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あれは冷え込んだ寒い朝だった

 頬に貼り付くような冷たい空気で目を覚まし、私は枕元にある目覚まし時計を手に取った。すでに日は昇っていて、起床する時刻が迫っていることを思うと無意識にため息が漏れた。その吐息が真っ白で、今日も寒くなりそうだとまたため息が出る。
 改めて時計に視線を向ける。デジタル表示された数字に目をやり――二度見してしまった。
 4.6℃。
 これが室温だと寝ぼけた脳が理解すると、知らず体が震えた。ここ最近で最も低い気温だ。ぬくぬくとした温かい毛布を体に巻き付け、冷えないようにする。
 起きたくねぇ……
 そうは思っても時間が来れば起きなければならない。私にできるのは目覚まし時計がアラームを鳴らすまで二度寝することだけだった。
 やがて時間になり、親愛なるお布団にしばしのお別れを告げる無情なアラームが鳴り響いた。
 起きたくねぇ……
 思わず漏れた二度目の呟きをなかったことにし、私は布団を這い出た。急激に襲い来る寒気に全身が凍るようだ。やはりここ最近で一番寒い。
 自室を出てダイニングに向かう。先に起きていた家族が朝食を取っていて、コーヒーとトーストの香りが鼻腔を通り抜けていった。
「おはよう」
 起きてきた私に気づいた家族が挨拶してきた。私はそれに返そうと口を開く。
「おは……」
 『は』を発音した瞬間、ぴりっと口元で音がして、小さい癖にやけに鋭い痛みが走った。
 かさかさに乾いた唇が割れてしまったのだ。
 ああ、そういう時期か……と、私は舐めて湿した唇の鉄さびに似た味にげんなりした。



……という一幕を経て誕生したのが、今作の

『翻訳さん。Short Story』

です。

乾燥した季節の『ひび割れ』って嫌ですよねぇ……と愚痴を垂れつつ、またしても『眠り姫』の続編ができる前に違う作品ができてしまいました。何やってんだか……。
それはさておき。
今作は『翻訳さん。』の番外編第2作というポジションで、前後編、約7000字(予定)になります。

本編に番外編2として組み込んでもよかったんですけど、思うところがあって独立させました。
組み込むと小回りが利かなくなるんですよね……番外編を独立させずに本編のつけたしにして、ちょっと不便に思ったので。

公開予定は12/14(土)・15(日)です。
あくまで予定ですので変更があるかもしれませんが、期待せずにお待ちください。


それではみなさま、ごきげんよう。

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