あたしを必要としてくれる人は、青い水をくぐり抜けた向こう側の世界にいた

大事なものなんて何ひとつないような毎日。
高校進学と同時に一人暮らしを始めたのは、
父が再婚したせいで家に居づらく感じたから。
派手めな友人たちとの付き合いもうわべだけ。

そんなマオを必要とし、強く喚ぶ声があった。
取り壊し間近の旧校舎のプールの向こう側、
異世界の王国、海に囲まれたシェルスフィア。
気付けばマオはずぶ濡れで“そちら側”にいた。

シェルスフィアの呪われの少年王、シア。
誇り高く、どこか危険な海賊船長、レイズ。
王命を至上とする謹厳な王国騎士、クオン。
守り守られる人々との出会いがマオを動かす。

「異世界トリップ・ラヴファンタジー
 逆ハー要素あり、女性向け。」

と表紙に謳われる作品は、ほぼ初めて読んだ。
ラヴとハーレム要素と女性向けは苦手分野だが、
本作にはアレルギー反応が起こっていない。
マオが意味もなくモテるだけの話ではないからだ。

海に住まう神、王族の意義、人権や社会の在り方。
マオはひとつひとつを知りながら、自ら考え、
選んで行動し、大事なものの存在に気付いていく。
自分がこの世界にとって何者であるか知っていく。

15歳の少女が1人の人間として成長する姿と、
平凡な人間が神秘の力を自覚し会得する姿と、
読者はそれらを目の当たりにし、納得する。
これを間近に見れば、そりゃ惚れるよね、と。

神の加護を失い、呪いを受けたシェルスフィアに、
隣国アズールフェルとの戦争の危機が迫っている。
王の異母兄や“こちら側”出身の魔導士の思惑と、
姿を消した神々の意志に、マオはどう応じるのか。

神に近しい一族の末裔イリヤを得て船出し、
海神の一柱トリティアの意志と語り合い、
物語は今、緊迫感を増して目が離せない。

マオの成長と決断、恋の行方、世界の行く末、
これからクライマックスがどうなっていくのか、
更新を楽しみにしています。