我が家でベッドを買った。
ものすごくフカフカだからというので、フカフカをフカフカする為に買ったのだが、さて、肝心のフカフカはいかがかと思い飛び込んだらベッドの上に固形物を置いてあっただけらしく、無惨にも腹と胸と顔面を打ちつけた私の目から何やら雫が流れ落ちているようだった。
その夜、フカフカをきちんと確かめてみた。
たしかにフカフカだった。
フカフカをフカフカする度にフカフカしたので、これはフカフカなのだなと実感した。
しかし、寝転がった時にフカフカするのだろうか。
以前、プールでよく見かける空気入れる式のマットみたいなのに全力で寝転んだ時に「べぽァ」みたいな音がして割とすぐに固形物と化したので、イマイチこの手のフカフカには信用がなかった。
恐る恐るフカフカに横たわる。
――騙された。
これはフカフカじゃない……。
モフモフだ。
もう一度起き上がり、同じ動作を繰り返した。
やはりフカフカじゃない……。
人間が横たわった部分がもふっと凹んで、それ以外の部分はパンパンになっているようなそんな感覚だ。
まぁ、結果よく眠れたらそれでよいのだが、フカフカをフカフカするために買ったものなので、腑に落ちないがとりあえず我慢することにした。
それから数分後、同居人が件のフカフカを試フカフカしてみたいと言うのでフカフカさせてみた。
「うわぁものすごくフッカフカだねぇー」
というので、「そんなはずはない、強いていえば身共が横たわるとフカフカではなくなるのである」と言って、横たわる。
やはり、フカフカではない。
このフカフカは人によって態度を変えるフカフカなのだろうか。
もしくは撫でたり餌をやったりなど懐かせるしかないのだろうか。
そんなことを毎晩繰り返しているうちに、いつの間にか男は執筆するのを忘れ、フカフカするためだけに一日の仕事を終え、フカフカするためだけに帰宅し、フカフカするためだけに夕飯を食い、フカフカするためだけにベッドに横たわる生活を過ごしていたのだ。
男は既にヤケになっていた。
もはやフカフカするまで執筆は進まない。