ゼロから物語を生み出すのは難しいです。
全くのゼロベースからイチを生み出すことは、どの分野であろうとも難しいことで、コロンブスの卵という逸話があるように、第一人者が誰からも尊ばれるのは初めてその行為に及んだ勇敢さを褒められていることもありますが、未知の領域に既知の領域を創り上げるという、正にゼロからイチを生み出す行為をとっているからではないでしょうか。
物語を紡ぐ上でも同じことであり、たとえばアーサー王伝説という世界中に広く伝わっている騎士道物語は多くの物語に影響を及ぼしています。それは登場人物名であったり、その逸話、人物像、更には武器にまで、多くのフィクションがアーサー王伝説をモチーフとした物語を紡いでいます。名作であるほど、それは顕著になります。
土台が整っているほど、それを基にして創られた作品は秀逸なものになります。「素晴らしい出来だ!」と自画自賛してしまうほどです。登場人物の人物像に関しても、土台に少し手を加えれば、まるで自分が細部に至るまで練り込んだ人物のように見えます。名作の力を借りて、自身の物語の質を上げているのです。
読者からしても、著名な作品に感化されていたり、歴史上の人物に注目されていると、それが原作や史実に忠実であるほど「こいつわかってるな」「うまく史実と摺り合わせされていて面白い」といった感想を抱くようになります。誰もが認める名作が、更なる名作を生み出すのです。
他力本願。だからこそ、ゼロから物語を紡ぐことは難しいことなのです。誰しも、過去に読んだ物語に影響を受けるものです。影響を受ける度合いが大きいか小さいか、それだけの話なのです。
だからこそ、素晴らしい作品には素晴らしいと賛辞を送り、自分の作品に良い影響を及ぼせるようになれば、ゼロからイチは難しくとも、イチから百千万億……といった無限大の可能性に繋げられるのではないでしょうか。
影響を及ぼす側、及ぼされる側、どちらの位置にも立てるよう尽力していきます。