【900記念はまた時間がある時に載せます!】
私は今日、総帥に呼び出されてアイギス本部へ来ていた。
「失礼します」
「ふむ」
執務室に入ると、総帥はいつも通り難しい顔で机に向かっていた。私はその前で足を止め、おとなしくお言葉を待つ。
こういう呼び出しは大抵ろくな話じゃない。
私の経験上、先祖返り絡みか、それとも何か大きな案件か……少なくとも、暇つぶしで呼ばれたわけではないだろう。
「……」
「……」
「……」
「……あの」
「な、なんだ」
いや、それはこちらの台詞なんだが?
待てど暮らせど話が始まらない。痺れを切らして声をかけると、総帥は何故か気まずそうに肩を揺らした。
「本日は、どういった要件なのでしょうか?」
「う、うむ……それは、だな……」
「?」
私は首を傾げる。
いつもの総帥なら、回りくどい前置きなどしない。呼び出した理由を淡々と告げるだけだ。それなのに、今日は妙に歯切れが悪い。
「総帥?」
「……う、うむ」
総帥はわざとらしい咳払いをした。そして、何事もなかったかのように背筋を伸ばし、威厳たっぷりの表情で私を見る。
……今更取り繕っても遅いと思うが口には出さない。何故なら私は空気が読める女なのだから。
「貴公を呼んだのは、折り入って頼みがあるからだ」
「私に、ですか?」
総帥が改まって頼み事をするなんて滅多にない。
先祖返り絡みの話だろうか? それとも何か別の問題が起きたのか? そう思うと、少しだけ背筋が伸びる。
「……先祖返りの力が必要な案件ですか?」
「いや、その様なあれではない」
「では?」
先祖返りではない? てっきり、私の力が必要な話だと思ったのだが、違うのだろうか?
「……クロガネのことで相談がある」
そ っ ち か よ !
無駄に心配して損したと半目になっていると、総帥はそのまま続けた。
「……なるべく、クロガネへの笑顔は必要最低限に留めてもらえないだろうか」
「…………は?」
急に何言ってんだこのおっさん。
そう、口に出さなかった私を誰か褒めてくれ。
「身勝手な頼みだとは分かっている。だが……貴公の笑みを見たと言ったクロガネの様子がその……あまり、五金に相応しくない様子でな」
えらくオブラートに包んだなこのおっさん。
いや、総帥の気持ちは分からんでもない。先輩の奇行には、正直私もかなり引いている。けれど──
「いや、無理ですよ。私が笑わなかったとしても、あの人、私がご飯食べてるだけでおかしくなるんで」
「では、今後は飲むようにしてくれ」
本当に何言ってんだこのおっさん。
本日2回目のツッコミである。
「そういう問題じゃないです。あの人、私が何しても転げ回るから、こちらとしても困ってるんですよ。むしろ私が聞きたいです。五金家の情操教育どうなってんですか」
「……あの様に育てた覚えはないのだがな」
寧ろそんな覚えあってたまるか。
「……あの、要件がそれだけなら帰ってもいいですか? 私、これから予定があるんです」
「ま、待ちたまえ」
私が背を向けると、総帥は珍しく焦った声を上げた。
……また妙な話なら問答無用で帰ろう。
そう心に決めて無言で振り返る。
「近々オープンするテーマパークの視察券が二枚ある」
「はぁ」
「若者の娯楽施設の実態を把握することも、将来の社会を知る上で重要だ」
「……はぁ」
「故にだな……クロガネと二人きりで行ってきては──」
「思い切り馬に蹴られろ」
つい口に出てしまったが、流石にこれは許されると思う。