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質問に対する解答  AK74ではだめですか?(メトロ住人感)

 20世紀の初頭、精密な射撃用ライフルの製造はそのかなりの部分を職人たちの熟練した手作業に頼っていた。削り出しや組み立て、仕上げに至るまで職人たちは一貫して手作業で行い、個々の部品が完璧に噛み合うよう微調整を重ねた。その結果、作られた銃器は一種の芸術品と呼べるほどの完成度を誇ったが、一方で高い精度と信頼性は、膨大な時間と労力の上に成り立つものであり、生産効率という点での限界をもたらしていた。

 第一次、第二次世界大戦が迫る中、銃器の需要はかつてないほど飛躍的に高まっていた。緊迫の度合いを強める国際情勢に対し、列強諸国は各種兵器の生産性を向上させる必要性に迫られ、ここで重要な役割を果たしたのが工業化技術の進展である。旋盤やフライス盤といった工作機械の導入によって、銃器の部品は機械的な精度で量産されるようになったが、一方で職人たちの手はなお重要な役割を担っていた。機械で作られた部品も、最終的には手作業で調整が加えられ、最適な状態に仕上げられていた。

 しかし、職人芸に頼る製造方式には、効率面以外にも問題があった。職人ごとの技術や経験によって仕上がりに差が生じやすく、出来上がった銃器の性能にはかなりのばらつきが生じたのである。熟練した職人が手がけた銃器は、工業化製品を凌駕するほどの精度と美しさを備えていたが、一方で経験の浅い職人やミスが発生した場合には信頼性が低下するリスクもあった。こうした「当たり外れ」の存在が、工業化技術の導入を加速させる一因ともなっていた。

 とまれ、こうした過渡期に製造されたライフル銃には、スプリングフィールドM1903やリー・エンフィールドなど、職人芸と工業化技術が融合した傑作が多い。これらの銃器は堅牢かつ精密であり、同時に部品の互換性や頑強さある程度確保されていた為、軍事的な要求に応えつつ、従来の職人技には届かないがそれなりの信頼性を備えていた。

 職人時代から工業時代を経て、やがて20世紀後半から21世紀の初頭。CNC(コンピュータ数値制御)加工機械とCAD(コンピュータ支援設計)が工業の中心に据えられることで製造業は劇的な進化を遂げた。これら新技術は、複雑な部品を驚くべき精度で大量生産することを可能にし、銃器製造の分野においてひとつの革新をもたらした。精密機械加工の領域はより高い段階へと進化したのである。

 例えば、ウィンチェスター M70のような銃器は、初期モデルではいまだに職人の手作業に頼る部分が多かったが、後期型ではCNC加工による均一な品質とCAD設計による高い互換性が実現された。これにより、かつては膨大な時間と労力を要した精密な銃器が、短時間で効率的かつ安価に市場に流通するようになったのだった。

 こうして21世紀初頭。銃器製造は職人芸からほぼ完全に工業化されたプロセスへと移行し、均一で信頼性の高い製品が大量生産される時代が到来した。

 おお、21世紀の軍隊の強大な事よ。残念ながら人類文明黄昏の《ポスト・アポカリプス》の時代、多くの一般の人々が閲覧《アクセス》できる範囲では21世紀以降の体系的なデーターは殆んど途絶えている為、それ以降の時代で銃器がどれほどの進化を遂げたのか窺い知ることは難しかった。一説では、3Ⅾプリンタで自由な外観にデザインした銃を個人でも製造できたとか、大気中に散布したナノマシンと頭に埋め込んだデバイスの指令で一見、無から有を生み出すかのごとく銃を作り出せたなどという話もあるが多分にSF小説か、映画の話だろうと見做されている。

 さて、文明が後退した中での銃器である。過去の知識と技術は忘却の彼方へと消え去り、産業インフラはほとんどが崩れ落ち、人心は荒廃し、テクノロジーや電力供給がほぼ消失してしまった。一部の人々は失われた知識を探索し、幾らかはかつての技術を再現しながら、限られた資源を使って細々と生き延びる術を模索している。

 高度な機械技術や製造技術が途絶えた世界では、電力や高精度な工具はほぼ手に入らず、手作業や原始的な道具に頼らざるを得ない。すなわち水力、浮揚力、風力、蒸気機関などの出番が再び訪れたのだ。

 文明が崩壊し、工業の精密機械が失われた後の世界では、かつての機械技術を再生させるために、代替となる原始的なエネルギー源に頼ることとなった。水力や風力、浮揚力と言った自然エネルギーを利用した簡易な工作機械が再発見され、古典的な蒸気機関の出番が再び訪れて、重要な役割を果たすようになる。これらの原始的な動力源は、大規模な電気供給が途絶えた今も機械を動かす手段として機能し、僅かばかりの工業製品を生み出していた。例えば、自由都市ズールの製鉄所では手動で動かすことのできる小型蒸気機関が設置され、金属を溶かし、鍛造し、成形するために用いられている。

 蒸気機関が駆動する小型の工作機械や、風車を使った精緻な木工、金属加工が行われるようになり、古い銃器や工具の修復が可能になった。だが、それらはあくまで精密さに欠けるもので、20世紀初頭の高精度な銃器は貴重な存在となっていった。


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