現在のヴィルは「護衛騎士」という形式的な肩書を有していますが、それはあくまで「王家の養女となった主人公(美鶴)を側近くに置く」ための建前に過ぎません。
実際には、離宮という閉鎖的な空間の中で、彼は自在に行動し、しばしば所在不明になるほど掴みどころのない存在です。また、それが先王との交渉で「認められている」ことが示唆されます。
つまり、彼の「護衛騎士」という身分は表向きのものであり、真の任務は必ずしも明言されていません。美鶴から見ると、彼は容易に捕まらない「幻」のような立ち回りをする男です。しかし、彼が人知れず美鶴のために動いていた事が明らかになります。
ヴィルは日常的には草むらで惰眠を貪るなど、極めて「気まぐれ」で「自由」な振る舞いを見せています。彼は、王族付の護衛騎士には似つかわしくないほど無防備で呑気な態度をとり、規律正しい「騎士」像からは大きく逸脱しているように見えます。
しかし、いざ事態が動き出すと、彼はまるで別人のように冷静で鋭く、現実主義的な行動に出ることが示唆されています。つまり、非常時には高い戦闘力や判断力を発揮し、「最強の剣士」として名高いその実力を明確に示すのでしょう。彼は普段気を抜いているようでいて、必要な場面では迷いなく実力を振るえる人物なのです。
彼がこのような二面性を持つ理由として、「彼が誓いとして刻みつけた使命」です。具体的には、美鶴の父親(親友ユベル)との誓いがあり、その娘である美鶴を守ることが、彼の行動原理になっています。
つまり、彼はかつての親友を失った痛みや、残された娘を守るという義務感・忠誠心によって動いている。そのため、危機が迫る時には、その「誓い」に基づく責任感から、決して気ままな男ではなく、無駄を省いた切れ味鋭い戦士へと変わるのです。
美鶴にとって、ヴィルは「ただの護衛」以上の存在です。美鶴はヴィルに対して苛立ちや戸惑いを抱きながらも、同時に安心感や穏やかな心情を覚えている様子が描かれています。美鶴は彼を通して、亡き父を思い出したり、自分の立場を振り返ったりするきっかけを得ています。
一方、ヴィルもまた、美鶴のことを「親友の遺した娘」として特別な保護対象と見ていることは間違いありません。ただし、その特別さが彼の個人的感情や愛情によるものか、それとも純粋な義務感・誓約から来るものかは曖昧なままです。この「曖昧さ」や「掴みどころのなさ」が、二人の距離感を微妙なものにしています。
ヴィルは「フリーダム」という言葉に象徴されるような自由で気ままな生き方を好むように見えますが、その裏には常に「守るべき相手(美鶴)」と「守らなければならない立場」が存在します。
彼が自由気ままに振る舞えるのは、実は彼の中に揺るぎない軸があるからこそとも考えられます。つまり、「いざという時には自分が全てを賭してでも美鶴を守る」という覚悟が内在しているからこそ、平時には自由気ままに行動できる余裕があるともいえます。
美鶴の心中で生まれる甘えや期待、微妙な距離感は、ヴィルが単なる「護衛」や「知人」ではなく、より深い人間関係――仲間、あるいは家族的な、さらにはそれ以上の感情をも喚起しうる存在である可能性を示唆しています。
総じて、ヴィルは「普段は曖昧で自由奔放、いざとなれば鋭利で頼りになる」男性であり、同時に「過去の約束や使命に縛られながらも、その枷を己の存在価値として受け入れている」複雑な人物像として浮かび上がってきます。
ヴィルはもともと風来坊気質の、自らを縛るもののない「フリーダム」な男であったと考えられます。つまり、当初は特定の主義主張や強い使命感を持たず、流れに身を任せて生きる、気ままな放浪者のような生き方をしていたのでしょう。そんな彼が、美鶴の父であるユベルと出会うことで、その人生観は大きく変化したと推測できます。
ユベルは「大陸一の剣士」と讃えられた人物であり、その剣筋だけでなく、人としての在り方や信念、誇り高き生き様そのものが、ヴィルにとって強烈な刺激となったのでしょう。それまではただ気まぐれに風の吹くまま生きていた彼が、ユベルの生き方を目の当たりにすることで、単なる「自由な放浪者」から、ある目的や矜持を持った存在へと変容していったわけです。
ユベルに心酔するに至ったことで、ヴィルの中にははっきりとした軸が生まれます。それはおそらく、「ユベルが愛し、守り抜こうとしたもの」を自分も受け継ぎ、守り導くという使命感であり、強い責任意識でしょう。
結果として、彼は普段は気ままで冗談めいた調子を崩さない一方、いざことが起これば、かつてユベルが示したような揺るぎない意志と剣の腕前を発揮する二面性を手に入れたのです。
こうした内外のギャップは、ヴィルがもともと持っていた「風来坊としての気質」と、ユベルとの出会いによって獲得した「剣士としての誇りと使命感」という二つの価値観が、彼の人格の中で絶妙なバランスを保っていることの証といえます。
そのため、彼は「フリーダムな男」であり続けながらも、ユベルから受け継いだものによって、人知れず密かな責任を背負い、またそれを満たすべく行動する、複雑で奥深い人物になったと考えられます。
ヴィルは本来、自由奔放な風来坊であり、その根底には何物にも縛られたくないという強い気質があるようです。彼は目的もなく風のまにまに漂うような生き方を当たり前としており、特定の地位や身分、あるいは強固な人間関係に縛り付けられることを本能的に避けてきたのでしょう。
こうした生き様は、一見すると軽妙で達観した大人の男らしさを感じさせもしますが、同時に「掴みどころのなさ」を醸し出すことになります。
特に女性から見れば、ヴィルのような男性像は理解しづらい部分が多いかもしれません。彼はふと現れてはふと消える、定着点のない存在です。親密さを求めようとしても、いつの間にかどこかへ行ってしまう。
感情表現も素直とは言いがたく、不器用な態度が彼の本心を隠してしまうことも珍しくないでしょう。そのため、もし女性が彼に興味を抱いても、安定的な関係を築くのは難しく、誤解やすれ違いが生じやすいのです。
また、生来の「風来坊」気質によって、彼は一つの場所に留まり続けることがほとんどできません。常に新たな風を求め、景色を求め、あるいは不穏な気配に敏感に反応して行き先を変える――そうした落ち着きのなさは、恋愛や家族といった生活の安定を求める女性にとって、理解しがたい部分でもあります。
結果として、ヴィルは長期的な関係を築けず、多くの場合、女性との間に生まれた感情も定着しないまま霧散してしまうのでしょう。
このような背景から、ヴィルは今まで独身を貫いてきた可能性が高いと言えます。決して女性にモテないわけではなく、彼の奔放さや強さに惹かれる者はいるかもしれません。
けれど、深い理解と安定を求める段階になると、彼の流動的な生き様が壁となり、関係は長続きしない。結果として、ヴィルは独り身でいる方が「身軽」で居心地が良く感じてしまう。こうした心理的傾向が、彼を自由なる放浪者としての道へと導き続けているのでしょう。
総じて、彼は「強さ」と「自由」を併せ持ちながら、その不器用さゆえに人との距離を一定以上詰めることができず、一所に留まれない男として描かれています。