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いくひ誌。【681~690】

※日々、全盛期を越えようと抗い、欠点を埋め、全体像の補完によって進化の烙印を捺すとする妥協を繰りかえしてはいまいか?


681:【新作情報】
2017年三つ目の新作です。短編は月2くらいの頻度で更新しているつもりですが、中編および長編は今年に入って三作目となります。一作目【血と義と花のモノガタリ】、二作目【この女、神】、そして2017年8/26日に脱稿しました【陰の薄いあのコの影になれたなら】です。多重構造を進化させるために、いちどそれを放棄し、ただ一つの物語を真っ向からつくりました。影の薄い女の子と、二面性を持った女の子のガチンコ思春期百合モノです。本筋に男はいっさい絡みません(あ、ウソです、絡みます)。いくひし作品にありがちな、「そういう予想の外し方しますー?」みたいなのは今作では封印しております。安心してお読みいただけるのかよほんとーにー? みたいな感じでございます。寝かせて、推敲し、九月中にほかの中編と併せて更新できたらなーと思います。未来の、郁菱万研究者たちのために、ここにその旨、記録しておきます。


682:【時間の圧縮】
原稿を寝かせるとき、できるだけその時間を短縮できたらいいなぁと思いませんか? いろいろ試行錯誤してきたなかでもっとも効果のあった方法をご紹介します。まず前提として、なぜ原稿を寝かせるのでしょう。それは客観性を得るためです。作者の視点を離れ、何も知らない読者の視点になって原稿を見つめる。そのために時間を置き、頭を冷やさなければならないわけですが、ここで注意が必要なのは、本当に頭を冷やしてしまっては逆効果だという点です。ゼロに立ち返るのではなく、視点という名の次元を越える(捨てる)ことで客観性は得られます。ゼロに戻るだけでは、作者の視点のままなのです。そこで必要になってくるのは、可能なかぎり、作者たる自分の核を薄めることです。この場合、自分の内側を、他人の世界で極限まで満たしてしまえばいいわけです。具体的には、とにかくさまざまな媒体の物語を摂取する。寝かせているあいだにつぎの作品をつくってしまう、というのも一つの方法です。まったく異なる色の物語をつくることで、脳内を上書きしてしまうわけです。塗り替えられたじぶんはもはや、以前のじぶんではありません。物語を摂取するか、或いは新たに塗り替えてしまうか。両方実践してしまうのがもっとも効果があります。ただし脳が疲れてしまうので、そのときは文芸とはまったく関係のない息抜きを生活のなかに組みこむのがよいでしょう。そうなってくるともう、原稿を寝かせているあいだの時間がもっとも多忙になってくるので、その期間がステップアップの時間にもなり、生産性を上げることに繋がります。つむいだ物語をいちはやく発表したいひとに試してほしい時間の圧縮の仕方でした。


683:【メモ】
生物とウイルスの違いは、人間と機械、AIとバックアップ、物語と文章、光と電子、そして宇宙と銀河団の違いである。


684:【掴むために、手放せ】
武器を捨てよ。それだけだなんて言わせるな。


685:【順応】
いろんな生態系がある。水中や地中、山岳地帯や砂漠地帯、海底から上空から、火山口や熱水噴出孔まで様々な環境に生命は芽吹き、適応し、それぞれの場所に平気な顔で根付いている。人間社会も例外ではない。多くはその環境のそとに出ようとはせず、出なくとも済むようになっている。けれど彼女はただ一人、宇宙空間が生息域であった。奇しくも彼女は地上に生まれた。彼女は順応した。様々な環境、地域、コミュニティに適応し、そして常に息苦しさを覚えつづけてきた。彼女はどんな環境でも生きていける。適応できる。――平気ではなかった。あらゆる生命に合わせることのできる彼女であるが、しかし彼女へ合わせられるモノはない。なぜなら宇宙空間に順応し、生きながらえることのできる生命体は、彼女ただ独りきりであるからだ。彼女が息苦しさを覚えるたびに、彼女は周囲から不適合者の烙印を捺され、居場所を追われた。そんな扱いにも彼女は順応する。彼女は居場所を求めている。しかし地上に彼女の居場所はない。


686:【怒らない】
あなたは親しい人間にしか怒らない。親しい人間はあなたの一部なので、彼らがあなたに何かしらの害を及ぼしたならば、それはそのままあなたが損をすることになる。害を及ぼされることが損なのではない、害を及ぼすことが損なのだ。だからあなたとは無関係の人たちからどんな害を被られようと、あなたは基本的には怒らない。損をするのがあなたではないと知っているからだ。死でさえ例外ではない。無関係の人間があなたを殺したとしても、損をするのはあなたではない。社会からあなたが消えることで結果として損をするのは、その他大勢の、有象無象、そして彼ら彼女たちの子孫である。ただし傷つきたいわけではないので、何かしらの害を及ぼそうとする者が目のまえに現れたら、何かしらの対処を施しはするだろう。その結果、相手が死んでしまうかもしれない(あなたが怒らずとも、相手がかってに怒りだすことはある。あなたに降りかかる害が大きければ大きいほど、あなたの施す防衛策もまた過激になっていく)。あなたにとってそれは避けるべき損だ。あなたが対人するときビクビクしている背景にはそうした理由がある。あなたは彼らを殺したくはない。


