ファンタジーの原典とも言える“ロード・オブ・ザ・リング”の一節。
ドワーフの坑道「モリア」で亡くなっていたドワーフの一人が抱えていた手記に書かれていた。
ワレラ出ズルコト能ハズ。イマハノ時来ル――太鼓ノ音、深キ所ヨリ太鼓ノ音――今ヤカレラ至レリ。
このシーズンは近所の学校から太鼓の音が響いてくる。
自室で物思いにふけっているとき、この太鼓の音を聞くとなぜかロード・オブ・ザ・リングのあのシーンが蘇ってくる。
この音はきっと、運動会の練習をしている音に違いないのだが、自分の脳内世界では坑道の奥底から地獄の炎を伴ってオークやトロルと共にバルログが現れる。
「あ、これ、死んだな」
と思わせるほどのオークの数と、赤い発光と共に現れるバルログが衝撃的で印象に残っているのだ。
きっと小学生が鬼のような悪魔のような何かから全力で逃げ回ることで体力を向上させ、遊びながらにして心身を鍛えるという妙技を会得していることだろう。
世の中は平和だ。
しかし、自分の心の中は不和でいっぱいになる。
既存の世界観を超えるファンタジーを自身の内側から吐き出せる日は来るのだろうか。
その物語に魅せられた時から、自分の想像の限界はそこで止まってしまっている。
もはや現代の既知から物語を紡ぐことしかできないことに、自分の弱さと無力さを感じずにはいられない。
いつの日か、どんなに年を取ったとしても、新しい世界の幕開けを果たすときまで。
本当に描きたい物語は、まだ心の中にしまっておく。
だからこそ、今日も執筆は進まない。