★
0
概要
一度も撃たなかった戦車と、前に進めない僕の、八十年目の夏。
浪人一年目の夏。
宮下進は予備校の夏期講習から逃げるように、祖父の初盆を口実に山あいの町へやってきた。
押しつけられた納屋の片付け。ブルーシートの下から出てきたのは――旧陸軍の戦車だった。
「三式中戦車、千縫であります!」
砲塔の上で敬礼したのは、ぶかぶかの戦車兵の服を着た少女。八十二年前に生まれた戦車の付喪神だという。本体から十メートルしか離れられない半人前で、錆を落とせばくすぐったがり、アイスを食べれば敵襲かと騒ぐ。
千縫は、亡くなった祖父と十年ものあいだ、毎晩この納屋で話していたらしい。そして本土決戦の切り札として生まれながら、一発も撃たないまま終戦を迎えたことを、ずっと恥じていた。
七十年以上、祖父がひと月も欠かさずつけてきた整備日誌。そこに一枚だけ欠けたページがある。
宮下進は予備校の夏期講習から逃げるように、祖父の初盆を口実に山あいの町へやってきた。
押しつけられた納屋の片付け。ブルーシートの下から出てきたのは――旧陸軍の戦車だった。
「三式中戦車、千縫であります!」
砲塔の上で敬礼したのは、ぶかぶかの戦車兵の服を着た少女。八十二年前に生まれた戦車の付喪神だという。本体から十メートルしか離れられない半人前で、錆を落とせばくすぐったがり、アイスを食べれば敵襲かと騒ぐ。
千縫は、亡くなった祖父と十年ものあいだ、毎晩この納屋で話していたらしい。そして本土決戦の切り札として生まれながら、一発も撃たないまま終戦を迎えたことを、ずっと恥じていた。
七十年以上、祖父がひと月も欠かさずつけてきた整備日誌。そこに一枚だけ欠けたページがある。
おすすめレビュー
書かれたレビューはまだありません
この小説の魅力を、あなたの言葉で伝えてみませんか?