あれは、よく晴れた昼休みのことだった。
ハナビちゃん達と教室で仲良くお喋りをしていると、「う、打上さん」とハナビちゃんを呼ぶ声が聞こえた。
視線を向けると、頬を少し赤く染めた同学年と思わしき男の子が立っていた。
「い、今……いいかな? 話したい事があるんだ」
告白だな。
私は瞬時に悟る。いや、私だけじゃない。アゲハちゃんもモエギちゃんも気づいている。
まぁ、ハナビちゃんがこうして呼び出されるのはいつもの事だ。スピリット学園一の美少女は伊達じゃないなと思いながら、申し訳なさそうに席を離れていく彼女を見送る。
けれど、彼女の想いの先は明白。すぐに断って戻ってくるだろうと気にせず会話を続けていると、ふとタイヨウくんの表情が視界に入り、私は固まった。
ハナビちゃんが出て行った扉を、複雑そうな顔で見ているタイヨウくん。
え……これは……もしかしてのもしかしてか!?
そんな期待でワクワクしていると、アゲハちゃんと目があった。
視線で交わす会話。どちらともなく机の下で拳を合わせた。
私たちが気づいているなら、恋愛大好きなモエギちゃんが反応しないはずがない。そう思って二人して顔を向ける。
「はぁ、はぁ。これは……きました! きましたね!!」
この|恋愛脳《おバカ》!
鼻血を出しながら何かを書いているモエギちゃんを隠すように、アゲハちゃんと二人で壁になる。
もうちょい隠しなさい! 気持ちは分かるけど! 物凄く分かるけど空気を読みなさい!
瞬時にペンとメモ用紙も取り上げると、モエギちゃんはすぐに「す、すみません!」と正気を取り戻した。
……全く。
そう思いながら何を書いてたんだとチラリとメモを見る。
今のタイヨウくんの心情が、モエギちゃんなりの解釈で書かれていた。
とても面白かった。
彼女には文才がある。
そんな事件があり、ようやく進展するんじゃないかと私たち三人は期待していた。物凄く期待していた。
「もう付き合っちゃえよ!」と心の中で叫びながら、二人を見守るためにお昼休みはタイヨウくんたちとご飯を食べたり遊んだりするのが日課となった。
お喋りして、マッチして。タイヨウくんとハナビちゃんがいい雰囲気になる度にやったれ! と心の中で全力で応援していた。そんな時である。
またしても、ハナビちゃんに告白しようとする男の子が現れたのだ。
場所は屋上。
みんなでマッチをしていると、わざわざここまでハナビちゃんを探してきたのだろう男の子が話しかけてきた。
ハナビちゃんは私たちに一言断りを入れ、立ち上がる。
タイヨウくんの視線が揺れた。
行こうとするハナビちゃんの背中と、呼び止めるべきか迷うように何度も口を開いては閉じる。
さぁ、どうするんだタイヨウくん!
「な、なぁ!」
おおっ!
タイヨウくんが、ハナビちゃんの手首を掴んで引き止めた。私たちは息をのんで、その様子を見つめる。
「……タイヨウくん?」
「あ、わり……その……」
自分でもどうして手を掴んでしまったのか分からないのだろう。タイヨウくんは、気まずそうに手を離した。
「……行くのか?」
「え?」
「いや、その……なんか……」
「──ハナビが行くの……なんかいやだ……」
「……え」
えんだああああああああああ!!
なんだこの甘酸っぱいの! なんだこの甘酢っぺぇの!!
トキメキが止まらない!
お互いに頬を染め、視線を反らすタイヨウくんとハナビちゃん。
色々と察したのか、告白しに来た男の子はショックで固まっている。
それを冷静に誘導してお帰りさせているアゲハちゃんのナイスアシストに感心しながらも、ニヤニヤが止まらない!
これほど表情筋が死んでて良かったと思ったことはない! 私ならいくらニヤケようが周囲にはバレない!
「何気色悪ィ顔してんだテメェ」
何故バレた!?
いや、いい。今は渡守くんなど気にしている場合ではない。私にはこの二人の行く末を見守る義務がある! そう、親友として見守らなければいけないんだ!!
だからこれはデバガメなどではない! 断じて!!
私はモエギちゃんと渡守くんを引き連れて退避。シロガネくんもヒョウガくんを連れて自然と離れた。
そして、屋上の扉の隙間をわずかに開けて、みんなで二人を見守る。
「……なんか、ごめん」
「え?」
「手、掴んじゃったし」
「……ううん」
ハナビちゃんは小さく首を横に振る。
「……嫌じゃ、なかったよ」
「……そ、そっか」
それっきり。二人とも俯いたまま黙り込む。
待てど暮らせど二人はモジモジして何も言い出さない。甘い雰囲気だけが漂っている。
「あああああ! 筆が……筆が止まりませんんん!!」
「……じれったいわね」
「ハプニングでも起こすか」
「それなら僕にいい考えがある」
「お、おい!」
私たちが結託していると、後ろで気まずそうに私たちを見ていたヒョウガくんが声をかけた。その少し離れた場所には、心底興味なさそうに大あくびをしている渡守くんがいる。
「本人達には本人達のペースがある。そういうのは……あまり、良くないんじゃないか?」
ヒョウガくんの意見は最もだ。でも──
「甘い。ヒョウガくん。その考えは駅前のトッピングマシマシシュークリームより甘い考えだよ」
「か、影薄?」
そう。私たちもそんなことは承知の上だ。でも、ここまで躍起になるのにも理由がある。
「あの二人は亀の足より遅いの。あんなの待ってたら気づけばおばあちゃんだよ。私はそんな超長期連載みたいな恋愛を見守る気はない」
そうだ。あの二人はどう見ても両思いで、明らかに意識し合っているのに、お互いが鈍感すぎるために全く進まないのだ!
「あの筋金入りの鈍感さじゃ自然に進展なんてしないよ。せめて嫉妬イベントの一つや二つくらいは用意しないと。放っておいたら、自分の想いを自覚しても相手の想いには一生気づかないよ、あの二人」
「それをテメェが言うのか」
「は?」
なんで私が呆れられなきゃいけないんだ。流石に先輩の感情にはとっくに気づいてるっての。
そうこうしていると、タイヨウくんとハナビちゃんはさっきまでの甘酸っぱい雰囲気はどこへやら。いつも通りマッチをし始めてしまった。
何っでだよ! めちゃくちゃいい雰囲気だったじゃん! 絶対に自覚する流れだったじゃん! 目を離した隙に何があったんだよ!!
こうして『タイヨウくんとハナビちゃんを応援する会』は、今回も何の成果もなく、ひっそりと幕を閉じた。