日課のウォーキング途中で、「ギョーザが死ぬほど食べたい」などと突然思い立ちました。
でも待って。
わたくし以前に、百人前のギョーザを無理矢理食したわ。それでもお食べになるの?
自問自答をする間に、わたくしの足は主人であるわたくしを綺麗さっぱり無視して、町内にございます中華料理店へ向かっているではありませぬか。
うふふ、仕方ないわねえ。これっきりよ。
などと独り言を口にしながらも、すでに頭の中はアツアツの肉汁が弾けますギョーザで埋め尽くされております。
なぜこれほどまでに、ギョーザを愛すのでしょうや。
ギョーザを蛇蝎のごとく毛嫌いするおかたがもしいらっしゃるなら、わたくしはこんこんと理詰めでギョーザの美味しさ、奥深さを何時間でも語って差し上げますわ。
あの角を曲がればお店だわ。
わたくしの足はすでにウォーキングなどという生やさしい速度ではなく、全速力にギア・チェンジしております。
キキーッと土煙を上げながら直角にターン!
あらっ、わたくし曲がるところを間違えたのかしら?
いえいえ、そんなはずはございませぬ。わたくしは人間GPSよ。
商店街の一角に小さく看板を掲げている中華料理屋さま。のはずが、入口にはドアマンのような燕尾服をお召しになられた殿方がお立ちに
なっておられます。もしやお店が満員でお並びに?
わたくしはお店の赤い暖簾が微風に揺れているのを確認いたしました。
間違いないわねえ。
全速力から一気にシフトダウンいたし、小首を傾げながらお店に近づきます。
殿方はお年を召していらっしゃいますれど、シャンと背筋を伸ばされ、両手を前に組んでおられます。しかもお店を背にし、ドア横に
お立ちです。
「あ、あのう」
「いらっしゃいませ。お客さま、本日はご予約は頂戴しておりましたでしょうか」
「えっ? いえ、予約はしておりませぬ」
「予約はなし、つまり一見さまの飛び込みである。と、かようなことでございますね」
「は、はい……いつから予約が必要に?」
「当店では以前より、完全ご予約制をとらせていただいております。
ただ、少々お待ちいただけますか、マドモアゼル」
「マ、マドモ? アゼル?」
殿方はくるりと踵で回転されると、入口のドアをお開けになり中へ入られます。
このお店って、わたくしはちょくちょく立ち寄りますれど、予約なんてしたことはございませぬ。
しかも給仕長とかって呼ばれるおかたが、店前にお立ちになっていたこともございませぬ。
ドアがいきなり開きました。
「お待たせしております、お客さま。ただ今オーナーシェフの確認を取りまして、今回に限り特別にお席を用意させていただきます。
次回からはご予約をお願い申し上げます」
慇懃な態度で、しかと申され、わたくしは「あいすみませぬ」と頭を下げながら店内へ入りました。
お店の中はいつものちょっと小汚い、町の中華料理屋さまそのものでございます。
他のお客さまはいらっしゃいませぬ。
オープンキッチンのカウンターの中にも、どなたもいらっしゃいませぬ。ただ寸胴から湯気が上がっており、ご主人は席をはずされて
おいでなのでしょうか。
「それではどうぞ、こちらへ」
給仕長らしきおかたが、カウンター前のイスを引いてくれます。
わたくしはとまどいながらも腰を下ろしました。
「本日のおすすめでございますが。南フランスから取り寄せました、とてもよい鴨がございます。
あとは近海であがりましたカジキマグロなどもよろしいかと。
お飲物でしたらシャトー・マルゴーの2000年物がお料理にはよく合いますでしょう」
「えーっと、あのう、わたくし……ギョーザを……ああ、すみませぬ!」
ギョーザと口にした途端、給仕長の眉毛が大きくつり上がり、わたくしはあわてて頭を下げました。
その時です。
ジャーッと水音が聞こえ、店奥にございますお手洗いから、若いあの中国語訛り(?)のご主人が出ていらっしゃいました。
「あいやー、ちょぽっとお腹ゆるいねえ。あっ、タカオさんあるね。いらっしゃーい」
わたくしは思わず涙ぐんで、ご主人に助けをこうようにイスから立ち上がりました。
「ああ、ご主人! お会いしたかったです~!」
「として泣いてる? そんなに会いたかったあるか?
てもタメね。ワタシ、嫁も子もいるあるね」
「いえいえっ、そうではなく」
「あっ、おとーさん! タメあるね、勝手にお店ててきて」
「お、お父さま?」
「そうよ、ワタシの父あるね。今日は久しぷりに老人ホームから連れてきたあるよ。
元は一流フレンチレストランの給仕長たったのよ。たま~に昔を思いたすみたいあるよ。
さあさあ、おとーさん。二階てテレピても観ててよ」
元給仕長であるお父上は、慇懃にわたくしに一礼いたしますとお手洗い横の階段から二階へ上がられました。
「タカオさん、お待たせね。なに召しあかる?」
わたくしは涙目のまま、ギョーザをとりあえず三人前注文いたしました。
焼き上がりますまで、カクヨムさまを涙目でチェックいたします。
拙作「猟奇なドール」にレビューをいただいております!
春川晴人 さま、
引き続きご覧くだすって、誠にありがとうございます!
猟奇な世界はいかがでございましたでしょうか。
爽快感……人さまによりまして、不快感、と取られるようでございます、悲しいかな。でもそう仰ってくだすって、嬉しい♡
白濁いたしました、濃厚豚骨スープでございますわねえ。
あっさりお醤油味の物語。もうわたくしには縁が無いようでございます。
心より御礼申し上げます!
拙作「予想外な涼ノ宮兄弟」にレビューを頂戴しております!
Zooey(ゾーイー)さま、
平素は大変お世話になっております。この度もお時間を頂戴いたしまして、誠にありがとうございます!
見た目と中身、確かに見極めが大切でございます。今回のテーマを語ってくださり、つばきは感激いたしております♡
またいつの日にか、涼ノ宮兄弟の物語がお届けできますれば、と思っております。
心より御礼申し上げます!