カクヨムにログインするたびに目につくデスゲーム小説コンテストの文言。
デスゲームかー……書いたことないなー。もう食傷気味で新しいのは閃いた!
『フールプルーフ ~なにもしてないのに壊れた~』
蜂須賀平理《はちすかひらり》が目覚めたのは、四辺三十メートル、天井高十メートル強の真っ白い部屋だった。背後の壁には巨大なモニターがあり、天井ちかくの壁には半径五十センチほどの穴が等間隔にいくつも並ぶ。
「ここは……僕はいったい……たしか、学校の帰りに……」
平理は頭痛に首を振りつつ躰を起こす。
「……ツナギ?」
記憶の最後で着ていたのは制服のはずだが、いまは胸元に大きな赤文字で37と書き込まれた青いツナギを着ていた。
幽かなうめき声に振り向くと、あたりには平理と同じツナギを着た、年齢も性別もマチマチな人々が同じく躰を起こしたところだった。その数、目視でわかるだけでも優に五十は超えている。
「……なにが起きてるんだ?」
思わずつぶやくと、平理の背後で機械的な駆動音が響き、モニターが点灯した。起きたばかりの人々が――平理を含め――映像に息を呑んだ。
黒いローブを着た、おそらくは若い男の手元が映っていた。男は指先で机に置いた紙をなぞっている。画質と画角の問題もあり書かれている内容はわからない。
『……よし』
と、やや緊張した声が聞こえ、物音とともに男がスタンドマイクを手元に置いた。
『あー、あー、あー。テス、テステス。うん。ラーラーラー』
「……何をやってるんだ?」
誰かがいった。平理も同じことを思っていた。
『あ、やべ』男がいった。手を画面外に出てなにかを叩いた。『諸君、お目覚めかな?』
男の声がボイスチェンジャーにより甲高くなっていた。まるでヘリウムガスを吸った直後に発したような声音だった。
『ンン! 賢い諸君。フールプールフ研究所へようこそ』
「フールプルーフ研究所……?」
平理は男の言葉を反芻しながら立ち上がる。眠らされたとき頭を殴られたかあるいは薬でも打たれたのか、まだ足がふらつくような感覚があった。
『私の名前は、エムアー……ミスター……げにう……ジーニアス。ミスター・ジーニアスだ。ジーニアスと呼ぶといい』
「……なに? カンペ読んでるわけ?」
女の声に振り向くと、胸元に44と書かれた少女が苛立たしげに眉を寄せていた。平理の知り合いではないが、どこかで見た覚えがあった。
『諸君。私は、あ、ジーニアスは、理解……もの……理解者を求めている』男の手が紙片の上を滑った。『フールプルーフ研究所へようこそ……? 私の名前は……』
「おい! その行はさっき読んだところだろ!」
52番の男が叫んだ。
ビクリ、とジーニアスの手が弾み、マイクを掴んだ。
『おい! いま騒いだのは誰だ!? いまはわた――ジーニアスが話しているんだ! 黙れ! うるさいとボンだぞ!』
「……ボン?」
眉根を寄せる平理。
52番の男が重ねて吠えた。
「ボン!? ボンってなんだ! 誰だお前! 俺たちをどうしようと」
『うるさい52番! お前、ボンだ!』
ジーニアスが画面の外に手を伸ばし、灰色の金属箱を手元に引き寄せた。一瞬だけ見えた箱の上部には、赤いスイッチと電卓に似た番号入力装置がついている。
ジーニアスは慣れない手付きで入力装置の上で指先を漂わせる。
『えと、五十』ジーニアスが番号を押した。『二』また押した。指が赤いスイッチの方へと動いた。『ボン』
押下――と同時。
キュボン! と52番の首から上が吹き飛んだ。飛び散る血潮。脳漿。髪の毛付きの頭皮の一部が近くにいた十六番のツナギを汚した。
悲鳴は、一拍おくれて広がった。助けを求めて絶叫する者、何が起こっているのかと怒る者、なんてことだと膝をつく者。そして部屋に置かれたモニタ直下に扉を見つけて駆け寄る者――。
「開かない! くそ! 誰か! そこにいるのか!?」
数人が参加して開けようと試みているもうまくいかないようだ。
平理は部屋に渦巻く恐慌には加わらず、モニタを注視していた。誰にさらわれたのかはわからない。52番の死とジーニアスの行動は連動している可能性が高い。しかし、それではなぜ、ジーニアスの手はカンペらしき紙の上をさまよっているのだろうか。
「……たぶん、順序を間違えたのね」
急に聞こえた声に振り向くと、44番の少女がいた。