687:【二人称百合】
いつも目で追っていた。いつも目が合うね、とあなたに言われて気がついた。まともに返事ができなかったことにしばらくクヨクヨした。季節がひとつ横にずれたくらいのころにあなたは、目ぇ合わなくなっちゃったね、と廊下ですれちがいざまに微笑むようにした。わたしはそれからしばらくあなたの姿を目で追った。あなたはもうわたしの視線を掴んではくれなかった。クラス替えがあり、あなたとは離れ離れになった。卒業するまであなたとわたしの線が交わることはなく、わたしは過去のわたしを呪うことで、あのときああすればよかったの嵐を凌いでいた。お互いに別々の高校に通うことになった。そんなことは卒業する前から知っていたのに、いざ学校生活からあなたの姿がすっかり消えてしまうと、気に病まずにはいられなかった。そんなことを気にしているのはわたしだけかもしれなかった。だから、あなたが同じ電車で通学していると知ったとき、さいわいだと思ったのもまたわたしだけかもしれない。駅のプラットホームでときおりあなたの姿を目にした。おなじ車両に乗り合わせることもしばしばだった。部活をやっているからなのか、放課後、あなたを見かけることはなく、何かきっかけがほしいと思い、いっそあなたが痴漢か何かに遭わないかと妄想して過ごしたりした。なんでまたそんなひどい想像を浮かべてしまうのか。あなたのことを考えるにつけ、じぶんがひどくさもしいものに思えた。痴漢に遭ったのは、そんなわたしにくだされた罰なのだろう。甘んじて受けようと思い、耐えてみたものの、三日連続ともなると、さすがにわたしの心も限界だった。もともと誇れるほど頑丈な心ではなく、そもそもを言うならばあなたに声をかけられずいつまでも遠巻きに眺めては、またあのころのように、目、合わないかな、と祈るばかりのわたしの心が痴漢の魔の手にさらされ、無事で済むわけがないのだった。わたしは泣く泣く、朝の車両を移動した。あなたの姿が遠のき、わたしの心は干からびるばかりだ。二日間を無事に過ごした。週をまたいだ、三日目にして、わたしは四度目の痴漢に遭った。ああ、触り方だけでおなじ痴漢だと判るまでに、わたしの身体は汚れてしまったのだな。頭の奥がガンガンして、何かじぶんがガムの包装紙や、靴底に挟まった小石のように感じられた。おまえなんか痴漢に遭うために生きているのだ、おまえだから痴漢に遭うのだ、わたしは痴漢専用の痴漢ホイホイになった気がした。わたしが我慢しているあいだ、こんな気分になるひとはいないのだ。わたしは役に立っている。そう思うことで干からびてヒビだらけの心をなんとか柱のカタチに保ちつづけた。車両を移動しても痴漢はその日のうちにわたしの背後に現れ、わたしの太ももに腰を押しつけるようにした。硬い棒状のものは、わたしのおしりの割れ目をじつによくなぞった。わたしのおしりの割れ目の書き初めがあれば金賞間違いなしだと思えたほどだ。手で揉みしだかれないだけマシかもしれない。思った矢先に、痴漢はわたしの観念具合を目ざとく見透かし、ゆびで股のもっとも敏感な部位をなぞりはじめた。さすがにこれはダメでしょう。痴漢行為がどうのこうのではなく、これを我慢したら人間として何か大事なものを失くしてしまう気がした。声をあげようとした。だせなかった。口を塞がれている。背の低さがわざわいした。周りのおとなたちはみな背が高く、わたしから漏れる呻き声も、電車のガタンゴトンには敵わなかった。凍死してしまうほどの寒さと闘いながらわたしは、過去のわたしを呪った。話すきっかけ欲しさに、あなたがこんな目に遭えばいいのにと、好意からとはいえ願ったことをお腹の底から後悔した。「はーい、痴漢でーす、このひと痴漢でーす」車内に声が響いた。何事かとざわめく人混みをかき分け、頭上にメディア端末のカメラを構えながら、あなたが姿を現した。「逃げんなよおっさん」あなたはカメラのレンズをわたしの背中のほうへ向け、わたしを頭ごと胸に寄せるようにした。「ぜんぶ撮ったからな。逃げんなよ」痴漢の顔を確認したかったのに、わたしは安堵とうれしいのと、こわかったのと、なんだか分からなくなって、びちゃびちゃと泣いた。痴漢は周りのおとなのひとたちが逃げないように捕まえておいてくれた。駅に着くなり、駅員さんに引き渡されていた。わたしたちは痴漢とはべつの場所で警察のひとに経緯を話した。そのほとんどをあなたがしゃべってくれたのには驚いた。「いつもいるのにいなくって。どうしたんだろって思って、探したら、なんか痴漢っぽいのに遭ってるし。声あげればいいのにって思っていちどは見なかったフリしたんだけど、なんかまたされてるみたいだから、証拠ばっちし撮って、突きだしてやろうかと思って」動画のおかげで冤罪の可能性はゼロと判断された。相手も観念しているようだった。その日、わたしたちは学校を休み、つぎの日から、あなたがわたしの背中側に立つようになった。「痴漢死ねとは思うけど、まあやりたくなる気持ちは分かるな」あなたはわたしの頭のうえにあごを載せ、ウリウリと揺すった。「分かんないで」あなたの吐息がつむじにあたるたびに、ベッドのなかのぬくぬくに似た何かがわたしから足腰のチカラを奪っていくようだった。「学校、いっしょだったらよかったね」夏まつりの夜、花火を観終わって、ふたりで公園のベンチでしゃべっていた。「どうして」とあなたはふしぎがった。「やなの?」わたしのほうこそふしぎだった。「学校でもいっしょにいたいよ」「だって」とあなたは言った。「同じ学校だったら、こういうことできないじゃん?」目のまえから光が失せ、気づくとあなたの髪の毛が鼻のあたまをくすぐっている。シャンプーの匂いがし、おなじやつにしたいな、と思った。光が戻る。「噂とかコワイし」「べつにヤじゃないよ」わたしからは手を握るだけにする。「そ?」あなたはまた世界から光を奪い、わたしの頬を熱くさせる。


