地下鉄へと続く階段のような入口を抜け外に出る。ゲーム開始地点である冷凍睡眠していた地下シェルターから抜け出し見えたのは赤いレンガの道とその周りに芝生の地面、マーライオンの噴水とそれを囲む花壇。その噴水を眺められるように設置されたベンチに「エンドワールドにようこそ」と書かれたアーチ状の入り口だった。
芝生では六対六でバレーをやってるプレイヤー。ベンチに腰を下ろし楽しそうに会話している男女のプレイヤーもいて、そんな様子の向こうには住宅地も見えている。なんか思ってたのと違うな……。
「う~ん、CMやオープニングの映像からもっと荒れ果てた廃墟と土むき出しの地面の世紀末な世界想像してたよ」
オープニングで流れた戦争の結果荒れ果て、人間の住めなくなった世界の映像や、CMでの建物は風化し植物がビルを飲む混んでいたり、水の中に倒壊した建物があったりする中をプレイヤーが走り回り遭遇した巨大な獣と戦っていたイメージが強く、まさか整備された普通の公園が待ち受けているとは思わなかった。
「最初はそうだったんだけど、それが少しずつクラフトされて今こんな感じだ。こっちで開始当初の状態の映像が見れるぞ、今とは大違いだぜ」
トッポが手招きしながら地下入口の横の看板に向かう。
トッポがそこに貼られたポスターに手を伸ばし、中心の再生ボタンのような横向きの三角ボタンを押す。
するとポスターが動画に切り替わった。
「はじめましての方ははじめまして、そうじゃ無い方は久しぶり、東城アヤだよぉ~。今回から『エンドワールド』をやって行こうと……」
カメラに向かって手を振る女性の姿。
「この声、それにこの名前ってゲーム実況者のアーヤ?」
何度か見た事のあるバーチャルなアバターで活動している実況者の人だ。役に立つ攻略情報やネットの情報を実際に検証して事実か確認しているゲーム動画をいっぱい出しているので自分がやっているゲームの攻略情報を集めている時によく利用させてもらっている。
この人も発売日当日に「エンドワールド」をゲットした幸運な人の一人だったのか。「エンドワールド」関係の動画は手に入れるまで見ないようにしていたから知らなかった。
「ああ、配信のために撮った中からこの辺の開始当時の映像だけ抜いて提供してくれたんだ」
映像の中ではアーヤがゲームへの想いを語りながら周囲を映している。そこには僕が想像したような崩壊した世界が続いていた。
「ほら、ここ。この噴水が始まりだ」
ゲーム発売四日目、ゲームの中では十四日目が経過した日の事。アーヤの話からすると彼女が冒険から戻り手に入れた素材からマザーの所で何かを作ろうと戻ってきたら噴水が出来ていたらしい。
今のように周囲に花壇やベンチはないが、中心にマーライオンを乗せた噴水だけがそこにある。
「【領主旗《ドミニオンフラッグ》】ってアイテムの説明はしったけ?」
映像を見ながらトッポが聞いてきた。
「たしかその旗を立てた範囲を自由にクラフトできるようにするアイテムだっけ?」
前にトッポから聞いた事を思い出す。
ダンジョンとかのボス級のエネミーからたまにドロップするアイテムで、それを設置したプレイヤーとそのプレイヤーが許可した人だけがそのエリアを自由にいじる事が出来るアイテムだったはずだ。逆にこれがなけれな建物などのクラフトは出来ないし、許可のない人にせっかく作った作品を破壊されるという心配もない。
小、中、大のサイズがあり、小は畳一畳ほど、大で六畳間プラスキッチン、トイレくらいの広さというよくわからない説明をされた記憶がある。
そしてこの【領主旗】は設置後に別の【領主旗】を追加で投入する事で広さや高さを増やす事が出来たはずだ。ただし、ダンジョンやすでに別の【領主旗】が立てられた場所は範囲に選べない仕様だったはずだ。
ギルドを作る時もこの【領主旗】でギルドホームを設定する必要があるんだったか?
