• 異世界ファンタジー

VRMMOの続き 2

 お互いに謝りなんとなく会話が途切れた。
 なんか話のネタでもないかと周辺を眺める。

「あ、壁にヒビが入っているぞ、これって壊せば隠し部屋に通じてたりしないか?」

 壁にヒビを発見。ちょうどさっき犬が体当たりしたあたりか?

「ダンジョンの壁を破壊? そんなの聞いた事ないな。そもそも【領主旗《ドミニオンフラッグ》】を使わないと壁の破壊なんて出来ないはず……」
「でも採取可能な木や岩は破壊出来るだろ? 時間経過で再生するけど」

 ダンジョン内でも採取できるオブジェクトは専用の道具で破壊してアイテムを入手する事が出来る。そして壊れたオブジェクトには時計のアイコンが出て、一定時間が過ぎると元に戻りまた採取可能になる。
 森に入った時に誰かが採取済みの切り株を見つけて訪ねた時にトッポから聞いた話だ。

「そっか、【領主旗】が無いと壁を壊せない先入観とか、試してみてもそこが壊せる壁じゃなかったとかで気付かれていない可能性が……」

 トッポが少し考えるような仕草をしている。

「とりあえずやってみようぜ、杏より梅が安いってやつだ。試せばわかんだろ」
「そうだな、案ずるより産むが易しか。それじゃこれで」

 僕のギャグは軽くスルーしてトッポが何かを操作する。メッセージが開いた。内容はトッポからプレゼントがあるとのこと。
 プレゼントの箱のアイコンをタッチすると開く演出があり、その中身はピッケルだった。
 トッポの手にもピッケルが握られている。

「とりあえず鉱石と同じ要領でピッケルを試してみるぞ。壁だとハンマーの方がぽいけどアレって武器で採取用道具じゃないんだよな」
「犬の体当たりでヒビが入ってるし、なんでもいけるんじゃないか?」
「じゃあピッケルで、もしダメだった時に武器の耐久度減るより、ピッケルの方が痛くないからな」

 このダンジョンにピッケルを使う場所は無く、マザーの所まで戻れば武器やピッケルの耐久度は元に戻せる。そんな理由からのピッケルによる壁破壊が始まった。

「破壊できるのはここまでだな」
「人二人分、普通のドアと同じ広さって感じか?」

 あっさり壊れた壁に、次はどの範囲が破壊可能な壁なのか調べる作業をしていた。とりあえず破壊できる場所は全部壊した。
 壁の向こうには地下に続く階段が隠されていた。そして壁があった場所には再生までの時間を示す時計マーク。大体三分で壁は元に戻るようだ。
 掲示板や攻略サイトにはこんな隠しエリアの情報は無かったらしい。
 発見した人間が内緒にしているのか、そもそも壊せる壁がある事をまだ誰も気付いていないのかは不明。
 とにかく、この先の情報は一切ないので慎重に進もうという事になった。
 出現する敵の情報も無いので上と同じか強いのかもわからない。同じだと助かるんだけどな。

 ☆☆☆

 隠し通路から階段を下りて地下を進む僕達。幸い出てくるモンスターは上と変わらない。ただし、犬のエネミーは出現せずロボットだけという違いはある。単純にまだ地下で犬エネミーにエンカウントしていないだけという可能性もあるので確実とは言えないのだが。

「こっちではロボットを作っているんだな。だからどんなに倒しても敵が居なくなることがないって設定の裏付けになっているのか……」

 ガラスの向こうでハンガーに吊るされ運ばれているロボットの胴体だと思われるパーツを見ながらトッポがつぶやく。
 動物ならば勝手に繁殖するわけだが、ロボットは倒しても居なくなることが無い。だってゲームだからと言えばそれまでなのだが、いまだにどこかで量産されているからロボエネミーがいなくなる事が無いと言われると現実として納得出来る。

