ジャンル問わず読み漁っていると、少なくない頻度で嫌でも目にしてしまう、作者からの『怒られました』『警告が来ました』という悲しい報告。
ときには『どこが駄目なのか具体的に言ってくれっ!』とやるせない叫びを上げる姿も見ます。
いやごもっとも、たぶん警告を受けた作者さんならば誰しもが感じることでしょう。
そういう私自身は、まだカクヨムに投稿した経験はないものの、よそで似た経験はしていますし、いま執筆中の作品の内容的にもまったく他人事ではありません。
では実際のところ、警告が来る基準とはどんなものなのでしょう?
まず、一番最初に一番身も蓋もないことを言ってしまうと、警告が来るかどうかの最初にして最大の分かれ目は、
『評価がどれだけ入っているか(ほかの利用者、運営の目につきやすいか)』
なのかもしれません。
これまで、警告を受けたという作者さんの報告のなかで、
『評価が入ってから警告が来た』
『コンテストに応募したら来た』
『ロイヤルティプログラムでリワード受け取る段階で来た』
といった話を目にしました。
つまり、あとから内容を書き換えたわけでもないのに、投稿当初の段階では警告が来なかったということですね。
これについては信憑性がありそうだなぁと思っています。
なぜなら、そうした声がある一方で、評価がほとんど入っていない作品のなかには、明らかにガイドラインに触れる内容でありながら、特に止まることなく連載が続いているものがあるからです。
投稿時に内容を自動判定するような、機械的なチェックがないとは言いきれませんが、おそらくランキング作品やコンテスト、リワードなど、野放図な状態ではマズい領域に乗った作品が重点的に調べられているのでしょう。
(追記:投稿当初、ユーザーからの通報という要素をすっかり失念していましたので、今さらながら加えておきます。その点においても、より多くの人の目に触れるようになってから警告が来た、というのは整合性がありそうです)。
それ以外の作品についてはちょっと抜けがある、というのは、少々不公平を感じさせるものがあります(すべて推測のため、運営さん的には違うのかもしれません)。
もっとも、小説という表現の形式上、完全な自動判定というのはいまはまだ難しいという都合もあるのでしょうか。
ほかにもう一点、警告を受けた作者さんたちをモヤっとさせているのが、『具体的な修正箇所、基準を教えてくれない』という部分でしょう。
私はまだ警告はおろか投稿前のため、運営さんからのお手紙は見たことがないものの、複数の作者さんが口を揃えて「どこを直せばいいのかわからんっ! 具体的にここと言ってくれっ!」と悲しみの叫びを上げているのを見るに、細かくは教えてはくれないのでしょう。
(2022/10/14 その後、新しく警告を受けたという複数の作者さんの報告を見ていると、どこが問題なのかある程度具体的な連絡が来るらしく、以前とは違うのかもしれません。とはいえ、以降の内容がまったく的外れになったというわけでもなさそうなので、特に修正はしていません)
ただ、致し方ない部分もあるのかなと個人的に感じています。
逆に考えて、ガイドラインや警告の通知などでもっと具体的で明確な基準を設けたとしましょう。
次に始まるのは、ほぼ間違いなく、〝どこまでギリギリを攻められるかのチキンレース〟です。
『こういう単語や描写は駄目です』
と言われれば、じゃあそれ以外の言葉や表現・シチュならなんでもいいんだねっ! となるのは目に見えています。
このへんの話は、カクヨムの運営さんがどうというより、こういったサービスのガイドラインは総じて似たものではないでしょうか。
有名なところでは、二次創作に対する公式のガイドラインなども近いかもしれません。
禁止事項を細かく定めるよりも、ある程度のラインを示すにとどめ、あとは利用者の判断と良識に委ねるという形です。
それらには、界隈を不必要に萎縮させないという配慮、細かな内容までいちいち設定してられない、といった事情もあるかもしれませんが、それ以上に、具体的な基準を示すことで始まるチキンレースを避ける意味合いもあるのではないでしょうか。
問題のある表現が出るたびにあれは駄目これは駄目とするぐらいなら、いっそすべて禁止してしまうほうが早いわけですから。
これはカクヨムさんでも同じだと思うのですが、〝なにがなんでも過激な表現を守らなければならない理由〟などないでしょうし。
さて、以上を踏まえた上で。改めて『運営が〝これはアウトっ!〟と判断する基準』を考えてみます。
ガイドラインによれば、
