく形式には、思わず納得してしまいました。

最初は「本末転倒感が否めない...?」とも感じましたが、下記の理由から払拭されました。

ミステリにおいて、探偵役が犯人を特定しその手段を暴いてしまえば、事件は幕を閉じ、然るべき捜査当局によってお縄に掛かってしまうのが常識的と云えるでしょう。どんなに犯人が魅力的でも、探偵役が謎解きを完了してしまえば暫くはムショ暮らし。再登場を短いスパンで組むのも困難です。

しかし教唆犯が実行犯の手段を理解しようとする形式で描かれていることにより、主人公の犯人としての魅力を描きつつ、追うべき謎へと徐々に迫る構成は目から鱗でした。

ライトノベル的なキャラの配置と設定で、読者層の多くを取り込み、やや純文学的な作品背景と、色彩学と云う独特の学問を組み込んだファンタジーを盛り込み、コンセプトはミステリに恥じない構造に成功している手腕には惚れ込みました。

結末も奇をてらい過ぎず、むしろ、だからこそ『幻術』の方に意識ばかりを取られてしまい着地点まで気を向けられなかったことに対する「やられた」感の正体は、ひとえにまさしく筆者によるイリュージョンでしょう。

以上、EP.1を楽しく読めた感想でした。
続きが更新中のようで、そちらも楽しみです。


ところで光源の調整士は、もっと下衆い方向に『幻術』を使わないのかな...。下着の色で性格傾向を推察する阿保くん(阿呆ではない)の活躍に、そわそわしながら、そこはかとなく期待しています...!

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