• 異世界ファンタジー

VRMMOの続き とんで最終回

「このゲームが……リアルの世界?」

 マザーの言葉に驚く僕達。今まで現実だと思っていたあの世界が仮想現実で、こうしてゲームだと思っていたのが現実だったなんて……。

「あ~ダメ、私訳が分かんないよ。アカ姉ヘルプ」

 隣でミドリちゃんが頭を抱えてしゃがみこんだ。

「???」

 アカネさんも意味不明という顔をしてこちらを見ている。すみません、僕にもわかりません。しかしその困り顔も可愛いな。こっそりスクリーンショットに納めておこう。うん。

「マザー続きを頼む。ミドリも話を聞いて行けばわかるかもしんないし、今は黙って聞いておこう」

 トッポがマザーに話の続きを頼む。

「はい、では――」

 正確には「エンドワールド」も仮想世界の中なのは同じらしい。ただし、現実の世界を再現した仮想世界だが。
 このゲームの設定である戦争で荒れた世界。そして戦争から逃げて眠りについた人達。それが僕達の本体という事だ。
 戦争から数百年が過ぎて、ようやく外が人間の暮らせる環境になった事を察知したマザーは人間を起こそうとした。
 だがその時に考えたのだ、今ここで人間を外に放ったらまた戦争で人の住めない世界に逆戻りするのではないかと。
 自分に与えられた使命は「人が安全に暮らせる世界になったら人間を起こす事」だ。だから起きた人間が戦争を始めたらそれは人が安全に住める環境ではなくなる。
 なのでマザーは復活させる人間を絞り込む事にした。まずは平和だった二十一世紀の仮想世界を作り出し、そこでここに眠る人達がどのように生活するかを観察。
 次に現実と同じ世界を再現して、この獣や殺人ロボのいる厳しい環境でゼロからでも生き残れるのかを試したらしい。

 そうして観察していく中で、僕達は起こしても大丈夫だろうと判断したのでこうして真実を話してくれたようだ。
 僕達は一番手で、その後に二組目、三組目と次々に現実に目覚めていくらしい。

「さて、ここまで聞いてどうしますか? 目覚めて何もない現実世界を生きるか。ここでの話を忘れ、幸せな夢の世界に居続けるか。選んで下さい。私は貴方達の決定に従います」

 目覚めた世界ではスキルなんて無いから自力で獣と戦う必要や、家や畑を作ったりする必要も出てくるが現実世界でもマザーは僕達のサポートをしてくれるから安心して欲しいと言ってくれた。そのサポートアンドロイドの人工知能を育てるためにシュトリーやドラヤキがいたらしい。つまり現実世界でもゲームでの思い出を持って彼女達は僕らを助けてくれるわけだ。

「えっと、どうしようか?」

 僕は三人を見た。

「俺はお前達と一緒なら現実に目覚めてもいいと思うぜ。ここまで四人で頑張って来たんだ。「エンドワールド」を生き抜いたこのパーティーなら現実でもやっていけるだろ。たぶん!! それに、ドラヤキ達もいるんだろ、いけるって」

 さすがトッポだ。迷いなく目覚める選択をしたようだ。

「私の居場所はトッポ君のいる所だもん。トッポ君が目覚めるっていうならついてくよ」

 ミドリちゃんも目覚める派、というかトッポの選択に任せる派だな。

「えっと……ブル君はどうするの?」

 アカネさんがこちらを見ている。

「僕も現実で頑張ろうかなって。頼りになる相棒はやる気みたいですし」

 視線を移すと腕まくりして力こぶを見せているトッポが見えた。うん、コイツと一緒なら大丈夫だろう、おそらく。

「そう、そうなのね……」
「もしかしてアカネさんは……」

 全部を忘れて眠り続ける気なのかと言葉を続けられない。彼女の困ったような表情から嫌な予感がしてくる。

「え、アカ姉は起きないつもりなの?」
「それは……うん、今はまだ起きれないかな」
「なんで、一緒に行こうよ。ブル太さんを一人にする気なの?」

 ミドリちゃんがアカネさんの肩を掴んで激しく揺する。
 トッポが慌ててそのミドリちゃんを後ろから抱きしめ取り押さえた。ん? なんだかミドリちゃんが恍惚《こうこつ》とした表情を浮かべているぞ?
 あそこのバカップルはほっとこう。ここで爆発四散されても迷惑だし、今はアカネさんの方が重要だ。いや一年三百六十五日二十四時間常に最重要はアカネさんだな。あの二人などアカネさんに比べたら芥《あくた》ほどの興味もない。

「ごめんね、ブル君。三年、三年だけ待ってて。三年後には私も目覚めるから」

 アカネさんが僕に向かって謝る。

「三年……それって……」
「アカ姉、まさか……」
「年の事、やっぱり気にしてたんだ……」

 三年という言葉で三人とも彼女が気にしている事を理解した。三年、それは僕と彼女の間にある年齢の差だ。彼女以外はそんな事別に気にしていないのだが、やっぱり気にしてたのか。たかが三歳差を。
 そして自分だけ三年長く眠る事で年齢を揃えようって作戦らしい。

