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読んだ

頑張ろう、あと三十枚、というところなんですが、つまみ読みだといつまで経っても終わらない気がして、後で苦労しそうなのを承知で手を伸ばしてしまいました。
というわけで、中村文則『教団X』を読みました。
面白かった……? のでネタバレ注意。


なんか珍しく疑問符をつけちゃったんですけど、本作が純文学なのかエンタメなのか分からずどっちのマインドセットで読めばいいのか見失ったからで、まあややこしい前提を差っ引いて面白かったとしていいのか悩んだという意味の疑問符です。面倒なエクスキューズ。
私が読んだのは集英社文庫版で2017年。ピース又吉絶賛! 新潮新人野間文芸芥川大健三郎ときてますから純文学の傑物ってことでよろしいでしょうか。そんな作品にエンタメ脳の私が感想をつけるのか……まあいいか、本ってそういうもんですもんね。

というわけで、まずあらすじ。
女の子にフラれた傷心の男が探偵に依頼して女の足取りを追うとそこは宗教施設でとりあえず入ってみたら感じ良くて帰り道に同門から派生した別宗教団体に勧誘されてホイホイついていってみたらそこは快楽と悪徳渦巻くセックス教団だったのでした!
えーと、うん。ここだけ見ると面白エンタメな気配はあるんですけどね。
しかし本文590ページという文字量の火力は凄まじく……詳しい感想は後ほど。
物語はそこから関係者の過去を掘り下げつつ、宗教とは何か、善と悪とは、政治とは、腐敗とは、戦後民主主義がうんたら、靖国神社がどうたら、カースト、貧困と右傾化とあとなんかあったっけ……みたいな会話調の思弁を繰り広げながらセックス宗教がテロを計画していることが明らかになります。ネタバレだな。まあいいか。主題はそこじゃないし。
で、オチは……さすがにオチはまずいか。

なので、文体!
三人称一元のスタイルで視点人物がコロコロ変わるタイプです。全般的な傾向としては一文一意を徹底したとても息の短い文章が連打されて紙面を黒くしています。文章は短いので読みやすいんですが、いかんせん人間らしい散漫な思考とか飛躍も突っ込まれているのでウィリアム・ジェームズのいう思考の流れってこういうのかなあってなります。
また著者が純文学畑でドストエフスキーとか好きらしく引用もされているので、もしかしたらこういのを写実主義というのかもしれません。文学には明るくないのでよくわかりませんけれど。
ちょっと特徴的なのは現在形を多用していることで、過去と現在の話を切り分けつつ、現代の話はいままさに進行しているような没入感を与えることに貢献しているような気がしないでもありません。少なくとも私にとっての面白さにはつながってました。
あと私は人のこといえないというか小説の文章が長くて読みにくいタイプなんですが、こっちはこっちで同じことをエグいくらい大量の短文で表現してるので、別方向の読み難さはあるかもしれません。



こっからネタバレ強めかもー!




お気に入りポインツ1!
純文学系だからか何なのか、エンタメ部分がマグマだったんです。第二部からセックス教団のテロ計画・実行の話になるんですけど、セックス教団の教祖様がクソ雑に最強の手回し能力を発揮してるのがマグマすぎて好きです。なんでそういうことができるのかの説明はないので、光の教団側の教祖様とパワー差がえぐいです。ほんで割と雑に解決するのも好きで、なんとなく筒井康隆のスラップスティックみを感じて笑いました。

お気に入りポインツ2!
セックス教団の教祖の悪党っぷり。最後の最後に教祖様の過去が回想されるんですが、まあ何というか救いのないクズすぎてここ読むのやめる人も出そう……いやここまで読んできたら平気か……? くらいのヤバさです。ほんでラストは……なんだっけあの団体は。過去のヤバいカルト宗教をばんばか引用する感じですね。

お気に入りポインツ3!
これは気になるポインツにも該当しうる、とことん人を選びそうな、露骨な性描写です。ただこれが露骨なんですけど何か、何だ……AVを写実的に描写しているような、もし企画単体モノに台本や女優向けカンペがあったらみたいな、男性向けエロ漫画を文字起こししているような、実録事件にエロ妄想をぶち込んで小説に仕立ててるアレみたいな、奇妙な趣がありました。私は嫌いじゃありません。ちょっと笑えたし。



こっから気になるポインツ1!
教団幹部がテロに向けて銃器を入手するんですが……ぺ、PPSh-41!? お前まだ生きとったんか! という冗談はともかく今どきAKのが持ち込みやすいのではというのもいいとして予備の銃器がコルト拳銃。……せめて西側と東側を統一せぇやと言いかけてハッと気付きました。作中頻繁に貧困国のテロで西側諸国のなんたらODAがどうたらでてきたからそれを意識して両方いれたのかもしれません。分かりませんけど。