「そうそう。それでtamaさんってプレイヤーがそこに噴水を造って、噴水の周りに花を植え出したんだ。ほら、ちょうどtamaさんが花を植えに戻って来た……」
アーヤの映像では噴水に近付きパネルを操作しているプレイヤーの姿が映っている。すると花が足元に現れ、それを噴水のそばに設置していく。
アーヤもそのプレイヤーに気付いて近付いて行った。糸目の少年が作業の手を止めアーヤのインタビューに答えている。
「ここから色んなプライヤーがこの周辺に芝生とか木とかベンチを置き始めて気が付いたら公園に。そしてその人達は今ではクラフト系ギルド『tamaハウジング』のメンバーとして像とか橋とかロケットの発射台とか色々とクラフトしたり、依頼で他人のギルドハウスを設計したりしてるんだ」
また映像が切り替わり、様々な人が思い思いに色んなものを設置している。その様子を見ながら会話をしている集団、その中に先ほどの糸目の少年tamaさんもいる。話が終わるとその集団が作業中の人の所に行き何か話して自分達も作業に加わった。
トッポの話だと今はギルド組んでいるらしいが、この頃にはもうギルドとして団結していそうだ。
「ま、そんなこんなで今そこが公園になっているってわけ」
「そっか。クラフトも面白そうだよな。でもそのためにはまずはボスの討伐か」
映像が終わった。なので実際に近くで公園を眺めようと思い歩き出す。
誰かがモノを作っている映像を見るとついつい自分も作りたくなってくるのだ。その時の参考のためにもこのゲームでどんなものが作れるのか観察しておきたい。そんな気分だ。
「そういえばさ、トッポもどっかのギルドに入ってんの?」
噴水を越えた先には木々の道、最初は満開の桜、次に緑色の木々、その先に紅葉、そして枯れ木と四季はどうなってんだと言いたくなる不思議な道だ。
「いや、ブルタがどうするかによって決めようかと思って入ってない」
話はギルドに関してのものになっていき、現在「エンドワールド」内にあるギルドで有名な所の名前をトッポが出していく。
「武器とかの生産や建築なんかのクラフト系はさっき言った『tamaハウジング』だな。戦闘系だと『レクイエム』『発破《はっぱ》隊』『風雲砕鬼《ふううんさいき》』だろ。それで一番デカイ組織が『東城連合』だよ」
「一番デカイ?」
「今の所ギルドの人数上限が百人なんだけど、複数のギルドが集まって一つの集団になっているんだよ。トップにあるのがアーヤがギルドマスターやってる『楽しい実況者の集まり』で、メンバーは七人。アーヤ、タイガ、真島ニキ、冷麺さん、大誤算さん、ジャッチメントのカズ君とニシキ」
タイガさんはアーヤと同じでトラ耳とシッポを付けた女性のバーチャルな実況者で二人は仲が良かったからわかる。後の人も聞いた事あるけっこうな有名実況者さんだ。ジャッチメントは複数で実況したり個別で実況したりしているグループで、その中からカズ君とニシキさんが「エンドワールド」をやっているのか。
「その実況者の集まりの傘下にそれぞれの実況者のファンが作った『東城会』『真島組』『カズ君を見守る朝顔の子ども達』なんかの二次団体や三次団体が集まった連合。名前が『東城連合』なのはギルドマスターがアーヤだからだ。まあ細かい所は真島ニキとか冷麺さんの動画を見ればわかんだろ。ゲーム始めたって事は我慢していた動画も見るんだろ?」
トッポが名前を出した真島さんと冷麺さんは全部の動画を見るくらい好きな実況者さんだったけど、このゲームの事だけはやりたい気持ちが抑えられなくなりそうなんでゲームが届くまで動画見るの我慢していたんだよな。こいつも二人の動画見てるからネタバレしないように頼んでいたので僕が見ていないのを知っているのだ。
「わかった。その辺の経緯は自分で確認する事にすんよ」
ログアウトしたら次にログイン出来るまでの時間潰しに見てみるか。見れて最初のニ、三個くらいだろうけど。
「それでどうする? どこかのファンクラブにで加入するか?」
「いや、もっとゲームを楽しんでから考えるよ。最終的には僕達のギルドを作ってもいいし」
せっかくリアルの知り合いと一緒にやっているんだから知らない人間の集まっているギルドに入るより自分達だけで楽しめるギルドを作ってのんびりやるのも手だ。
トッポもそのつもりで今までどこのギルドにも属さずにやっていたんじゃないかな?
