男は悩んでいた。
実は今自宅では、まさに電子ジャーがぐつぐつと沸騰しているに違いない。丁度この夜9時頃に炊けるようにセッティングをしてきたから。
今日のために、昨日食べたチゲ鍋の残りがある。肉も買ってある。
この日は存分に、それを平らげる。――そのはずだった。
しかし、現実は違っていた。
仕事帰り、同僚と、「ちょっと食っていくか!」という調子のいい言葉。これを自らが発していたとは、だれが信じられようか。
その上、向かった先はボリュームのあるラーメン屋。
それを、スタンプ2個で大盛り、という有意義なアイテムを用いる事によって、男の胃袋は存分に満たされていた。
そこで、男は気づいたのである。
今頃、ホクホクと炊けているであろうご飯の存在に。
彼は焦っていた。内心を誰にも悟られぬよう、口笛まで吹いていた。
家にたどり着き、キッチンの換気扇にスイッチを入れた。ガスコンロもスタンバイ、男は、チゲ鍋を再び蘇らせた。
そして、それらをその胃袋へと流し込んでいく――。
さて、ここで男は悩んでいた。
炊いたはずの米、2合は、いったい何処へと消えたのか。
答えは、神のみぞ知る。
小説は、一向に進まなかった。