気になるポインツ2!
こちらは人によってはお気に入りポインツに分類されるところで、本書の第一部にて光のカルト宗教の教祖が演説するでーぶいでーを主人公が見ることになるんですが、その内容がまあすごい。長い。めちゃ長くて要領を得なくて、量子物理学とかを表層的になぞりつつ仏教と神道とキリスト教の教えや経典と結びつけてそれっぽく語るんです。
このカルト感はすごいです。ずっと昔、興味本位で参加したカルト演説会各種を思い出すレベルです。写実。もうちょっと正確にいうと、ご自身でハイ/ローファンタジーやSF系エンタメの創作をしたことがあるならば一度はやったであろう、既存知識の悪魔合体オリジナル理論の独演会です。口語版。正直キツかったです。
なんでも本作は若くてあまり本に触れたことがない人にも人気とのことなので、ここらへんかなと思ったり。エンタメ読書慣れしてるとああ、またこういう、はあ、がめちゃ長いので飛ばしたくなるし飛ばしても大丈夫じゃないかな……共感したり驚いたりした人は楽しめるんだけど私は違いました、みたいな。

気になるポインツ3!
思想、強っ! まあ純文あるあるなので別にいいですし、登場人物のキャラクターを思想で表現してるのは分かるんですが、内容はダルい感じです。タイミングによっては、なんで今その話してんのお前となること請け合いです。あと分野が多岐にわたるわりに各キャラクターの思想的バックボーン=古い話ばっかなので新書とか手当たり次第に読む人には
ああはいはいって感じです。逆に知らない場合は楽しいとかへーってなるかも。分かりませんけど。

気になるポインツ4!
これはお気に入りポインツにもなりうるんですが、写実主義の特徴らしい重複という技法が多用されてる……ん、です、たぶん。詳しく知らないので適当いってたらごめんないですけど。ようするに同じ話を別のタイミングで何度も繰り返しつつ少しずつ変化を見せていく手法なんですが、それを思弁の多い小説の思弁でやるなぁ! ってなりました。私は。つまりあの、めちゃ長カルト演説を要約して転用したりするから、ああ、はい、はい……違う! 真剣に聞くのだ! ってなります。なりました。



まとめ。
お気に入りポインツに比べて気になるポインツ多すぎないかと思われるかもしれませんが、これは私がエンタメ脳であり、また一時期スーパー新書マンだったからです。そうなんです。私も気になって本書について調べたわけです。私の感覚がおかしいのは羞恥にして周知の事実なので。そしたら本書にはなかなかの量の参考文献リストがついていまして一瞬ひるんだんですけど、よく見たら新書めっちゃある! 
いえ新書だからダメってわけではもちろんないです。ないですが、新書はやっぱり要約しているものなので、そこから摘んで小説に落とし込んだら、そりゃエンタメ薄味になるってものです。というかリストにある本かなり読んだことあるかもです。だからか。納得。

また普段あまり本を読まない人に人気があるという評にも納得です。積極的には触れない分野の話でしょうし、新書とかでも理由がないと読むのダルイなあってなりがちな本が中心ですから、それにストーリーくっつけてアブスト紹介しつつ分野横断の一例を教えてくれるとか嬉しいかもしれません。特に大学一年生から二年生くらいの頃とか。なんかちょっと真実に目覚めたくなる高校生二年せいくらいの頃とか。たぶん気にいると思います。
宇宙ってインドでゴーダマでゾロアスターなラウドメタルだよな、とか訳知り顔で言いたいんだけど勉強したくないときとか絶対に刺さる。間違いありません。
あと新興宗教を語れる私になりたいけど実際に覗くのは絶対に嫌な人とかにも刺さるに違いありません。そういう体験書として有能です。

一方。称賛すべき新興カルト表現ですが、わりと一面的に内容を伝えている、いわゆるちゃんとカルトしている表現なので、それはそれとして消化できるならともかく、それぞれに共感したり共鳴しちゃったりしたら、本を一旦、置きましょう。落ち着けカルトにハマっていく人たちの話なんだぞ、ということです。
そういう意味では本を読み慣れてない人や、多感な方にはオススメできないかもしれません。つまり、純文学!
いいかい良い子のみんな! よくできた純文学は多感な時期に読むと良くも悪くもだいたい悪い方向に影響受けるから気をつけようね!

あ、お気に入りポインツにも書きましたが、全部まるっとエンタメとして消化できる方にとっては筒井康隆のスラップスティックみがあってとてもおもしろいですよ。


明日のラッキー思いつき教団G
『いいですか、宇宙にはゲッター線というものがあるのです。ゲッター線はあらゆるものを繋ぎます。ゲッター線は生命に進化を促し、あらゆるものに調和を与え、すべてをゲッターに返すのです。さあゲッターの元に集いゲッターとして融合しましょう。そこに進化と平和があるのです。しかも温泉になるし、ゆで卵も作れるのです。皆で唱えましょう。チェンジ・ゲッター』

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