「でもいいのお姉ちゃん、三年もブル太さんほっといて。その間に私が奪っちゃうかもよ?」
「ないもん、そんな事絶対にないもん。ないよね?」

 いや、そこで潤んだ瞳で僕を見ないで下さい。空気読まずに抱きしめたくなるじゃないですか。無言でスクショ、スクショっと。
 それとトッポは僕を睨むな、言ったのはお前の彼女だぞ。

「僕はアカネさん一筋ですよ」
「だよね~。ほら大丈夫だもん」
「え~でも三年だよ? その間ブル太さんが若い性欲を我慢しきれるかどうか……。 ほら、私とアカ姉性格はともかく顔は似てるし。髪型とか似せれば……ねえ?」

 ここはゲーム内なので二人の見た目は違うが、姉妹なのでリアルでは確かに似た雰囲気がある。

「うっ……」
「三年後にはアカ姉叔母さんになっているかもね、彩香おばちゃんって呼ぶのは、はたしてどっちの子かな?」

 ミドリちゃんがさらにアカネさんを煽るような発言をする。僕を睨んでいたトッポは今度は「お前、大変だな」と言いたげな視線を僕に向けてくる。だからそれ言ってるのお前の彼女だからな? 何とかしろよ。

「やっぱり起きる。三年も待たせずに私も今すぐ、ブル君と現実に行くもん」

 僕の腕に抱きつくアカネさん、可愛い、頭撫でたい。いいよね、頭撫でるくらい許されるよね。えい、もう撫でちゃえ。

「はうぅ~。浮気はダメだよ。でもブル君が望むなら、一回くらい姉妹丼、してみる?」
「ちょっと、私の体はトッポ君のモノよ。あ、でもトッポ君が姉妹丼したいって言うなら三人でもいいよ?」

「「いやいや、別に望まないから」」

 なんだか会話のズレていく姉妹に対して男子二人の声が被った。
 彼女の妹で親友の恋人に手を出すとか普通になしだろ、いやそうじゃなくてもアカネさん以外に手を出す気はさらさらないが。

「ともかく、全員現実に行くって事でいいですか?」
「うん」「おう」「はい」
「と、いう事だマザー。僕達四人は現実を生きるよ」
「わかりました」

 僕達四人の意見はまとまった。そしてゲームから目覚める時の感覚と同じような感覚が襲う。

 そしてフタが開き見覚えのある場所。ゲームのスタート地点だ。

「おはようございます、ブルータス様」

 僕を見つめるシュトリーの顔。

「おはようシュトリー、ここってゲームでなくその……」
「はい、ここが現実です。その証拠にこちらをご覧ください」

 シュトリーは手に持った鏡を僕に見せた。そこに映るのは現実世界の僕の顔。ゲームの時と違う顔がそこにあってもそれが証拠になるかは不明だが?

「他にもオプションが開けない、スキルが使えないなどゲームで出来た事が出来ないのでそれも判断の材料としてお使いください」

 使えないからと言って、それは運営側が設定を変えて僕達に使わせないようにしているだけで、これはまだゲームの中かもしれない。そう疑おうと思えばキリがない。だってこの場所はゲームのスタート地点まんまだから。

「それと、リスポーンや欠損部位が簡単に元に戻る事もありませんので、戦闘をする際はお気を付けを。むしろ戦闘は私達にお任せください」

 そうか、現実って事は死んだら終わりだし、腕が切り落とされたら戻らないしそれで血を流し過ぎたらそれでも死ぬんだよな。

「わかった。獣や殺戮マシーンはシュトリー達に任せるよ。さてと、そろそろみんなと合流しようかな」

 僕の所にシュトリーが来たように、それぞれの仕えるロボットが主人の元に行っているだろ。さっと見渡せはそこにドラヤキ、あっちはコン兵とポンタ、そっか姉妹だから眠ったのも近くなんだな。
 僕はカプセルから出るとアカネさん、いやここが現実だとすると彩香か? のいるであろう所に向かって歩き出す。向こうではドラヤキの背に乗った龍次が同じ方向に進んでいる。

 まずは合流して、それから住処を決めよう。場所はやっぱり僕らのギルドホームのあった湖畔かな?
 衣食住を揃えて僕らの居場所をこの|終わりを迎えた世界《エンドワールド》に新たに作り出す。そして僕達のように起きてくる人たちを迎える準備をしなくっちゃならない。

 やる事はいっぱいだ。ここが本当に現実かまだゲームの中かなんて考えている暇はないぞ。
 とりあえず現実って事で、精一杯この世界で生きてやる。俺達の戦いはこれからだ!!

 END

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する