今さっき僕は、他人に奇行を久々に見られてしまった。これ以上他人に知られたくない気持ちはあるんだけど、誰かに話したい気持ちもある。
ので、顔の見えない人達が集まるココで書いてしまおう。
今日はほんとーうに久々に仕事が早く終わった。最初に今の現場に入った時は、段取りが悪すぎて23時半過ぎに現場を出たものだけど、コロナで人数が減った中で徐々に皆んなの動きに無駄が無くなっていき、18時前には現場を出る事ができた。成長というギフトを僕らにくれたお仕事に、素直に感謝する。
——よっしゃ! 今日は筋トレサボって銭湯に行っちゃう?
そんな事を考えながら、玄関の前でバッグをまさぐると、なんと家の鍵がない! そして僕には車もない!
——いや待て、落ち着け。確かチャリの鍵はかけてなかったハズ。二、三十分で事務所には行けるし、とりあえず実家に行ってメシでもたかろう。
そんなこんなでのんびりしてるとあっという間に時間は過ぎ、「やべっ」って感じで実家を出て、自宅の車庫を開ける。僕がチャリを動かそうとすると、チャリは動かない。鍵がかかっていた。
——うわ詰んだ。家入れねーじゃん。
実は僕の事だけ考えるならばそこまで最悪ではない。実家に泊まれば良いだけの話。でも、飼い猫が独りで僕の帰りを待っているのだ。お腹も空いているだろう。
絶対に僕は帰らなければならないッッ!!
僕は空を見上げた。雪が降っている。足下を見ると雪は、段々と、積もり始めていた。
天候やや悪し。ココから事務所までは10キロくらい。
——楽勝! I Gotta Believe!!
僕は走った、雪の中、作業着のままで。
僕の住む街は広いようで狭い。知らない人に「〇〇でホニャララしてた人ですよね?」とか言われるくらいに狭い。サービス業をしていた時はこんな奇行は流石に出来なかった。何故なら店舗を構えた職場に「ヤベーヤツが居る」という噂が広まれば命取りだからだ。
だが、今は違う。
作業員としての僕が、知らない人からヤベーヤツとして認識されたとしても、何も問題はないのだ。僕は今、他人の目から解放されている。
正直ちょっと楽しくなってきて、自然と走るペースも上がる。凍った路面で滑って転びそうになっても「試されている」としか思えない。
そんな自己肯定感の強すぎるタイプの中年が遂に、目的地である事務所へ辿り着いた。
——はっ。あとは鍵を探すだけだぜ。たぶんダブルピックのシートの下にあるハズだ。くく、手間取らせやがってよぉ?
僕はこっそりと駐車場に入り、ピックアップトラックに近づいて行く——その時だった。
————「Y.Tさん? 帰ったんじゃなかったんですか?」
ウチの社長だ。
途端に僕に、羞恥心が芽生える。
「あ、えーと、その、鍵をトラックに、忘れまして……」
「マジっすか!? 歩いて来たんですか?」
「あ、いやー……走って」
「うわえぐっ!」
——つーか、鍵忘れた事より、このカッコでココまで走って来たことの方が恥ずかしくね?
ミニマリストなんて気取らないで来年こそは車を買おう、僕はそう誓うのだった。
終わり。
ps. なんか走りながら小説のネタを考えたりしてたんですが、上手く終盤がまとまりました。後は描いて推敲するだけです。
そして、八万文字くらいまでは推敲が終わってますので、明日から毎日投稿をスタートします。
タイトルは——
『ロジカルマキアート!!』
カクヨムコンのエンタメ部門(だったっけ?)に応募しようと思ってます! 口が悪い女の子と、僕とは違うタイプの変わった男の子が紡ぐ物語です。
乞うご期待!!