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涸沼

 一時期、職場の先輩Iさんとよく涸沼へハゼ釣りに行きました。
 Iさんは女を愛し、文学を愛し、釣りを愛する好漢。

 晩秋、ボートに乗り、大きく育ったハゼを狙います。
 Iさんはボートに延べ竿を何本も並べ、しゃくってハゼを誘います。
 私は一本のリール竿でズル引きをして、ハゼのあたりを待ちます。
 ハゼはブルルと小気味よくあたります。
 Iさんはハゼ釣りの名手でした。私が一匹釣る間に、二匹釣ります。一日釣ると、大差をつけられました。

 十二月、ハゼは深場に落ち、活性も下がって、釣るのがむずかしくなります。
 Iさんは「この時期のハゼ釣りが一番面白いんだ。むずかしいハゼを釣るのが」と言っていました。
 はっきりとしたあたりはめったに出なくなっています。
 しかしIさんはハゼが餌をくわえた微かな気配を感じ取り、釣るのです。
 十二月には、私の三倍は釣りました。

 ハゼの天ぷらはとても美味しい。
 帰宅すると私はハゼを捌いて料理し、天ぷらと日本酒を楽しんだものでした。

2件のコメント

  • そのIさんは人生の達人のようだなと思いました。

    この記事をみて一句思いついたので、今日か明日にでも公開しようと思います。
    こういう文章を読むと霊感(=インスピレーション)が刺激されて、誠にありがたいです。
  • Iさんはまさに人生を楽しむ達人です。
    青丹よしお様の句のヒントになったのなら、とてもうれしいです。
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