わたくし、ただいま町内電鉄に乗っております。
ええ、「アブナイ世界の住人専用車両」に無理矢理、でございます。
車両内に座席などございませぬ。まるで貨物車両のように、何もございませぬ。ただ、壁際には太い鎖に繋がれた鉄の輪っかが、等間隔に。
もしや、安全ベルトの代わりかしらと、仕方なく後方付近にありました輪っかのひとつに足首をはめました。
その直後。
前方の辺りがいきなりカクテルライトで照らされ、モワモワとスモークが焚かれるではありませぬか。
そして車両の床あたりから、ゆっくりと浮上してくる人影が。
え? なにごと?
スモークで足元は見えませねど、いつの間にやら両手を広げた女性が現れましたの!
どこに売っているの? と思われるキンキラキンのスパンコールの光るレオタードに、お背には七色の孔雀の羽根。
クレオパトラのような髪型に、これまた派手な髪飾り。
しかもお顔は目をそむけた……いえ、かなり厚塗りのお化粧。
その女性は微笑みながら、ゆっくりと両手を広げたまま会釈されます。
「え、え〜っと、あなたさまは、いったい」
わたくしの問いに、女性はハッと我に返ったかのように車両内を見渡します。
「アラ、ここはいづこ?」
「いづこって、ここは町内電鉄の車両ですわ」
「はぁっ?」
「ど、どこからどうやって走行中の電車にお乗りになったの?」
女性は首を傾げながら、こう言われました。
「アタクシ、ラスベガスでショーの真っ最中ですのよ」
「ラ、ラスベガス?」
「ええ、アタクシは世界有数のイリュージョニストよ。がんじがらめにされて箱に入って、水を満たした水槽にドボン。そこから奇跡の脱出をするの。
あなたもご存知でしょ」
「ハ! あ、あなたはまさか、プリンセス」
「そうそう」
「プリンセス淫行!」
「惜しい、ちょっと違うわ」
「ええっと、思い出しましたわ、プリンセス援交!」
「ちょっと待って。あなたワザと間違えてるでしょ」
「もう一度、わかりましたわ!
テレビでわたくしも拝見したことございます!
プリンセス天候!」
女性は勝ち誇ったように、腕を組まれました。
「うふふ、有名人はどこへ行ってももてはやされるわね。
そうよ、アタクシはイリュージョニストのプリンセス天候」
あの日本が誇る大マジシャン、引田天候の唯一のお弟子さま。
箱抜けのイリュージョンは、いつ観ましても大迫力よ。
「で、プリンセス天候さま、なぜにかような一地方の電車内に突然ご登場なさったのかしら」
「それですわよ、それ。アタクシはラスベガスのホテルで興行中だったの。箱抜けして、華麗に客席から現れるはずでしたのに。どこでどう間違えちゃったのかしらねえ」
それから小一時間ほど、プリンセス天候さまは、観客わたくし一人の前でさまざまなイリュージョンを、タダでご披露くださりました。
わたくしは鎖に繋がれたまま、ヤンヤヤンヤの拍手大喝采でございます。
たまにはこのような珍客もご乗車になる、我が町内電鉄。
楽しゅうございます。
結局わたくしは町内を電車で三周ほどいたしまして、我が屋敷に戻りました。
はて、どこかへお出かけする予定でしたのに、すっかり忘れてしまいました。
さてさて、久しぶりにカクヨムさまをチェックいたしましょう。
あ、「二十歳のおばあちゃんへ」にお★さまをいただいております!
舞夢さま、
どうも初めまして! この度はわざわざお目通しくださり、きらめくお★さままで頂戴いたしまして、誠にありがとうございます。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます♫