あぁ、至福!なんと至福の時間なのだろうか!
影猫と影兎を実体化した私は、全力で自前の動物ふれあいコーナーを楽しんでいた。影兎は小さな体を震わせながらも私の膝に乗ってすり寄り、その愛らしさに胸が締め付けられる。影猫は猫じゃらしに夢中で、軽やかに跳びはねて遊ぶ姿は見ているだけで心が洗われるようだ。たとえこれらの動物たちが自分のマナで作り出したものであろうと、そんなことは些細な問題だ。この愛らしい存在との触れ合いが、訓練でささくれた私の心を癒して——。
「おい、影女。総帥から任務の——」
「ちょっ、なっ!?わわわわたっ……!!」
突然聞こえた声に驚いた私は、慌てて影猫と影兎の実体化を解き、猫じゃらしを隠そうとしたが、焦ったせいで足元がふらつき、そのまま転んでしまった。さらに悪いことに、転んだ拍子に動物用のおもちゃも部屋中にぶちまけてしまった。
最悪だ!最悪な奴に見られてしまった!
けれど、私はもしかしたら転んだ瞬間だけ見られたのかもしれないと、期待を込めておそるおそる後ろを振り返った。しかし、渡守くんのあのニヤついた顔を見て、その淡い期待が一瞬で砕け散る。
「の、ノックぐらいして下さいよ!私が着替えてたらどう——」
「おやおやおやァ?サァチコちゃんはァ、一人でなァにをしてたのかなァ?」
ちくしょう!!なんて腹立つ笑顔だ。思わず殴りたくなる!
「これはっ……その!!……マナコントロールの練習の一環でして……」
「マナコントロール、ねェ?」
渡守くんは、私の言い訳を鼻で笑うように聞き流しながら部屋に踏み込んできた。
「ちょっ!何勝手に入って!」
私が必死に制止するも、彼は全く気にする様子もなく、まるで自分の部屋のように私のベッドにゴロンと寝転んだ。
「どォした?続けろよ」
その挑発的な口調に、私は怒りで拳を握りしめた。出ていってください、と扉を指差しながら怒鳴るが、彼にはまるで届いていないようだった。
「俺ァマナコントロールについて、教官からありがたァいお小言を言われてんだよ。だァかァらァ、見せて貰いてェなァ?天才様の練習ってヤツをよォ」
その言葉には、明らかに皮肉が込められている。くっ、なんて嫌な奴なんだ!しかし、どう反論しても無駄なのは分かっている。相手は渡守くんだ。そう簡単には引き下がらない。
「なっ、そん……だったら私の部屋じゃなくても!」
必死に言い訳を探す私を、渡守くんはさらに追い詰める。
「へェ?サチコちゃんはァ、トレーニングルームでやってくれんのか?その練習」
彼の言葉に、私は思わず歯ぎしりした。くっ!こいつ……!全部分かってて言ってやがる!!
「なんだよ。俺ァ、わざわざ自分の時間を潰して、弱ェテメェの戦闘訓練に付き合ってやってんのに……俺の頼みは断るたァ、随分と酷ェ話じゃねェか、なァ?」
彼のもっとな言い分に、私は言い返す言葉を失ってしまった。だって、これは……そのっ!と、意味を持たない音が口から漏れる。
「おいおい、そんなに真っ赤になってどォした?……珍しく仕事してんなァ?テメェの表情筋」
渡守くんの言葉に、私は顔がますます熱くなるのを感じる。
「あああああ!!」
もう我慢の限界だった。私は自分のデッキを掴み、人差し指で渡守くんを指差しながら声を上げる。
「マッチです!渡守くん、マッチをしましょう!その憎たらしい口、叩けなくしてやります!」
「ほォ?言うじゃねェか」
渡守くんも、のそりと体を起こしながら、デッキを構えた。
「いいぜェ?一人寂しく遊んでたテメェに?優しィいこの俺が!特別に付き合ってやるよォ!泣いて喜べェ!ヒャーッハッハッハッハッ!」
「あぁもう!嫌い!渡守くんのそういう所!本当に嫌いです!」
「俺ァ好きだぜ?テメェのその!屈辱に歪んだ顔がなァ!!」
「絶対に負かす!!完膚なきまでに叩きのめす!!」
「レッツサモン!!」