「そういうと思って【領主旗】をすでに用意してあんぜ。小さい一軒家くらいの広さだけどな。後は冒険しながら気に入った土地を見つけるだけだ」
ゲーム開始からすでに一カ月、スタート地点であるこの周辺はもうほとんどの場所が誰かの土地になっているので新しくギルドハウスを建てるにはエネミーの出るエリアを抜けて少し離れた場所に行かなければならないらしい。
四季の並木道を抜けた先には色々なものが並んでいた。
ゲームのキャラやアニメのロボ、大仏や自由の女神、有名な建造物やらとそれはもう本当に色々と。
「ここはそれぞれが思いも思いに作った作品の展示場だ」
この場所も例のtamaさんのギルドが所有しているエリアで、ギルドの誰かに話しを通して建設許可を貰えば好きに物を作っていいらしく。こうして集めた素材で作った展示場となっているらしい。
おもしろそうなので二人で見て回る事にした。
「作品名『動く棺桶』ね……」
そこにあったのはモノアイな丸いロボットの頭部の上に銃を乗せ、左右にはクレーンゲームで見そうなロボットアームを付けただけの物。ぼうロボットアニメに出てくる機体を再現しているらしい。
説明文には「ロボット系エネミーのドロップアイテムをくっつけて作りました」と書かれている。
「何? ロボット系エネミーのドロップね。これでこっちの味方のロボとか作れんの?」
こうしてロボのパーツが落ちるんならそこから作れたりしないのかな?
「実際に頭、胴、手足を揃えてつけてみた人もいるけどダメだったらしいよ。こうして置物として飾るか、分解してネジとかバネを武器の素材に回すしか利用法は無いよ」
「あ、そうなのか……」
「次はあっち行こうぜ、東京タワーとゴ〇ラとキングギ〇ラだ」
そこには三つ首の黄金龍と背中がトゲトゲの黒い恐竜が都会を戦場に向かい合っていた。
「ビルとか細かいな。良く作ったなこんなん」
「だろ、すげーな」
そんな感じで一時間ほどスタート地点周辺の観光をして僕達は過ごした。
そしてそろそろ戦闘をしようかという流れになったのでエネミーの出るエリアに向かった。
そこは草原のフィールドで奥には森のエリアに繋がっている。この草原と森は初期装備でも十分に戦える初心者用エリアだった。
「キーキー」
僕らに気付き襲ってくる敵。
「ゴブリンか?」
こん棒をもった緑色の肌をしたそれを見て僕はゴブリンみたいだと思いそのまま口にした。
「いや、あれはアームズエイプ。あれでもサルらしいぞ」
「サル? 緑色の肌で体毛はなさそうだけど?」
「そういう変化をさせられたんだろ? 動物を戦闘用にいじった世界って設定だからな。森の中には食人植物とかもいたぞ」
会話をしながらトッポが先制攻撃を行う。見事なヘッドショットと決め三体のサルが光になって消えた。
「一発で即死かよ。すげーな」
「武器の性能がいいからな。それよりこれで一対一になったから、後はブル太にまかせるよ」
「キー」
「気遣いどーも」
このゲームではじめての戦闘だ。トッポが敵を一体にしてくれたのであいつだけに集中していいので助かる。武器を構えサルに攻撃。
「いくぞぉ~!!」
両手に持った短剣で斬る、斬る。サルからの反撃、避けられない、こん棒殴られた。痛いけどそれほどではない。ゲームなので攻撃を受けたと分かる程度の痛みで抑えられているらしい。
斬る斬る斬る、あ、三回目は避けられた。そしてまた反撃。その攻撃はさっき見た。同じ攻撃を二度も受けるわけ、くらった。
落ち着け、両手に武器を持っているからか、もともとの設定か向こうが一回動くまでにこっちはニ、三発当てられている。スピードはこっちが上だ。
右手で斬って様子見、よく見るとサルに動きがあった、これが攻撃モーションかな?
ここで左もやったら向こうの攻撃を避けるのに間に合わないな。相手の動きを見て……ここだ!
よし、さすがに三回目だし相手の動きは見慣れた。こん棒を振り上げて下ろすだけだしな。
せっかくの双剣なのに斬る、避ける、斬る、避けるの繰り返し。欲を出して二回の攻撃なんてしなければ回避余裕ですわ。そして勝利。
「やったなブル太、ところでどうしてスキル使わなかったんだ? 使えばもっと早く倒せただろ?」
「あ、忘れてた」
そうか、スキルってのもあったな。
スキルは武器や防具に設定されているもので、熟練度があり使い続ければ憶えられ、同種の武器を装備した時にそのスキルを使るようになる。
そしてスキルには使用回数と再使用までのウェイトタイムが存在している。使用回数は時間経過で回復するから初撃で使っておくのもアリだったのかな?
