「あと30秒ォ」
「くっ……」
私は震える腕と腹筋に力を込め、必死に体制を維持する。
「29ゥ、28ィ……どォしたァ? 腰落ちてんぞォ。ついに根性まで脂肪に変わったかァ?」
「うるっさい! 早くカウントしてください!!」
今にも崩れそうな姿勢をどうにか保ちながら、渡守くんのカウントが終わるのを待つ。
ていうか、プランク2分とか正気かよ!
1分でもきついのにその倍なんて、どんだけ容赦ないんだよ! いや頼んだのは私なんですけどね!?
ポタリと汗が地面に落ちる。腹筋は焼けるように熱く、足もガクガクに震えていた。それでも歯を食いしばり、なんとか姿勢を維持し続ける。
「10ゥ、9ゥ、8ィ……」
やった! あともう少し……もう少しでこの苦しみから解放される!!
「5ォ、4、3、2ィ、いィち……25ォ、38ィ」
「なんで増えるんですか!!」
ツッコミと同時に地面とお友達になる体。
すでに散々走らされているのに、これ以上の追い込みの筋トレとか殺す気か!!
「この程度で息切れかァ? テメェ肺にも贅肉ついてんじゃねェのォ?」
「それ以上の暴言は流石の私もキレます」
仰向けになったまま荒い呼吸を整え、恨みがましく渡守くんを睨む。すると、その視線を嘲るように、渡守くんが鼻で笑った。
「オイオイ。付き合ってやってもらってる分際で文句なんざ、随分と偉くなったもんだなァ?」
「それはっ……そう、ですけど……でも、もう少しこう……甘くというか、手心的なのが欲しいみたいな……」
そこまで言って、ハッと口をつぐむ。
何故なら渡守くんが超絶悪そうな顔をしていたからだ。
「……すみません。やっぱ今のなしで──」
「へェ? 知らなかったなァ。サチコちゃんはァ、この俺に優しくして欲しかったんでちゅねェ?」
ど畜生!! やっちまった。
「いえ、そんな事ないです。失言でした。わがまま言ってすみません。今まで通りでお願いします」
「そォ遠慮すんなよ。どォしてもってんなら、お望み通りお優しくしてやってもいいんだぜェ?」
くっそ! 水を得た魚のように生き生きしやがって!!
「本当に大丈夫です。渡守くんに優しくされるとか気持ち悪いです。勘弁してください」
「つまりィ、サチコちゃんは意地悪な俺がお好みってワケかァ」
「そんな事言ってません!!」
「だったらよォ──」
そこまで言いかけた渡守くんは、その場にどかりと胡座をかいた。
「優しく褒めてやるからこっちに来いよ……お望み通りヨシヨシしてやる」
「誰が行くかぁ!!」
「ヒャーッハッハッハッハッ!!」
ああもう腹立つ!! マジでそういうとこだぞ!!
私は疲弊した体を無理やり起こす。
そして、この後のマッチで絶対にボコボコにしてやると固く心に誓った。
「破戒僧影法師でフレースヴェルグを攻撃!」
「っ、チィッ!!」
マッチが終わり、展開されていたバトルフィールドが消える。
影法師をカードへ戻していると、悔しげに舌打ちする渡守くんが視界に入り、自然と口元が緩んだ。
「今・回・も! 私の勝ちですね。ゴチになります」
「クソがッ!!」
忌々しげに私を睨む渡守くんに、清々しい気分になる。
ふふん。散々人をコケにした罰だ。存分に悔しがれ。
「次は絶っ対ェ泣かす!!」
「負け犬の遠吠えって、どうしてこんなに心地いいんでしょうか」
「性格悪ィぞテメェ!!」
「渡守くんには言われたくないです」
私は上機嫌で、MDで渡守くんに奢らせるケーキを物色する。
……そうだ。いい仕返しを思いついた。
「そんなに可愛い顔してどうしたんですか? もしかして私に慰めて欲しいんですか?」
「あ゛ァ゛!?」
「しょーがないですねぇ」
私は先ほどの渡守くんを真似るように、わざと嫌味な笑みを浮かべながらその場に腰を下ろした。
「ほら、慰めてあげますんでこっちに来てください。お望み通りよしよししてあげますよ」
露骨に顔をしかめる渡守くんを前に、気分は最高だった。
……決まった。これ以上ないくらいに決まった。
さぁ。これに懲りたら二度とあんな事をするんじゃ──
「…………え」
膝に謎の重みを感じて視線を落とす。
「どォしたァ? 慰めてくれんだろォ?」
すると、そこには当たり前のように私の膝へ頭を乗せてる渡守くんがいた。
「はっ!? えっ、ちょ……何してるんですか!?」
「テメェが言ったんだろォ? ヨシヨシしてくれるってなァ」
こ、こいつ! 正気か!? 人を追い詰めるためなら恥も外聞も捨てるのかよ!!
「おい、早くしろよ。いつまで待たせんだ」
「いやいやいやいや!? えっ!? 嘘でしょ!? 本気!?」
いや、こいつならやる! そういや前に我を通すためにキスしてくるような奴だったわ! やっぱこいつ最低だよ!!
「ちょっ、言葉の綾に決まってるじゃないですか!! ばっ、腰に手を回さないでください!!」
「酷ェ事言うなよ。こちとら傷心してんだ。もっと優しく扱えよ」
傷心した奴がそんな顔するか! せめてそのゲス顔しまってから言え!!
っ! あぁ、もう!!
「離れてください!!」
こんなすったもんだの訓練だったが、ケーキは約束通り奢らせた。