「安芸詩神《あきみゅーず》。ミューズでいいわ。あなたは冷静そうね。三十七番さん」
「蜂須賀平理。平理でいいよ」
簡素なやりとりと握手を交わし、平理は感想を述べる。
「もし彼――ジーニアスが焦っているなら、だけど」
「ええ、そうね。たぶんあのカメラ、画角が下がりすぎてる。狙ってそうしているようには思えない。直情径行のキライがあると思う」
「キライって」平理は苦笑した。「ずいぶん古風な表現をつかうんだな」
「ミューズって名前に従ってるだけ」
「よし、一石二鳥であたりを鎮めてみようか」
「いい考えだね」
また、別の声。ちかくによって来た22番の少年だった。
「御厨師崎《みくりやもろざき》。御厨でも師崎でもどちらでも。せっかくだから、試すのは僕が」
言って、御厨が叫んだ。
「落ち着いて! ジーニアス!」
よく通るボーイソプラノが部屋の恐慌を諌め、ジーニアスをびくっとさせた。
「たぶん、カメラの角度が低すぎる。手元が見えてるよ」
『え。あ! くそ!」
ジーニアスが身を乗りだし、ガタガタとカメラが揺れ、角度が上がった。黒い目出し帽の額に赤文字でGと縫い込まれていた。
『ンン! 助かる。えっと、二十二番。キミにフルプルポインツ一点』
ピコーン、と無機質な効果音が鳴り渡り、御厨の首につけられた首輪のデジタル表示に00001と表示された。
――五桁だと!? と、平理は内心で驚きつつ、自分の首にもつけられているのを確認した。
『ンン! 仕切り直し!』
そう言って、ジーニアスは五十二番爆殺まえのくだりを繰り返したのちいった。
『君たちがいる部屋はここ、フールプルーフ研究所の一億六千万億七千万億の部屋のうちのひとつだ。ここにはジーニアスが仕掛けた罠がおなじだけある』
「……はったりでしょうね」
ミューズが小声で言い、平理も目配せで同意する。桁数が意味不明だ。単純にゼロを重ねる形式なら一兆一計といった単位ですら足りなくなる。
ジーニアスは言う。
『この研究所には君たちと同じように囚われている人たちが部屋の数だけいて、一部屋に〇から百まで番号を振られた人が百人いて、部屋から出て、ジーニアスのもとにたどり着けた人のなかからフルプルポインツの高い人が理解者だ――』
ジーニアスの解説に、部屋の誰しもが戦慄した。
これは自分の命をかけたデスゲームである。それは理解できた。
しかし、その主催者が想像を絶する馬鹿かもしれないとは――。
誰ともなく、生唾を飲み込んでいた。
『さしあたって、まずその部屋を脱出したまえ。部屋には扉をあけるためのヒントがいくつかある。制限時間は三十分。モニターの上にタイマーがあるはずだ。だが三十分をすぎると制限時間を超えるので、その部屋に東京ドーム六杯分のザリガニを投入する』
「ザリガニですって!?」「この空間に東京ドーム六杯分!?」「東京ドームを容積で使うのか!?」
集められた人々が思い思いに疑問を叫ぶ。
それを恐怖と取ったのか、ジーニアスが満足そうに肩を揺すった。
『では諸君。健闘を祈る』ジーニアスが席を立った。『うあー、緊張したー』
マイクとカメラを切り忘れているのだろう。両手をあげて背筋を伸ばし、腰を叩いている。
御厨が口に手を添えて呼びかけた。
「ジーニアスー! 制限時間が動いてないよー!?」
『え? あ! やべ!』
ジーニアスが画面外に手を伸ばした途端、部屋に英語の音声が流れた。
フールプルーフ、レベルワン――。
モニター上部のタイマーがカウントをはじめた。
『22番! 1フルプルポインツ! がんばってねー』
音とともに御厨の首輪の数字が増えた。そしてジーニアスは画面を切り忘れたまま離席していった。
そして、何人かが御厨に詰め寄った。
「おい!? 何してんだ!? お前のせいでゲームが始まっちまったじゃねーか!」
「落ち着いて」
平理はそれを制止する。
「よくモニターの上のタイマーを見て」
「あ!?」男が振り向き、首をかしげた。「カウント……アップしてる?」
「うん」平理はいった。「あれはたぶんストップウォッチだよ。カウントダウンタイマーじゃない。たぶん、ジーニアスは手動で罠を作動さるんじゃないかな?」
ここまで考えたけど、殺意と巨大権力をもった馬鹿の怖さっていうのがホラーとして伝わらなさそうなんだよなー。それにオチが思いつかないしなー。8万字ももたなそうな気もするしなー。で、思案中。
どうしよっかなー。