関西国際空港のターミナル1の一階。
国際線から降り立った乗客たちが大きなトランクや荷物をカートに乗せて、到着口から出てきていた。
「ヘ~イ、パッパ~! ウェイツッ、ウェ~イッツ!」
その声に振り返ったのは、Tシャツに半ズボンをサスペンダーでずり落ちないように下げた、恰幅の良い中年の西洋人だ。
頭頂部はむき身の卵のようにツルリンと禿げ、金髪の伸ばした横髪と後ろ髪を、後頭部でカラフルな紐で結んでいる。
真ん丸な赤ら顔にはメタルフレームの眼鏡、鼻の下には白髪の入り混じった鬚をたくわえていた。
中年の男は押していたカートを止め、やれやれとオーバーに首を振って両手を上げた。
そこへトランクを引き、大きなバッグを背負った若い西洋人が走ってきた。
「おいおい、ピーター。もうここはジャパン、いや日本国なんだぞ。
お約束の、お通りだぜ、今からはこの偉大なる、日の本の国言語で話さなきゃ、いかんぞなもしい」
若者はモジャモジャの金髪ヘアを揺らして、中年の前でハアッハアッと肩で息をしている。
どうやら親子のようだ。
若者は、パパにウイッグをかむせて、鬚をむしりとったような顔つきである。
しかも若いくせに、パパとクリソツな残念な中年メタボ体形だ。
「フウフウ、そ、そうだってね。
この日のために二人してジャパ、いや、日出る国の言語を習得しっちゃったんだからそうなんだよね、パパ、ノウッ! 父上殿」
「そういうことだったり違ったり、ワ~ッハッハッ~」
パパとピーターは大声で笑った。
周りを行きかう人たちが、ビクンッと身をすくめる。
「さあ、ピーター。まずはインフォメーショ、いやご案内場へ出向いて、我々がどこへ行けばいいのか、訊いてみてもよくってよ」
「オーケィ、父上殿」
大柄な親子は掲示板の指示する、インフォメーション・センターへ向かった。
案内担当の女性職員は、近づいてきた西洋人を確認すると、「May I Help You?」といつものようにニコリとほほ笑んだ。
「オウッ、奇麗な美しい素敵な若い女性さま。
わたしはこの国の言語、話しが話すとき話したらぜ~んぜん理解できちゃったりするのですがな、これが驚き」
「そ、それは失礼いたしました」
と、日本語で詫びた
パパはとっておきのウインクを返す。
「わたしと遺伝子的肉体的親子であるピーターと、尊敬に値するであろう日の本へ、旅にきたんですわな、これが。
何しにイッポンへ! ですがな。
この国の文化が大好きらしいのです、親子そろって。
どうかしてやがるぜ! ヘイヘ~イ! 炒め物同士、いやメタボな同士、いや似たもの同士だぜぃ。
わたしはこの映画を鑑賞したことによって、どうやら惚れちゃったりしてそうろう」
パパはTシャツを自慢げに指差した。
女性職員は眉をひそめる。
「七人の……痔? 痔?」
Tシャツには、大きな斬馬刀を抱えた勇ましい男を中心に、武士の出で立ちをした七人のサムライがプリントしてある。
だが「七人の侍」ではなく、「七人の痔」と筆文字で大きく書かれていた。
「あなた、観ましたかな、この世にも奇妙なぶっ飛ぶ映画は。
世界のクロサワにミフネがその名を轟音させた普及の名作だろうと、ボクは思ったり君も思ったり」
「このTシャツはミー、いや、ボツが父上殿に贈り物をするために、夜なべしてパソコン、いや、電子計算機で作ってやったんだぜい、お嬢さん。
ちなみにボツのTシャツは、こいつって具合だぜ、いかしてるってやつだ、お嬢さん」
ピーターは、はちきれそうなお腹を指差す。
そこには青いタヌキような、ネコ型ロボットであろう例の漫画がプリントされていた。
だがあのドラ○モンではなかった。
アジアの一大共産国で、まがい物をつくらせたら右に出る者はいないであろう大国の遊園地で、勝手にヌイグルミ化されたあげく、似ても似つかぬキャラに仕上がっていたという報道が以前あった。
だが、まだそちらのほうが可愛い。
ピーターのTシャツに描かれていたのは、愛くるしいキャラを大きく逸脱した、目を背けたくなるような奇ッ怪な化け物であったのだ。
インクの配分をまちがったのか、耳まで裂けた牙ののぞく口元から、大量の赤色が流れおちている。
女性職員は思わずエズきそうになった。
「さあそこで問題です! いったいこの二人は目的を達成するために、どこへ向かうというのでしょうか! 次週こうご期待!」
「い、いえお客さま、次週は私、休暇をいただいておりまして」
パパとピーターはお互いに顔を見合せて、残念そうに大きく肩を落とす。
「ああ、いえいえ、私のことは関係ございませんわね、失礼いたしました」
「この国へ来たら、絶対に食べないと死んでしまうと言い伝えがあります」
「はっ?」
「ホリエモン? ドザエモン? いや正解から遠く離れていく予感。
なんだっけ、ピーター、我が愛すべき娘じゃないほうよ」
ピーターは眼鏡の奥に目を光らせた。
「父上殿でも、お忘れでございましょうか。
ふふふっ、ボツが大きな声で持ってお答えしてしんぜましょうぞ。
それを答えるのなら、『クマ○ン』で~す~!」
「オウっ、さすがわたしの血を引いてきちゃってるはずが、なぜか隣の旦那さんにも似ている、このこせがれめ!