〝それ自体が作品の目的(テーマ)ではなく、物語上の必要な要素として必要最低限の描写となるよう配慮をお願いいたします。〟
として性描写や暴力描写、いわゆるエログロ(ゴア)表現でしょうか、などが挙げられ、
〝上記についての過剰な表現や、表現・描写の割合が大きいもの〟
を制限するとされています。
おそらく、実際に警告を受けたという作品の多くは性描写についてだと思うのですが(ここもよく考えると「なんで? 暴力描写も大概過激じゃね?」となりますが今回は置いておきます)、このガイドラインを見る限り、キモとなるのはこの、
〝物語上の必要な要素として必要最低限の描写〟
という部分なのでしょう。
作者的には、「これは必要最低限の描写なんだって!」と言いたくなるところでしょうが……この考え方については、著作物の【引用】に関するものと近いのかもしれません。
著作権には、なんらかの著作物を引用する際の要件として〝主従〟があります。
どれが自分の著作物で、どれが引用なのかの主従関係をはっきりと示す、というやつですね。
おそらく、この主従関係――ここカクヨムにおいては、〝話の内容と性的描写、どっちがメインかわからん〟というライン――が一定を超えている、と判断されたものが警告されているのではないかと推測しています。
つまり、『べつにその描写なくてもその話成り立つよね?(成り立たないなら成り立つようにしてね?)』という判断ですね。
引用を例で言えば、主従が〝明確〟である、の部分が重要なのでしょう。
性的描写の一例として、私が読んでいた作品のなかには、本番の直接的な描写がなくほぼキスシーンだけでありながら警告を受けたものがあります。
その作品などは、この考え方にモロに引っかかったのではないかと考えています。
少なくとも、件の作品のなかでは、本番行為や性的な言葉が明確に描写されていない(直接的な単語もいっさいない)一方で、それを匂わせる描写(間接的な表現)が繰り返し登場し、ただ情報として描かれているのではなく、ある程度の文字数を割いて、登場人物の性的欲求の発露として(その部分は)かなり直球に描かれていました。
キスシーンについても、行為自体はそれだけでも、人物のモノローグと前後の流れでは、それ以上の行為をがっつり想起させるものとして描写されていました。
言ってみれば、それ自体が〝過激な描写〟でなくとも、〝過激さを明確に喚起・想起させうる、また読者の性的欲求を刺激する描写〟だった、とは言えたかもしれません。
直球な言葉・表現を使っていないからセーフ、とは言えないということですね。
いやまあ、結局は〝そういう文章〟になっている時点で、運営さん的には直球な表現になるのかもしれませんが。
どちらにせよ、わりと直接的に本番行為が描写されていながらも、特に修正などなくそのまま書籍化された作品などとの決定的な違いがそこらへんにあるのでしょう。
これは完全に推測ですけども、どれかひとつというより、すべてが合わさってアウトと判定されたのかもしれません(全体的に性的表現の描写が多かったのも含め)。
作者的には、「必要だから書いたんだよ!」と叫びたいところでしょう。
上記の作品においては、性的な関係や描写が、ストーリーに直結する重要な要素として描かれていたのでなおさらです。
そもそも論としても、『性的な描写は〝絶対に〟控えなければならないものなのか?』という問いもあるでしょう。
十代の子でも手に取って読むような、名作と呼ばれる一般文芸のなかにも、それこそ官能小説のような濡れ場がある作品もあるわけで。
とはいえ、ネット小説を同列に扱えないのは仕方がありません。
唯一言えるとすれば「警告するならもっと早くしてくれよ!」みたいなことかと思いますが、これも運営さんが好き好んでそうしてるわけではなく、たとえば通報による対処ならば、どうしても後手後手になる(それだけ評価やPVが増えてからになる)のは仕方がないのでしょう。
ただし、投稿する側の注意点、またテクニックとして、上記の〝主従関係〟は無視できない要素ではないかと思います。
作品の、前後の流れのなかで、性的な(また過激な)描写の存在感がへんに大きくなっていないか、それ自体が〝過激な描写〟でなくとも、〝過激さを露骨に喚起させうる描写〟かどうか、という部分ですね。
とまあ長々と書き連ねましたが、個人的結論としては、
『わからん。こっそり書いてるうちは怒られないかも? あと〝主従関係〟と描写の多寡、質はかなり厳しく見られてる気がする』
になります。
さあ、あれこれ偉そうに書いてきましたが、今度は私の番です。
もし運営さんから怒られたら指差して笑ってやってくださいね!