第59話

 聞きなれないアラーム音が鳴って目が覚めたのは朝6時半のことだった。私はまもるに抱きかかえられたまま一夜を過ごした。しかし私がアラームを止めても、葵はまだ眠っていた。

「葵、おはよう。早く起きないと集合時刻に送れちゃうよ」

「んん…実梨みのり、おはよう。そして、誕生日おめでとう」

「ありがとう。さあ、さっさと支度しようよ」

私はシャワーを浴びて着替えると、自転車で最寄りのコンビニへと向かった。二人分の朝食を調達して戻ると、葵もシャワーを浴びて着替え終わったところだった。

「ちょっと葵、私まだ昨夜の魔法のような高揚感でドキドキしっぱなしよ。私がきちんとドラムでリズムをキープできなかったらどうしてくれるのよ」

コーヒーを口に含んで、葵は応えた。

「本当にそうだったらごめん。でも俺もそれは同じだよ。だからお互い様、共同責任ってことで、ね」

 葵と二人で自転車のペダルを漕ぎ、集合場所へ向かった。感じる風やにおい、小鳥のさえずり、風景、すべてが今までと違って見えた。

 「おはよう実梨ちゃん、そして誕生日おめでとう!昨夜はどうだった?」

「ありがとうかなちゃん、それより葵から聞いて本当にびっくりしたわ。まさか奏ちゃんがそういうことに協力してたなんて」

「実梨ちゃん、シーッ!ここはみんながいるから、ね?」

いたずらに笑う奏ちゃんは、なんだか憎めなかった。


 千人規模の公立ホールの客席はまさに満員御礼という言葉が似合うくらい、観客で埋め尽くされていた。新体制吹奏楽部とアンクラの第1回夏季定期演奏会のプログラム最後の曲目が終わり、アンコールの拍手が鳴りやまない。そこで遼弥りょうやくんがマイクを握り、お礼のあいさつと新体制になった自分たちをこれからもよろしくお願いします、と言うと、もう一度拍手を受けた。そして正指揮者の穂香ほのかちゃんが再び指揮台に立ち、タクトを振り始めた。イントロの終わり、紗絢さあやちゃんが奏でるチャイムに続いて私はドラムセットをタタタッ、と鳴らした。私たちの永遠のシンボル、「オーメンズ・オブ・ラブ」のサウンドが会場を一体感で包み込んだ。もう私たちに、悪い予感はない。これからもずっと、いい予感ばかりでありますように。

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明日は恋の予感が待っている 仲乃海幸 @pure_novelist_nm

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