https://kakuyomu.jp/works/16817330656927273343/episodes/16818093074483665801「思ったよりも遅かったですね」
シュバルツは部屋の最奥。恐らく、彼の父親が、今の人格となっている人物が座っていたであろう椅子に腰を掛けていた。
「ここに来る事が分かっていたかのような口ぶりじゃないか」
「コピーしたデータが消えたんです。オリジナルを見たくなるのは至極当然の心理ではないでしょうか」
「データが消えたのはお前が張った罠だったか」
「一応、世間に出たらまずいものですからね。ファイル展開して一定時間が経過しても生体認証がなされない場合、読み取っているデバイスもろとも初期化するコードを仕込んでおきました。もっとも、あのファイルの内容を読んだところで誰も信じないでしょう。人格の入れ替わりや別世界の話など、古典的過ぎてコメディにすらならない」
「できの悪い演劇ならまだいい。しかしこれは現実だ。答えろシュバルツ。お前はどちらのシュバルツだ」
「どちらの……という問いは不適当ですかね。私達シュバルツは身体こそ離れていますが心は常に同じ。全員が共通の意識、共通の精神です」
「お前の子供は別だろう」
「同じですよ。ポールは私の意思を継いでくれた。そして、私と一つとなった。彼もやはり、私達と同じシュバルツです」
「もう少し論理的な話ができると思ったんだが、ただの狂人か。この先、狂った人間が何をする気だ」
「私は正気ですが、それを貴方に証明する手立てはないし、その気もない。どちらでもいいんです。私にとってはね。しかし、この先何が起ころうとしているか説明はいたしましょう。貴方の世界の言葉でいうと、“冥途の土産”というやつでしょうか」
「やはり、お前が三つの人工惑星を同時に爆発するのか」
「……どこでその情報を?」