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デスゲーム2

やっぱり気になるデスゲーム。
前回は主催に想像を絶するバカを据えたことで短編が限界っぽい雰囲気が出てしまいました。ここはデスゲームのホラーとは何かをイチから考え直さなくてはなりま閃いた。

『ライフゲーム』

 肌を刺すような潮風に、松之介は首をすくめた。叔父の赤松が探していたと近所の翁に教えられ、いそうな場所を二箇所ほど回った後だった。携帯電話があれば――いや、あったとして、アンテナとやらが立ってないから無意味だろう。
 松之介のため息は雪でもちらつきそうな空に消える。
 遠く、漁港の傍で作業をしている赤松を見つけ、松之介は手を挙げた。気づいてくれたのか、赤松も手を止め、顎をしゃくった。この寒い中ご苦労なことだとは思うが、休んでいれば食うにも困る。
 黄鱗村――人口わずか三百人ばかりの寂れた漁村である。
「おじさん。俺のこと探してたって?」
 松之介が尋ねると、赤松は疲れたような笑みを浮かべた。
「おう。ちょっと、大事な話があってな」
「大事な話? とうとうボロ船に穴でも空いた?」
「ハッハ。だったら今ごろ首くくってるよ」
 笑うに笑えなかった。
 赤松は紺色のジャンパーのポケットをまさぐり、安タバコを出した。前歯の一本欠けたところに挟み、手で隠すようにライターをもつ。
 カチリ、カチリと音が続くが、風が強く火がつきそうにない。
 松之介は自分の背中を盾に手を貸した。
 カチリ、カチリ……。
 やがて火が点き、ふたりの手指の隙間から濃い煙が漏れ、潮風に揉まれて消えた。
「ありがとな」
「金がないならやめりゃいいのに」
「これくらいしかねぇんだよ、この村には」
 言って、赤松は海の方へと顎をしゃくった。松之介は怪訝そうな目をして、背後の漁師小屋と見比べる。
 赤松は唇を舐めつつ、煙を吹いた。
「あっこじゃ誰が聞いてるかわかんねぇんだよ」
「こんな時間じゃ誰もいねぇよ」
「いなくても聞いてんだよ。こっちこい」
 曇り空の下にある黄鱗村の海は凍てつく岩肌のようだった。迷い込んだものの足を取り、朽ちるまで留め置こうとする魔の領域だ。
「……松。お前、今年で十六だっけ?」
 赤松の声に、松之介は大げさに肩を落とした。
「十七だっつの。今朝も教えたじゃんか。何度目だよ」
「ハハ。悪ぃ。年だな、どうも」
「……親父が死んで十年だ。弟の十回忌も忘れてどうしたよ」
「……だな。ダメな兄貴だよ俺は」
「……よしてよ。おじさんには感謝してるし、よくやってるでしょ」
「よくやってるか……どうだかなぁ」
 赤松は短くなったタバコを大事そうに手の中に隠し煙を吹いた。
「松」
「なに」
「お前、さっさとこの村ぁ出ろ」
「あ?」
 急になんだよ? と松之介は眉を寄せる。
 赤松はフィルターを焦がすタバコに見切りをつけ、左手のタコに押し付けるようにして消した。
「あ? じゃねぇんだよ。大事な話だ。お前、この村で生きてくつもりじゃなぇだろうな?」
「な、なんだよ。ダメなの?」
 図星だった。高校――と言えるのかどうかわからないが、村にはまがりなりにも学校があり、来年の卒業とともに松之介は漁を手伝うつもりでいたのだ。
「ダメだ。お前はこんなトコ忘れて外に出ろ」
「なんで」
「なんでじゃねぇよ。もう終わりが見えてんだよ、こんな村。人が溢れてる頃にできただけだ。若い奴がこんなトコでクソみたいな生活して終わっていいわけがねぇだろ」
「ちょ、何いってんだよ、おじさん」
「――松。大事な話だ。よく聞け」
 赤松の生気失せた目が、鋭く尖った。その有無を言わせぬ迫力に、我知らず松之介は背筋を正す。
「……今年の暮れに祭りがあんのは知ってるな?」
「ああ。五年に一度の、生恩の会、だっけ?」
「そうだ。まだ誰にも言われてねぇだろうけどな、そこで、村弾きに遭うやつを決めるんだ」
「……は? 村弾き? どういうこと?」
「誰にも言うなよ」
 赤松は目をギラつかせて言った。
「松。お前、弾かれ者に選ばれろ。そうしゃ村を出られる」
「いや、は!? 弾かれ者って、それ選ばれるとどうなんの!?」
