墨天坑に、夜がやってくる。
幽霊たちが、やってくる。
この階に、エレベーターは、2基ある。ひとつは地上へと通じるもの。もう一つは、最下層へ通じるもの。地の底へと連れ込まれ、二度と帰ってこなかったものが最後に乗ったエレベーター。
サクラは、奈落へのエレベーターに異常がないのを確認した。そして、
「お化けが出ないおまじない」
と呟くと、でたらめの呪文を唱えた。
幽霊除けには何の効果もないが、子供の不安には良く効く魔法だ。
「さ、もう眠ってしまおうか」
「今日だけ、一緒に寝ていい?」
シオンは、サクラと同じ部屋で眠るようだ。
サクラは、好都合だと思って、彼女を受け入れた。
夕食に混ぜておいた睡眠薬が効いてきたのか、シオンはすぐに、サクラの部屋で昏睡してしまった。