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虐めについて

虐めという行為において人間は実行者、被虐者、傍観者、仲裁者、救済者などの立場に区分することができますが、あなた方はどの人間に該当するでしょうか。
私はかつて傍観者でした、他人が被虐者である状況を私は面倒という理由だけで傍観していたのです。弄りと称して蹴られたり髪の毛を毟られている少年を、私は巻き込まれたくない、彼らと関わりたくないという理由で傍観していました。同性愛者の少年が差別される様相を私は同じ理由で傍観していました。私はそういう、碌でもない存在の一人なのです。

他方私は、被虐者でもありました。私は有体に言えば普段は無口で根暗な性格でしたが、本質的には寂しがり屋ですし気の置けない相手に対してはお喋り好きな普通の人間だったのです。とかく空想に耽りがちで集中すれば周囲が見えなくなることも多く、空気を読もうともしない私は学生時代に被虐者を経験しました。実行者は生徒ではなく教師でしたが、彼は非常に断定的で偏見と思い込みが強く他者を型に嵌めずにはいられないような人間に思えました。最初からそうだったのか、教職という環境がそうさせたのかは知りもしませんが、私には斯様に攻撃的な態度を他者にぶつけられる神経が共感できませんでしたし、それは今も同じです。

憤怒よりも憎悪よりも悲しみと虚しさが心を塗り潰して、他の入り込む余地さえないからというだけの話なのですが、それ故に私は他者を憎むということも嫌うということもできませんでしたし、それは今も同じです。人一倍臆病で自己肯定が苦手な故に、この心の弱きが故にです。だから、今でもこう思うことがあります。もしも私に友人がいなければ、私は疾うに自己嫌悪に耐えきれず自分を殺していただろうと、そんな確信めいた想いが胸中に蠢いているのを感じながら今日を生きています。すなわち、自己に対して私という人間は攻撃的であり怒りないし憎悪を抱えていたと言えるでしょう。

珍しく自作の話をするのですが、もしも猫葉に友人がいなければ、そういうことになったということです。そういうことになった方が、ある意味幸せだったのかも知れませんが。ちなみに私は学校生活での出来事に起因する死をある著書から拝借して「学校死」と呼んでいます、良ければ皆さんも使ってみてください。ちなみに教師の指導による死は「指導死」と呼びます、つまり「死」に教え導く「死導」というわけですね。

さて、前置きを終えたところで、傍観者についてもう少し触れておきましょう。私見ですが、彼らの問題点は虐めを黙認していることよりも、加担者となる可能性にあります。実際に私は傍観者が実行者たちに巻き込まれ加担者となる場面を目撃していますし、それに逆らった人は今のところ見ていません、事勿れ主義者かつ日和見主義者の鑑といったところでしょうか。本当に素晴らしい協調性だと思います。

また、傍観者が生じる理由としては有名な「傍観者効果」が挙げられます。自分以外の傍観者がいるとその人間は行動しなくなるという単純な心理で、その効果は人数が多いほど高まるため、学校という集団が属する場では尚更傍観者効果が高められるわけですね。これは教師においても生徒においても変わらないことでしょう。

そんな虐めの本質の一端は、人間に備わる「シャーデンフロイデ」にあると考えられます。シャーデンフロイデとは、自分が直接関係しない他者の不幸・災禍を喜ぶ感情を指す言葉であり、ネットでは「メシウマ」、一般的には「他人の不幸は蜜の味」などと表現されてきたものです。この感情は病んでいるから生ずるのでもサイコパスだから生ずるのでもなく、ごく普通の健常者である故に生ずる感情だと私は考えています。勿論、私たちは普段は理性的に倫理観を持って物事を捉えるように教育されているので、自覚のない人も多いでしょうが、因果応報のような展開を目撃した際に、私たちは本能として持ち合わせていたシャーデンフロイデを実感するようになっています。彼は罪を犯したのだから不幸になって当然だと、その人物の不幸を喜ぶ様は、まさしくシャーデンフロイデに支配された人間の写像なのです。この他者の苦痛に悦びを覚える本能がある限り、人間が人間社会を形成し続ける限り、虐めという行為も傍観者の存在も潰えることなどありえないと私は解釈しております。

しかし、減らすことへ専心し努めることはできるでしょう。勿論無理に専心する必要もありません。ですから、心に余裕のない皆様もどうか他者に攻撃的になるようなことはおやめください。自分の世界が楽しきものであるように、他者の世界が楽しきものであることを祈ってください、そうして他人の幸福を願える自分をこの上なく褒め称えてください。私もひっそりと褒め称えておきますので。もしも疲れているのなら無理せず休みましょう、何もしないことこそが肝要な時もあるのですから。

では、今宵も良き空想を。

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