近況ノートの文字制限にかかったので続きを少しだけ……。
「で、初のクエストは失敗に終わったと」
「そうなんです。マスターの紹介してくれたあの人、全然戦ってくれないんですよ。なんでなんな人を紹介したんですか?」
病院で繭から解放されたオオカはそのままルイードの酒場まで自分の足で戻って来た。
繭の中では音も光も遮断され、外の状況はまったくわからない。しかし揺れる動きだけはわかるので、自分がどこかに運ばれているのだけは感じられた。だが、それがキンによって運ばれているのだとわからなかったオオカには、繭にヒビが入り、病院の天井と人工の明かりや医者や糸を無害なものに変えた錬金術師の心配する顔を見るまでの二時間近く、ただただ恐怖しかなかった。
「でも、それだけの怖い体験をしながらお客さんは五体満足で戻ってこれたんですよね」
初の冒険で、最低ランクの簡単な依頼だからと安心して出かけ、そのまま帰ってこない冒険者や帰って来ても仲間や体の一部をなくす冒険者はいる。もちろんほとんどの者は無事に依頼をこなして戻ってくるので少数の話だが。。
少しの油断や知識、準備など対策が不足していることで失敗してとんでもない事になる、常に死と隣り合わせ、それが冒険者という仕事だ。そしてその死のリスクは初心者の方が多い。経験をへた冒険者は自分の限界を理解し、無謀な事をせずに堅実な仕事をこなすが、初心者はその限界がわからずに体力の限界まで活動したり、自分の処理限界を超えた数を相手でも逃げずに戦おうとする。
そうして本当にどうしようもなく、逃げる事も出来ない状況になって判断に誤った事に気付くのだ。運がよければそこで仲間や体を失いつつも生き延びられるが、運が悪ければ人生の終了だ。
「いくら最低ランクの安全な仕事を選んだとはいえ、初心者との二人組だ。しかも話を聞く限りではあの遊び人、本当にただ遊んでただけでお客さん一人での冒険と言ってもいいんでしょ。初心者一人で無事に戻って来た。これだけで十分な成果と言えませんか? そこで依頼の達成まで望んじゃ欲張りってもんですよ。これは自分の勝手な想像ですがね、あの人はお客さんに冒険の厳しさと危険性を教えたかったんじゃないですかね。その上でまだ冒険者を続けるかはお客さんの判断に任せるつもりなんでしょ」
「あの人がそんなつもりで……」
オオカはステージ上のキンを見た。
「お前が風になるな~ら、果てしない空になりた~い」
ゆったりとしたテンポの曲が演奏されている。マスターが語ったのは彼の想像だ。実際の所はわからない。
だが、依頼は失敗したが実際に自分は無事に戻ってくる事ができた。その事実がある以上、マスターの目に間違いはなかったという事だろう。
本人の口から何もない以上、実際にあの遊び人の考えはわからないのだけど。
「も~わかんない。一体なんなの、あの遊び人」
曲を聞きながら悩むオオカだった。
◇◇あとがき◇◇
はい、というわけで今回はサクラから、桜吹雪の彫り物で有名な「遠山の金さん」こと遊び人のキンさんのお話でした。ちなみに領主のロウ・フォーゴルドは
遠山金四郎の金四郎を逆にして少し英語にしたものです。はたして遊び人と賢者の関係とは……。ここまで言えば後はいいでしょう。
作品内でキンさんが歌っていた歌はとあるアニメのファイヤーでボンバーなロッカーの歌の一部を使わせてもらっています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
続きがあればいいな~