「上は武器を作っていたよな。どこかでその二つを組み合わせてロボットを完成させてんだろうか?」
「じゃあ上を隅から隅まで観察したらどこかに地下に何かあるって臭わすヒントがあったのかもしれないな」
「本当に誰も地下に対する書き込みとかなかったのか?」
「ああ、ここは一階だけのダンジョンで、武器作成の工程を逆にたどって行けば作業を監督しているボスが待っているだけで、地下の存在や武器とロボを合体させるエリアの情報なんてなかったな」
「そっか、じゃあこの先にその組み合わせるエリアやロボを作る監督ロボが待っているのか」

 僕達はトッポの情報を元に今の所ロボット作りを逆走して進んでいる。そしていよいよそれっぽい両開きのドアの前にたどり着いた。丸い覗き窓のガラスの向こうにはマザーに似た何かの機械に管で繋がれた上半人だけの巨大ロボットの姿がある。
 それを見たトッポは上の階にいるボスの色違いだと教えてくれた。エネミーのデザインは使いまわしの2Pカラーらしい。強さや攻撃のモーションまで同じかは不明だが。

「一応、念のために装備変えとくか」

 トッポが銃のマガジンを外し、別のものを装填した。今まで使っていた弾数無限の通常段ではなく、有限の特殊弾。とりあえずはここのロボットエネミーの弱点だった雷属性の弾をセットした。これがダメそうなら別の弾で弱点を探るつもりのようだ。弱点が見つからなければ無属性強化弾もあるそうだ。
 僕の方は現状以上の装備もなくHPもフルなのでトッポの準備が終るまでやる事はない。

「それじゃ行くか」
「おう」

 二人で片方づつ扉を押す。中に入った瞬間巨大ロボットの目が光り動き出した。さぁ、バトルスタートだ。


 ☆☆☆

「なんかドロップあったか?」
「ちょっとまって、お、『従者チップ』えっとアイテムの説明はっと……」

 結果から言うと雷属性の弾丸は予想通り弱点だったようだ。そして初手に試しで撃った弾丸一発で八分の一のHPを削れたことからもわかってもらえるかもしれないが、全く苦戦する事なくクリアーした。
 一発目の結果を見た瞬間トッポは弾丸を通常弾に戻して僕に『ブーストショット』『アクセルショット』『ディフェンスショット』『デコイ』という攻撃、速度、防御を強化するスキルと一度だけダメージを無効化するスキルを俺に使うと、相手の動きを見たいからと離れた位置から観察を始めた。
 一人で戦いながら危なそうなら『回り込み』でトッポの背後に移動。トッポは常に安全そうな位置取りをしているのに逃げる先には安心だ。
 そして攻撃のパターンがかぶって来たなと思うタイミングでまたトッポが攻撃を始めた。
 雷属性の弾丸より少ないが、それでも通常段でもまあまあの威力が出ているのでトッポの攻撃でどんどんHPが減っていく。そして残り三割くらいの所で敵の動きが変わったらまた観察、ついでに僕にまた能力アップのバフスキルを使い観察。
 戦闘の様子も動画で撮影している。これは第二段階の全部の攻撃出るまで耐えた方がいいのかなとか思ったが、どうせ僕の攻撃力じゃ残り三割とはいえすぐに倒し切れるとは思えないので気にせずに普通に戦うことにした。

 そんな訳でこちらはトッポがゆっくり観察する余裕を残しながらの勝利。僕個人で見たらギリギリの戦いだったかもしれないが、二人でというと楽勝だった。

 そして手に入ったアイテムが『従者のチップ』だ。トッポにも伝えるために説明文を読む。

「主人の命令を聞き、家事や身の回りの世話、仕事の補助を行う従者アンドロイドの人工知能《AI》チップ。命令を繰り返す事で学習し成長していく。だそうだ」

 チップを手に持ち情報を読み終えてからトッポを見る。

「このアイテムの事知ってる?」

 ダンジョン隠しエリアのボスからのドロップだが、すでに知られているアイテムの可能性もあるので聞いてみる。

「いや、俺は知らないな。攻略サイトは……どうだろな? 全部の情報に目を通している訳じゃないしな」
「そうだな、見ていたとしても全部記憶しているなんまあ無理だしな」
「そういう事。でも全部のアイテムやエネミーの情報を把握している人に心当たりはあるぞ」
「じゃあ、さっそくその人に聞いてみるか」
「ただし、その人に伝えるとこのチップやこのエリアの事が全プレイヤーに知れ渡る可能性があるぞ? なんせその人はゲームの情報を集める情報屋ギルドの人だから」