そうよそうよ、お嬢さん、ク○モンを食事にいきたいと彼らは申し上げてるそうです、応答せよ」
「ク、クマモ……? あれって食用だったのかしら。
ああ、でもお国によっては、思わずドン引きするような食材を、御馳走と呼ぶし。
ちょっと、お待ちください」
女性職員は電話機を取り上げ、「どこか近辺で○マモンを食べられるお店って……いえ、私が食べるんじゃなくてお客さまが……え? 姿焼か造りか? そんなに種類が? ああ、違うのね。そう、だから、クマモ○ですって。ゲテモノ料理屋? 訊いて折り返し? わかりました」
果たして二人の外国人は、食べないと死んでしまうクマモ○を食することはできるのであろうか。
などと暑さに浮かれたわたくしは、いったい何を描こうとしているのかしら。
こんなときには、アイスティで胃の腑から冷やしませぬと。
一息つきまして、カクヨムさまをばチェックいたします。
あ、拙作にレビューとお★さまが!
暑さゆえの蜃気楼?
今回はちょっぴり趣向を変えまして。
ゆうけんさま、このノートでは初めまして!
お忙しい中にも関わらず、つばきの素通りされております長編をお目通しくださり、誠にありがとうございます!
「【閲覧注意】! スペクター・キャプター」
方程式の見本だなんて、嬉しい♡
今作は、オカルトとロックバンドを組み合わせてみました。いわゆるラノベ、でございます。第一回webコンで、見事においてきぼりをくらったいましたのよ。オホホッ……はあぁっ……
もちろん、いまだに素通りされていきますの。ですから、ゆうけんさまに応援コメントを最初に頂戴したときには、もうビックリポンでございます。
ここまで丁寧にご覧下さり、しかも書き手冥利に尽きるレビューを頂戴いたしまして、誠にありがとうございます!
つばきは、元気を頂戴いたしました♪~♪
「トリック・トリップ 無限大」
素晴らしい物語だなんて、嬉しい♡
実は今作も第一回webコンで、潔いほど見向きもされませなんだ。
はあっ、やはりつばきにはラノベは無理ってことかしら……
置いといても仕方ないし、いっそ非公開にしちゃおっかしら。などと思っていた矢先、ゆうけんさまからの応援コメントをいただきましたの。
読まれない理由、それはわたくしにもわかりませぬ。それでもゆうけんさもの温かなコメント、しかも書き手の言わんとすることをつぶさに拾って下さり、天にも昇る心地とは、まさしくこのことでございます。
誰かを想う気持ち。絆。信頼。それこそ今作に想いを込めて紡ぎました。
非公開にせず、良かった☆
ゆうけんさま、心より御礼申し上げます♪
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!
紅蛇さま、いつも大変お世話になっております!
暑さ厳しき折、お時間を割いて下さり誠にありがとうございます!
「面妖な金属男」
応援コメント、並びにお★さまをいただきまして、誠にありがとうございます♪
つばきのサイコパス・キャラでは、多分最高峰に位置します、タマサブ。お目汚しでなければよかったのですが。
「魔陣幻戯」、「千年魍魎」でも活躍いたしておりますのよ。
と、ちゃっかり宣伝する、憎めぬわたくし♡
「明日へ奏でる草笛の音」
素敵だなんて、嬉しい♡
今作はエゲツナさも猟奇も、一切ございませぬ。オーソドックスな短編でございますゆえ、物足りなさは感じられませぬでしたでしょうかしら。
戦争もイジメも、わたくしは嫌悪しております。ましてや我が子を手に掛ける鬼畜な親など、もはや生きる価値なしでございます。
子は親のモノではございませぬ。国の宝でございます。
せちがらい世ゆえ、せめてこんなお話があれば慰めに少しはならぬかしら、などと独り思って描きました。
鳥肌がたった、など最高の賛辞でございます☆
心より御礼申し上げます♪~♪