ちなにみ僕の双剣に設定されているのは『ダブルスラッシュ』剣を同時に使いXの形に相手を斬る技だ。使用回数は六回でウェイトタイム五秒、回数回復は十分間で一回、一時間で全回復する。
次の戦いでは初撃を『ダブルスラッシュ』にしたらサルのHPの六割を削る事が出来た。
最初からこれやってればもっと早く終わってたのにな……。
「ここがアイテム作成機が手に入るダンジョン?」
「ああ」
夕飯を挟んでの二回目のログイン、最初のログインで草原、森で集めた素材で初期装備から皮の軽鎧に変わっている。今なら村人Aから新米冒険者に見えるだろう。武器はまだ初期の双剣だ。『ダブルスラッシュ』の習得まであと少しなのでそれが終われば武器も交換予定だ。
そして現在いるのはトッポの話していた自分達でアイテム製造が出来るようになる装置の素材が手に入るダンジョン前。
何かの工場のような場所だ。左手が盾、右手が雷を纏った棒状の警備用のロボットが動き回っているのが見える。だが門の内側に入るまでは襲って来ない様子。
「それじゃ行くか」
目標はダンジョンボス、そのドロップアイテムだ。
門を越えるとその辺を動いていたロボットが一斉にこちらを向く。迫って来た内の一番近い一体に『ダブルスラッシュ』
そしてすぐさま離脱。ダメージを受けたロボットにトッポが後ろから銃弾を食らわせた。派手に爆発し光になって消えるロボット。
トッポの説明によるとロボット系のエネミーには死亡時に爆発して近くのプレイヤーにダメージとスタンのバットステータスを与える能力があるので、ヒットアンドアウェイが基本らしい。
「ブル太、そこ危ない、回避」
別のロボット、両手が銃になっているタイプが俺を狙っている。そして放たれる数発の弾丸。
左足に痛みあり。危なかった、トッポのおかげですぐに回避できたので足だけで済んだが、もし気付かずにその場にいたらやられていたかもしれない。
「大丈夫か? 『ヒールショット』」
トッポから緑色に光る弾丸が撃ち出され僕に当たる。そして回復する僕のHP。
スキルの名前からわかるかもしれないがこれはポットの持つ回復技だ。弾丸内に治療用のナノマシンが入っていて対象に当たると弾が弾《はじ》けて中のナノマシンが全身に散布、そして傷口を塞ぎつつ治療するんだとかなんとかそんな設定らしい。
もっともトッポがそんな弾をセットしたりしてはおらず、そもそもそんな治療弾を持ってもいない。消費される弾は現在セットされているやつ。現状は消費無限の通常弾なのだがどうやってその通常弾が治療用のナノマシンがつめられた弾に変化したのやら。さすがわゲームだ。
「サンキュ、『ダブルスラッシュ』」
お礼をいいつつ近くのロボを攻撃、そして移動。銃を持つロボットの対応としては射線上に別のロボットや障害物を挟むように移動する。
僕が注意を引いている間にトッポが敵の数を減らしていく。僕もスキルの熟練度を上げるために『ダブルスラッシュ』を多用して戦う。
スキルを使った方が敵からの注目度であるヘイトが上り狙われやすくなるので一石二鳥でもあるのだ。
「よし、『ダブルスラッシュ』習得完了」
もともとあと少しだった熟練度がいっぱいになり『ダブルスラッシュ』を覚えたのはダンジョンに入り八回目のスキル使用したタイミングだった。すでに門や広場を抜け建物内に侵入した時だった。
戦闘が終了し、入手したアイテムの確認と当時にスキルの習得が報告されたのだ。
アイテムは周辺に敵がいなくなると戦闘終了と判断され、その時に自分やパーティ―を組んでいる仲間の倒した敵から手に入ったドロップアイテムが表示される仕様となっている。戦闘中はアイテムが手に入ったのかどうか、何が手に入ったのかわからないようになている。
さて『ダブルスラッシュ』が手に入ったので武器を初期装備から交換。森のエネミーから作れる毒属性のある短剣だ。
ロボット相手に毒は効かないのだが、単純に初期武器より攻撃力が高いし、このダンジョン内には犬のエネミーも出るので全くの無駄ではない。
覚えられるスキルは『回り込み』、名前そのまま相手の背後に回り込む技だ。この技の攻撃は八割がクリティカルになるので『回り込み』からの『ダブルスラッシュ』が初期鉄板の組み合わせなんだとか。
しかもこの『回り込み』なんと双剣だけでなく、普通の剣でも使用可能なスキルで、だいたいの近接系プレイヤーは持っていてピンチの時に回避として使用する事もあるんだとか。つまり近接戦闘、回避盾担当の僕としては早めに抑えておきたいスキルだったりする。