「村にゃいられなくなる。しきたりに従って、弾かれ者を出した家のもんは五年間は村八分だ」
「……村八分って、それ……俺が選ばれたらおじさん」
「俺らのことなんざ忘れろ!」
 ほとんど怒鳴るように言われ、松之介は乾いた喉を鳴らした。
 赤松は顔を海に向け、両手をポケットに押し込むようにして首を竦めた。
「どうせ今の暮らしだってゴミみてぇなもんだ。松、お前、この苦しいばっかで何もねぇ世界でくたばりてぇのか? 俺は許さねぇぞ、松。お前だけでも外に出ろ。まともに暮らせ。お前は、俺の大事な弟の倅なんだからよ。俺の倅みたいなもんなんだから」
「……いや、あの……ゴミみたいって、そんな……」
 どう返せばいいのか松之介には思いつかなかった。村に娯楽と言えるようなものは何もない。叔父の赤松も朝から晩まであらゆる雑事をこなして泥のようになって眠るだけだ。たまに酒を飲むこともあるが、それ以上のことはない。
 その生活を引き継ぐのかと、そう問われているのだ。
 松之介は頭を掻きつつ答える。
「でもさ、おじさん。俺は――」
「俺に感謝してるっていうなら、俺らを捨ててくれ。俺のために。この村のことなんざ捨ててくれ。頼む」
「頼むって……でも俺その……す、好きな子が――」
 叔父にこんな話をするとは、と松之介は頬に熱を感じた。
 しかし。
「バカが」赤松は吐き捨てるように言った。「巻節ンとこのガキだろ? 二つ下の。あんなもんお前、外に出ればいっくらでもいるんだぞ」
「な――。な、なにもそんな言い方しなくたっていいだろ!?」
「そんなもんだから言ってんだ。あんなガキ捨てろ。忘れろ」
「で、でも、俺と立夏は――」
「聞け! 松!」
 雷のような声に、松之介は口を閉じざるをえなかった。
「あの子がなんでお前に惚れてるフリしてるか知ってっか?」
「――フリ!?」
 さすがにその暴言にはこらえきれず、松之介は赤松の肩に手を伸ばした。だが赤松は簡単に手首を絡め取り、強く握った。普段は重りのついた網を素手で扱う男だ。年の割には頑強な松之介も顔を歪める。
「いってぇ! 痛ぇって! わかった! わかったから!」
 赤松は片手でタバコを唇に挟み、松之介の手を離した。
「松。よく聞け。あの子はな、自分が弾かれ者になりてぇから、お前に惚れてるフリしてんだよ」
「はぁ……? なんだよ、それ?」
 松之介はがっちりと手の跡が残る手首を撫で摩りながら尋ねた。
「弾かれ者になんのと俺に惚れるのと、どう関係すんの?」
「お前の上と下五年づつ、何人いると思う? ――十五人だ。たった十五人。正恩の会で世話して、お前ら十五人のうち十四人をこの村に縛り付けるつもりなんだよ。弾かれ者をつくるのはな、村に残す奴らの結束とやらを強めるためだ」
「なんだそれ。だったら俺、立夏も連れて――」
「勝手に村でようったって無理だぞ。連れ戻されっからな」
「は? 誰がやんの? このクソ狭い村で誰がそれできんのさって」
 カチリ、カチリ――。
 安タバコの煙を吹いて、赤松は言った。
「弟んトキは――つまり、お前の親父のときは、俺がやった」
「……は?」
「それが正しいと思ってた。けど違ったんだよ」
 火を点けたばかりのタバコを海に指弾き赤松は言った。
「他の奴ら生贄にしてよ、お前、ちゃんと弾かれろ。したら、戻されずにすむからよ。気をつけろ。他の奴らもみぃんな、同じこと考えてっからな」


デスゲームはデスゲームでも、今後の人生を賭けさせるデスゲームですよ! やがて明らかになる本当の人間関係! 足の引っ張りあい! 出る気を無くさせるために直接の暴力に出る者も! みたいな。
重すぎてダメか。ちゃんちゃん。

2件のコメント

  •  いえ! いいと思います!
     凄く重い鬱展開な内容書いてる方もいらっしゃいますから、  
     そしてデスゲームコンテスト内ではランキング一桁ですよ。その方。
     
  • >水守さん
    なるほどーと思ってコンテストページ開いてみたら数話で星数十個なのが並んでて今から参戦するだけ無意味だと気づきました。
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