 情報屋ギルド、そういうのもあるのか。しかもちゃんと情報を確認してから掲載するようで信用できる攻略サイトの運営もしているらしい。あとでその攻略サイトの場所を教えてもらおう。

「? それに何か問題あるの? 僕達が見つけたように誰かがこの先偶然見つけるかもしれないし、別のダンジョンで似たような状況で隠しダンジョン見つけるかもしれないし」
「いや、今からトップのプレイヤーの仲間入りを目指すのなら、俺達しか知らない破壊可能な壁や隠しダンジョンの情報を伝えない方がいいだろ? そこからレアなアイテム集めて一カ月遅れのハンディを埋めようとか考えないのかなって思ってな」

 あぁ、そういう事か。

「別にトップを目指す気はないよ。お前と楽しくゲームが出来ればそれで十分だ。それに学生の身分としてはこのゲームを生活の中心にしてガチでやっているプレイヤーにはどうせ追いつけないだろ。だからいいんだよ」
「そっか。ブル太がそのつもりならそれでいいか。それでどうする? 情報屋の所に行くか?」

 う~ん、どうしようかな……。情報屋に行けば確実な情報が手に入るんだろうけど。

「いや、せっかくならまずは自分達でこのチップの使い道とか探ってみないか? 少なくともマザーの所に行けば今あるアイテムで作れるものが確認出来るんだろ? 自分達で探る、マザーの所に行く、情報屋、で良いかな。やっぱ情報屋行きたくないと思ったらその情報屋の攻略サイトでアイテムを探してみるでもいいわけだろ?」
「よし、じゃあそれで決定。それでこれからだけど、本来の目的だったボスはどうする? 行ってみるか?」

 トッポが上を指さしながら聞いてくる。地下には隠し通路を見つけたから来ただけで、本来は一階にいる通常ボスを倒してアイテム作成用の道具を作るのが目的だった。

「あ、そうだったな。じゃあまだ時間があるしそっちも行くか。でももう入口の壁って復活してるよな。またアレ壊すのか?」

 隠し通路入口の壁は三分で戻る設定だった。今戻っても確実に修復されているだろう。それを壊すのはちょっと面倒だな。

「こういうダンジョンにはボス部屋の先に出口に繋がる転送装置があるんだよ。たぶんそこの扉の先だと思うぞ」

 トッポの視線の先にはドアが一つ。その先には光る床。そこに乗るとダンジョンの入り口まで戻されている。

「それじゃ、希望のアイテムが出るまでのマラソン二週目行ってみようか」
「お、お~」

 入り口に着くとトッポが拳を天に伸ばした。僕もそれに乗っかる。
 タイミングよくダンジョンに入ろうとしていた他プレイヤーからなんだこいつらって視線を向けられたので「すいません」といい頭を下げるとダンジョンに向かった。

「今のわざとか?」

 他プレイヤーがいない所まで行って尋ねた。

「ダンジョン出てすぐに同じダンジョンに行くのは、まぁいなくはないが珍しいからな。それっぽい理由を最初から言っておけば不自然じゃないだろ?」

 そんなわけで一階を散策すること三週で、無事に目的のアイテムをゲット。その後にまた隠しエリアの壁を壊して侵入。その先で『従者のチップ』の使い方を考えつつ、念のためにもう一個確保。または他のドロップ品は無いかと調べるために隠しボスを倒しに向かった。

「やっぱアンドロイドの人工知能って言うくらいだし、アンドロイドに使うんだろうな」

 ボスを倒した後の隠しエリアのボス部屋でてきとうに床の上に座り二つ目のチップを見つめながらトッポが言う。今回手に入ったのは『騎士のチップ』説明文も『従者のチップ』とは異なり、なんだか戦闘寄りの人工知能らしかった。

