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『政基公旅引付』を題材にした物語が書きたい……!

『――奇獣流転譚―― その音を知る者へ』第5.5章完結後、第6章の公開まで2か月も間が空いてしまいましたが、もちろん一番大きな要因は、元々作者が遅筆だからです。しかし、今回はそれ以外にも要因がありました。いったい何かと言えば、日本の中世史におけるちょっと面白い史料に出会ったことです。

 その一つが、『政基公旅引付(まさもとこうたびひきつけ)』です。戦国時代に、公家の九条政基が家領の荘園に滞在して直務支配を行なった時の日記です。原本は単に『旅引付』とだけ題されていますが、現代ではもっぱら『政基公旅引付』と呼ばれています。同じようなタイプの史料はなかなか他にないので、当時の村落の様子を知るうえでも珍重されています。
 時代が時代ということもあり、九条家の荘園は守護に押領され、年貢による収入も滞りがちでした。このままではまずいと、政基自ら荘園に滞在し、家領支配の回復を試みた時の記録です。
 何せ日記なので生々しさがあるのですが、それに加えて、戦乱の世ゆえに内容がハードです。たびたび人質事件が起きたり、守護方が攻め込んできたり、干ばつによって飢饉が起きたり……。約4年の滞在期間は、まさに波乱万丈です。そして、風流念仏や雨乞いの儀式といった、当時の村の風俗が分かる記述も多々あります。

 この『旅引付』に偶然にも出会ったがために、当時の九条家や公家、朝廷などにも興味が広がり、いろいろ調べているうちに、いつの間にか時間がたっていて……というわけで、自作の執筆がいっそう遅れてしまいました。申し訳ありません。

 しかし、室町時代~戦国時代の公家や朝廷は、歴史の授業などでもあまり取り上げられないけれど、調べてみるとなかなかに面白い分野です。大河ドラマも、戦国時代の武将ばかりでなく、公家を題材にしたものをやってほしいな、と思うほどに。特に『旅引付』は、そのままワンクールぐらいのドラマに出来そうなぐらい内容が濃いので、一般にはあまり知られていないのが実にもったいなく感じます(ある程度中世史に精通している人だと、むしろ知っていて当然の史料かとは思いますが)。

 そのうちいつか、『旅引付』を題材にして小説が書けないものか……と目論んでおりますが、書くための技量の問題を別にしても、まずは『――奇獣流転譚―― その音を知る者へ』のほうを完結まで書き切ることが先決なので、当分は野望のままになりそうです。野望のままで終わらず、たとえ未熟でも作品として形に出来るといいのですが……。

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