目が覚める直前、まるで深い水の中から浮上するような感覚があった。身体がぼんやりと重く、胸の奥が奇妙にざわついている。瞼を開けると、早朝の薄明かりが室内を優しく染めていたが、まだ夢の残滓が身体に絡みついているようだった。
「……夢?」
思わず呟いた声は、いつもよりわずかに掠れている。それほど鮮烈で、奇妙なまでに現実感を伴った夢だった。夢の中で見た顔が脳裏に焼き付いて離れない――ぼさぼさの金髪、無精ひげ。そして、あの青く澄んだ瞳。
――ヴィル。
思い出した瞬間、心臓が跳ねるように高鳴るのを感じた。彼が夢の中で私に微笑みかけた。その視線に捕らえられた瞬間の、胸を締め付けられるような感覚。夢の中で触れたはずの指先の温度が、現実の手のひらにまで残っているようだった。
けれど、同時に何かが胸の奥をチクリと刺す。それは不安とも羞恥ともつかない、名付けようのない感情だった。夢の中で何かが起きた。記憶は霞んで曖昧なのに、身体はそれを覚えている――肌に残る熱や、太ももの内側に纏わる湿り気。
「……っ」
息が詰まるような感覚と共に、両手で顔を覆った。顔が熱い。まるで自分の心が暴かれたようで、ひどく落ち着かない。何よりも、ヴィルが――彼が相手だったことが、この動揺の理由だ。彼にそんな感情を抱いた覚えはないはずなのに。いや、そう思い込んでいただけなのだろうか。
夢だから、ただの夢だから、と何度も心の中で繰り返す。けれど、その言葉は不思議なほど空虚に響いて、かえって自分の心を掻き乱すだけだった。
これが私の中の何を意味しているのか、分からない。ただ分かるのは、今この瞬間、彼と顔を合わせるのがひどく怖い――けれど、どこかで彼の瞳をもう一度見たいと思ってしまう自分がいるということ。