688:【情報加工装置】
情報を発信するツールは飽和状態になりつつある。モノよりコトと叫ばれて数年経つが、情報の加工ツールもまた国民に行きわたりつつある。つぎの段階は、他人にできない情報加工をどれだけ短期間に量産できるかになってくる。加工された情報の大量生産、大量消費の時代が幕を開ける。並行して、「モノよりコトだが、コトより情報加工技術」の時代がやってくる。するとけっきょくは、情報加工装置を世に提供する企業が世のなかを牛耳っていくこととなる。裏からいえば、加工された情報から元のデータを復元できるツールを開発するような企業はグーグルやアマゾンに対抗し得る(ビックデータとクラウド、そしてディープラーニングを応用すれば不可能ではなくなる)。


689:【キテるね】
逆ツンデレというか、愛想のよいキャラが本性あらわしてのギャップ萌えがさいきんキテる気がします。いままでは「マイナス→プラス」だったのが、さいきんは「プラス→マイナス」の本性暴露キャラが人気キャラの鉄板になっている気がするのですが、いかがか。悪態をつけるくらいの仲、みたいな感じでしょうか。ルーツはひょっとすると「らんま1/2」のシャンプーかも分かりません。さいきんだと「妄想テレパシー」のマナちゃん、「トモちゃんは女の子」のキャロルちゃん、「ヲタクに恋は難しい」の成海さん、「春の呪い」の夏美さん、「バイオレンスアクション」のケイちゃん、「ダンジョン飯」のマルシルさん、「響~小説家になる方法~」の凛夏さん、「姉なるもの」の千夜さん、というかおねショタのお姉さん方は基本、胸にイチモツを隠している時点ですべてこれと言っていいかも分かりません。ああでも、ひぐらしの鳴く頃にのキャラもこれだったし、思えば某「魔法少女になってよ」さんも典型的なこれでしたね。残念系美少女というのも流行りましたし、言ったら、ギャップ萌えがツンデレだけでなく、幅が広がったということなのかもしれません。むかしからあったよ、という意見には、そうでしょうとも、と手を差しだし、あつい握手を交わしましょう。


690:【思考回路】
文章は平面かつ一次元よりであり、フォルダは立体かつ二次元よりであり、タッチパネルのスクロール操作は多次元かつ三次元よりだ。人類は道具の使用により、思考回路を世代ごとにバージョンアップさせてきた。おそらく書籍、PC、そしてスマホの登場と、道具の進化に比例して思考回路は飛躍的に進化している。指数関数的と表現してもいい。スマホにしか馴染みのない若い世代と、文章型、そしてフォルダ型の旧世代とでは、ほとんど比較にならないほどの思考パターンの違いが生じているのではないかと想像する。どちらにもメリットデメリットはあるが、いずれにせよこのさきの情報社会に、より適応しやすいのは、立体的な思考を展開できる人才であろう。


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参照:いくひ誌。【301~310】https://kakuyomu.jp/users/stand_ant_complex/news/1177354054882443686

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