装備を変えての初戦闘。『ダブルスラッシュ』は使用回数が残っていないので『回り込み』だけを使用だ。こんな狭い廊下でどうやって移動してんだかわからないが敵の犬エネミーの背後に出現。移動という経過を飛ばしての背後に立っているという結果だけが残るこのスキル、突然自分の立ち位置が変わる感覚に慣れないうちは微妙に使い辛いかもな。攻撃を放つ前に犬がこちらを向く。
あぁ~攻撃のタイミング逃しちゃったよ。
今回は敵が一体なのでいいが、もし複数だったら敵の中心に出現するわけか。しかも二度目の『回り込み』を使うにはウェイトタイムが十五秒と微妙に長いのできつそうだ。攻撃出来ないと無駄な上にピンチになるスキルか、使う時は気を付けた方がいいかもな。
そんな事を考えながら犬と距離を取る。
この犬のエネミーの名前はニードルドック、体毛が針のようになっていて攻撃する時にきを付けないと針のダメージを受けるし、体当たりがかするだけでも痛い。
なんかこのダンジョン、近接に厳しくないか? 自爆とか体毛とか攻撃の時に気をつけなきゃダメージ受ける敵ばかりだ。
犬の体当たりを避ける、犬が勢いそのまま壁に激突した。その隙にトッポの元まで戻る。
基本的に一対一の場合トッポは見ているだけで、僕のHPが減りすぎると『ヒールショット』で回復してくれるだけだ。
この辺だとまだトッポの武器の方が強いので一撃で倒せて僕のゲーム技術的な意味での経験値とならないのが理由だ。彼が戦闘に参加するのは複数との戦闘やエリアボスとの戦いの時だけ、複数だと僕が処理しきれないし、ボスは頑丈なのでトッポの一撃では沈められないからだ。それでもあえてダメージの通りにくい場所を狙ったり、HPが三割切ったら攻撃しないで静観したりしている。しかもボスの全攻撃パターンを見せるまで第二形態にはしないなどの配慮もしているらしい。
犬がまた攻撃しようと近付いてくる。
「『回り込み』『ダブルスラッシュ』」
もう一度犬の背後に移動。そして回復した『ダブルスラッシュ』も宣言。こうすれば順番的に回り込んだら自動で体が動いて『ダブルスラッシュ』が発動する。
そして体毛によるちょっとしたダメージを受けつつクリティカルを出して犬が光に変わった。
「お疲れ」
「おう、それにしても『回り込み』使い辛いな。あの瞬間移動に慣れるまで通常攻撃は出来なさそうだ」
「掲示板情報的にはまずはさっきブル太がやったみたいに攻撃スキルと合わせるか、対象を味方に設定して一瞬で後ろに下がるのに使て感覚に慣れるのがいいらしいな。なれると大体スキル宣言から移動終了までの時間が感覚でわかるから通常攻撃も当てれるようになるんだと」
「へぇ~」
トッポはこれまでずっと銃しか使っていないので接近戦用スキルの『回り込み』に関しては攻略情報や掲示板の情報でしか知識がない。
自分では使わないに僕のために情報だけはチェックしていてくれたこいつには感謝しかないな。
「真島ニキもこのスキルけっこう使ってるから戦闘の動画見れば役立つかもしれないぜ。あの人の変態的回避行動はマネできないが回避盾の目指すべき極地の一つだと話題だし」
「なるほど、まだニキがジャッチメントのカズ君とニシキの二人と一緒にパーティー組んでトレント戦をした所までなんだよな」
トレントは僕が最初にサルとかと戦った草原の先にある森のボスエネミーだ。木に人間の顔のようなものがあり、落ちると爆発するリンゴを頭上から落としてくる攻撃や根っこが地面から伸びてくる攻撃をするこのゲームで最初に出会うボスである。
真島ニキとジャッチメントの二人は最初から一緒にゲームをする計画だったようで、動画が始まった時にはすでに三人でいた。
「それにしてもカズ君はなんですぐ服を脱ぐんだろうな?」
「カズ君の作るキャラは基本裸だからね、今回も絶対に外せない下着だけ残しの防具なしだもんな。しかも現在進行形でそれ貫いているし」
「その縛りプレーで続けられるのもすごいな。攻撃も素手だったけどそっちも?」
「いや、今は爪装備をつけてるぞ。最初もメリケンを取るだけ取って実は使っていなかっただけだし。メリケンから『正拳突き』のスキル取ってたことやダメージ通らなくなったから爪を付ける事を説明している動画があったはずだぞ?」
「おいネタバレ、いや話を振った僕が悪いか、ごめん」
「あ、悪い、勢いでつい。今は反省している」
お互いに謝りなんとなく会話が途切れた。
なんか話のネタでもないかと周辺を眺める。