時計の針が午後十一時半をまわりました。
さあ、そろそろ深夜徘徊を兼ねて妖魔探索に出かねば。
わたくしはクリーニングしたての、対妖魔用ボディーアーマーを装着いたします。真紅のレオタード仕様、マジョーラカラーなる独特な発色をでございます。
このカラーリングを簡単に申せば、 所々に真紅と黒のグラデーション表現が見られますの。ステキ、でございますでしょ。
同色のヘルメットを手にし、一応お屋敷から出る際は念のために上からダウンのロングコートをはおります。もちろん、真紅。
夜は冷えるため?
いえいえ、まさかこの屋敷の女主人が妖魔討伐を行っているだなんて、どなたにも悟られぬようの配慮でございます。
正門を出まして、静まった町内をなるべくブーツの音が響かぬよう、こっそりと歩き出します。
通りの角を曲がる直前、わたくしの冴えわたる聴覚それをキャッチいたしました。
リ~ン、コ~ンンッ、リ~ン、カラ~ンンッ。
は! この音は!
もちろん、わたくしの所有いたします神楽鈴とは異なります。
澄み渡る音色に、音階があるのです。
サッと角の壁に身を潜めまして、切れ長二重の目で音の方向を確認いたしました。
「あっ、あれは!」
色とりどり、鮮やかなイルミネーションの塊がゆっくりと動いているではありませんか。
しかもチッカ、チッカ、チッカと明滅しております。
それに合わせて、リ~ン、コ~ンンッ、リ~ン、カラ~ンンッと音色がこだまして参ります。
新手の妖魔!
いえいえ、そうではございませぬ。
わたくしはヘルメットを背後に隠し、ゆっくりと壁から離れてそのまばゆき光を待ちました。
靴や、サンダル、クロックスがアスファルトの地面を歩く音。
そして、リ~ン、コ~ンンッ、リ~ン、カラ~ンンッと鳴っておりますのは、はい、“ ハンドベル ” 、でございます。
我が町内、冬の風物詩である「婦人会・夜回りハンドベル・レディース」なるかたがたでございます。
先頭を歩かれるのは、ちょっぴり恰幅の良い婦人会長さま。
クリスマスツリーに飾るLEDを頭からつま先まで、全身くまなく巻きつけまして、両手にはハンドベルをお持ちなんですの。
赤、青、緑などの小さなランプがチッカ、チッカ、チッカと輝いております。
婦人会長さまの後ろには同様のスタイルで五名、さらに最後尾にはバッテリーを積んだ手押し車を押す担当のかたが二名続きます。
バッテリから繋がれた電飾の配線に足をとられぬよう、婦人会長さま以外皆さま必死の形相でございます。
はっきり申せば、妖魔よりもコワイかも……
「ヤマダの奥さまっ、少しリズムが乱れておりますザンス」
「は、はい、申し訳ございません、婦人会長」
「タナカの奥さまっ、足元ばかりに気をとられますと、本来の夜回りハンドベル・レディースのお仕事である、不審人物を見逃すザマスわよ。気をお引き締めになって!」
「気をつけます!」
わたくしは、わざと鼻唄まじりに進み、「あら、皆さま! ご苦労さまでございますわあ」と、こちらからお声かけいたします。
婦人会長さまは、どこに売ってるの? と思われる頂点のつり上がった三角形の眼鏡越しに、ギロリとわたくしを睨まれました。そして夜目にもわかる、テラテラと輝く真っ赤なルージュを引かれた厚い口元で言われました。
「あらまあ、これはこれは高尾さまではございませんこと。
こんな夜分にどちらまで?」
「え、ええ。少し小腹がすきましたゆえ、コンビニまでと」
「夜もふけて参りましたから、充分お気をつけなさって。アアタみたいなお若い婦女子が出歩かれるなんて、世の中も変わったザマス。
そうそう、来年はぜひ高尾さまもティームにご参加なさってくださいましねえ。
この頃、なんですか、婦人会の催し物に不参加のかたが多ございますのよ」
「え? は、はい。え~っと、ご希望に沿えますかどうか……」
婦人会長さまは、「フン! ささ、皆さま。参りますわよ」とわたくしに一瞥をくれますと、手にされたハンドベルをリ~ンっと鳴らされました。
金属の甲高い音に、イルミネーションを全身に施された異様な、いえ、職務熱心なご婦人たちは、再び歩き出されました。
来年の冬だけ、わたくしハワイの別荘へでも行ってようかしら。
ふうっとため息を吐き、妖魔探索する前にカクヨムさまをチェック。
あ、「夜空いっぱいのシューティング・スター」にレビューとお★さまをいただいております!
@tracevoyageさま、
どうも、初めまして! お忙しい中、拙作をご覧くださり、また輝くお★さまを頂戴いたしまして誠にありがとうございます!
お★さまは元気の源でございます。嬉しい♡
心より御礼申し上げます♬
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!
白里りこ さま、
大変ご無沙汰いたしております。年末ご多忙の中ご覧いただき、またレビューまで頂戴いたしまして、誠にありがとうございます!
これまた予想外でございましたでしょうか。威勢のよいこんな親っさんは、ちょっとはた迷惑かも。爆上がりだなんて、嬉しい♡
トナカイも、あれはあれで楽しんでいるやもですわね。
心より御礼申し上げます♬
織田崇滉 さま、
キャ~ッ、織田先生♡ ご執筆で超ご多忙なのにご覧くださり、またレビューまでいただきまして誠にありがとうございます!
行間を読んでくだすって、嬉しい♡
和洋折衷は、うまく表現できておりますでしょうか。子どもたちの笑顔は、どんな宝石よりも貴くまばゆいものでございます。せめて、この日だけは皆さまが笑って過ごしとうございますわねえ。
心より御礼申し上げます♬
雅島貢 さま、
どうも初めまして! 師走のあわただしき時期にご覧くださり、またレビューを頂戴いたしまして、誠にありがとうございます!
パーフェクトな塩梅だなんて、嬉しい♡
クリスマスには奇跡なイベントが似合います。ちょっと浪花節めいてしまいましたけど、いただいたレビューは書き手の心に大きく響いております。素敵なお言葉でございます。
心より御礼申し上げます♬
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!