「でも何も起きないよな……」

 トッポが手に持つチップを僕のあぐらの上に置かれた頭に近付ける。

「やっぱりマザーの所に持っていって組み合わせるんじゃないかな? それかパーツが足りないとか」

 二回目の戦闘でトッポはチップを手に入れ、僕は女性の頭をしたロボットの頭部を手に入れた。この事からチップは確実にドロップするがチームに一つで、チップにも種類がある。または一回目の討伐、二回目の討伐と討伐回数で貰えるチップが変わるのではないかという仮説が立てられた。これは何度も挑戦したり、別のプレイヤーにも挑戦してもらわないとわからない事だ。
 そして二回目で僕が手に入れた女性の頭、これも何度も戦えば新しいパーツが揃うのかもしれない。

「周回すっか、俺が本気で当たれば一回のボス戦に十分かからないし。ここまでの最短ルートも覚えた。ダッシュで一周ニ十分だな。問題は隠しダンジョンの入り口破壊のタイミングだな」

 このダンジョンにはアイテム作りに重要なアイテムがある。そのためレベルがそんなに高くないダンジョンだが人がまれに来る。現在が仕事帰りや学生などログインの多くなる時間帯である事と、一カ月遅れで始めた僕と同じようなプレイヤーで友達が先にやってますって人もいるので今は特に多いようで、五週した中で七組のプレイヤーに接触した。
 壁自体は二人でスキル攻撃をすれば一瞬で破壊できることがわかったので、近くにプレイヤーがいたら通り過ぎたタイミングでやればバレる率は下がるだろうという判断で、念のために壁が修復し終るまで待機してからここに来た。三分経った瞬間にさっきまで空いていた穴が一瞬で壁になる姿は見ていて面白かった。さすがゲームだ。
 今のままだとどこかでバレる危険はある。今日の所は撤退して人の少なそうな明日の早朝五時とかにインして周回するのもありかもしれない。明日平日で学校あるけど……。

「今あるパーツで騎士作れないかな? そうすりゃ戦力増えて楽なんだがな」
「なんだ、あの動く棺桶みたいなの作る気か?」

 動く棺桶はここに来る前に作品展示エリアで見た作品の一つだ。ドロップしたロボットのパーツを組み合わせて某アニメのロボを再現したアレだ。

「お、それ試してなかったな。頭だけだから反応しないなら、とりあえず体作ってみりゃいいんだよな」

 そう言いながら今までに手に入れたロボのパーツや今回手に入ったアイテムを取り出していく。

「でも【領主旗《ドミニオンフラッグ》】が設置されてない場所で作れるのか?」

 アート作品や家を作るのには【領主旗】で自分の領地に設定しておく必要があるはずだ。そしてここは【領主旗】が使えないダンジョン内。そんな所でアイテムを並べてどうする気なんだ?

「別に【領主旗】が無くてもただ出したものを重ねるくらいは出来るぞ。固定出来ないし放置してもログアウトか十分経過で自動でインベントリに戻るけどな」

 そんな事を言いながら横にした状態で馬の体型のパーツを立てる。

「やっぱり機動力を求めるなら馬脚かな? 騎士って言うくらいだし馬は必要だよな」

 足の関節をいじって自立するようにしている。最終的に諦めて足を折って座った馬の形にして落ち着かせた。

「そこにこの胴体を……」

 ドラム缶のような胴体を乗せた。

「頭はこれしかねぇか。ブル太の頭……に合う胴体がないか、じゃあこれでいいか」

 ガスマスクみたいな形をした頭部を選ぶ。他に選択肢がなかったようなので仕方がない。

「そして右手に槍を、左手に盾をっと……、わるいブル太、この両手持っててくれね?」

 さすがに上にのせてくだけで手を付ける事は出来ない。なので僕に持たせるつもりらしい。別に断る理由もないのでトッポから腕を受け取りくっつけた。

「この状態でチップを近付けたらイベントが起こるとか……ねぇよな、あはは」

 体が出来ている状態で『騎士のチップ』を近付けるとチップが光り、それに呼応《こおう》するようにロボの頭が光り、そして後頭部が開いた。

「はははってなんか光ったぞブル太」
「後頭部が開いたぞ」

 後頭部の事はトッポからは死角だろから教える。

「お、本当だ。あ、後頭部にチップと同じ形の溝があるぞ、ここにはめろって事か?」

 言いながらチップをハメる。両手を固定している関係で僕から開いた後頭部で邪魔されよく見えない。チップがハマると開いた後頭部がゆっくりと閉まっていく。

「チップインストール開始。終了。所有者確認、トッポ様。チップと頭部の所有者が一致しました。胴体の損失を確認。検索。トッポ様所有の胴体を確認、連結開始――」

 チップをハメた瞬間からロボットの頭部が動き出しガチャガチャと音を立てる。そして僕が持っていた両手にもそれは及ぶ。胴体から管が伸びると腕と繋がり、引っ張られるような感覚の後、重みが消えた。
 頭と胴体がくっついたように腕や足と胴体もつながったようだ。

「お、やれば出来るもんだな」
「あ、あぁ。そうだな」

 そうしてそこには下半身馬で上半身人のケンタウロスのようなロボットが出来上がった。
 ロボットはトッポの前に行くと家臣のように足をおり頭を下げた。
 トッポの前にウィンドウが開く。

「ふ~ん、名前を決めろて……じゃあ『ドラヤキ』だ」
「いや、なんでだよ」

 決定ボタンを押しながらこっちを向くトッポ。

「いや、ロボットといえばどら焼きじゃね? 好物的な意味で」

 それは国民的な未来の猫型ロボットの話だろ。そんな理由で決められるのも可哀想だな。もう名前は決定したので手遅れだけど……。

「そんじゃよろしくなドラヤキ」
「はい、トッポ様」
「ところでチップって外れるのか?」
「可能です、『騎士のチップ』を外しますか?」

 またトッポの前に現れるウィンドウ。

「えっと、はいはい」

 何かを押した。たぶんチップ外す? はい、いいえ みたいなのが書かれていたのだろう。このゲーム他人がウィンドウ見てるのはわかっても、ウィンドウの中身までは本人にしかわからな仕様になっているから想像するしかないが。
 ロボットの電池が切れたように動きが止まり、後頭部がまた開いた。腕や胴体は繋がったままで落ちる気配は無い。
 トッポが後ろに回ると『騎士のチップ』を外した。

「ん?」
「どうしたんだ?」

 トッポが外したチップを見ながら不思議そうな顔をしていた。

「いや、チップの名前がな『騎士のチップ(ドラヤキ)』に変わってたんだ。説明文にも俺が主人だとか書いてあってな」
「あ、さっきの一連の行動で変わったって事か? それじゃそこのロボットじゃなくてそのチップこそがドラヤキって事?」
「そういう事だろうな。それでさ、これにブル太のチップも入れてみようぜ?」

 あ、そのために起動してすぐのドラヤキのチップを外したのか。

「じゃあいくぞ」

 僕も完成したロボットの後頭部にチップを入れた。すると

「チップインストール開始。終了。所有者確認、体とチップの所有者が一致しません」
「あたっ」

 チップが勢いよく飛び出し僕のおでこにヒットした。

「どういう事だ?」

 おでこを抑えながら言う。

「あ、さっきの言葉はそういう……」

 トッポは何か思い当る事があったようで何かブツブツ言っている。

「だったらそれで……ブル太、そのチップ持ってさっき手に入れた頭部に近づけて見ろよ?」
「え、あ、うん」

 でもあの女性型頭部パーツ、さっきトッポがやってダメだったよな。それに胴体とかついてないし。まあトッポには何か考えがあるみたいだし色々試すか。
 そんな事を思いながら『従者のチップ』を近付けると光だし、後頭部が開いた。
 さっきと同じようにチップを入れる。

「チップインストール開始。終了。所有者確認、ブルータス様。チップと頭部の所有者が一致しました。胴体の損失を確認。検索。近くにブルータス様所有の胴体を発見できず。検索終了。起動します」

 頭だけの女性ロボが目を開けこちらを見ている。
 そして名前を決めて下さいと言うウィンドウ。

「どうせいつもの「知世ちゃん」だろ?」

 それはだいたいいつも女性キャラの時に僕が付ける名前だ。

「初恋がアニメのキャラな上にゲームで必ずその名前使うとかお前もだいぶこじらせてるよな」
「なんだよ、大道寺さん大和撫子《やまとなでしこ》可愛いだろ。菓子の名前縛りの人に言われたくねえよ」
「で、そいつの名前どうすんのよ?」

 くっ、ここに来て知世って付けたら負けな気がする。考えろ、考えるんだ。知世、ともよ、友よ、フレンド? フレディー…… マーキュリー? 水野亜美? ケロちゃん? あれ、戻って来たな、じゃあ柴東遥《しとうはるか》? といえば美嶋玲香《みしまれいか》つまりイシュトリ、うん、シュトリー、いいじゃないかシュトリー。

「よし、シュトリーで決定」

 銀髪のこの子にも合っている気がする。

「これからよろしくね、シュトリー」
「はいブルータス様」
「で、なんで頭だけでも行けたの? さっきトッポがやった時は無反応だったよな?」

 なんか理解していた感じのトッポに訪ねる。

「あ、それはな」

 トッポは完成したロボの体を仕舞って出してからチップをハメて仕舞おうとして失敗。またチップを取り出してしまうという行動をしていた。
 インベントリにしまうと分解されるのか、そのままなのか。チップを入れた状態でインベントリに仕舞えるのかを確認していたらしい。

「ほら、チップを入れた時に言っていただろ、所有者の一致がどうとかって。つまりチップと頭の所有者が同じである事。それが条件だったんだよ」
「あ、そういえばそんな事言ってたな。それでトッポがシュトリーの頭にチップを近付けた時は何も起きなかったのか」
「そういう事だと思う。さて、チップの仕組みは理解できたし、次はパーツの換装とチップの譲渡だな。他には……」

 トッポが思いつく限りの事をやっていく。装備の換装は完成状態だとチップが入っている状態で指示を出せば付け替え可能。頭だけの状態だと胴体を近付ければくっつけていくし、外すよう指示すれば外れる。また胴体を飛ばして足のパーツを付ける事も可能だ。
 結果、シュトリーの頭にクモ足のような多脚。そこにトッポが冗談で付けた猫のお面とカエルのお面によってバールのような者が出来上がった。なんとなくシュトリーの顔が不機嫌そうな気がした。
 バールのような者はスクリーンショットを撮った後にお面を外された。そしてお面の代わりに頭の左右には持っていたガトリングガンの腕を付けておいた。

 シュトリーの仮の体が出来上がるとロボット二体を連れて戦闘してみる事にした。範囲はこの隠しエリア内。ここから外に出る時はチップを外してインベントリに仕舞う事にした。
 そして二体の戦闘力を見た後はここで得た全ての情報を情報屋に売ろうという話になった。だってそうしないといつまでもドラヤキとシュトリーを連れてダンジョンの外を歩けないからだ。
 知っているプレイヤーが増えればロボット連れが当たり前になり、堂々と二体を連れて行ける。それと、パーティー上限の六人がいる状態でシュトリー達は一緒に戦えるのか? という疑問を解消するにも人手が必用なのでその実験もしたいからだ。

 そうして二体を連れての戦闘が始まった。何も指示がないと動かなかったので、トッポの指示でドラヤキが突進して突き攻撃。相手の反撃は盾で防いでいる。「やれ」「守れ」という簡単な指示でもいいようだし、細かく相手を指定すればちゃんと指定した相手に攻撃を加えている。
 シュトリーの方は最初に「戦闘中はトッポの指示に従え」と言っておいたのでこっちもトッポがやってくれている。だって前線で戦いながら後方のシュトリーに指示出しとかそりゃ無理というもの。
 それにしても、シュトリーのガトリングの銃弾ってどこから来てるんだろ?
 トッポの銃も無限弾倉だし、そういう事なんだろうか?
 そんな事を思いながらお試し戦闘を数回行い、それをトッポが動画に納めて僕達は情報屋に向かった。

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