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感想応答ノート(大田康湖さん)

【01】かずら橋揺れたら(大田康湖)
https://kakuyomu.jp/works/16818093081245192364
改稿新作報告:
祖谷の乃地日草子 〜月の扇子と星の剣〜
https://kakuyomu.jp/works/16818093089376914182

相談専用ノートです。

10件のコメント

  • 梶野カメムシ
    2024年12月23日 23:47

    【01】かずら橋揺れたら(大田康湖)
    https://kakuyomu.jp/works/16818093081245192364
    改稿新作報告:
    祖谷の乃地日草子 〜月の扇子と星の剣〜
    https://kakuyomu.jp/works/16818093089376914182


    >第1話 奥祖谷行きのバスで

    細かい部分が直されていて、違和感なく読めました。
    特段に指摘はありません。


    >第2話 『乃地日草子』と星の剣

    >森に囲まれたかや葺き屋根の家々に被さるように、屋根の大きさくらいの丸い物体が降ってくる様子が筆で描かれており

    ふうむ?
    「平家の落ち武者」という想定で話を進めるのかと思いきや、この辺りの描写はほとんどUFOだと断定されています。
    「屋根の大きさくらいの丸い物体が降ってくる」ですからね。
    もし聞いていた通り、落ち武者の話ととしてミスディレクションするつもりなら、この部分はうまくごまかす必要があるかと。

    私ならですが、ここでは円盤の存在は一切書かず、「星落ちる=落ち武者の英雄」だと誤解させる方向で書きますね。
    どうしても必要なら、絵の構図から「満月が浮かんでいる」と説明し、「何故月食なのに月が?」と不思議がらせる程度に留めます。
    ちょっと序盤からヒント過剰なので。

    「星の剣」という名前の時点で、かなり大ヒントですからね……
    ここら辺、もっとおとぎ話チックに描いた方がよいかも。

    「乃地日は一振りの宝刀を持っていました。
     闇夜に光るそれは『星の剣』と呼ばれていました。
     乃地日はその刀で女が持つ扇子に月の光を集め、かずらを伸ばして谷川に橋をかけたそうです」

    くらい段階を踏めば、おとぎ話ぽさが出るかも。

    もしくは「かずらを伸ばす」という能力開示は後に取っておき、ここでは「女と協力し、幾つものかずら橋を渡した」とだけ示すか。

    この場合だと、
    「たった二人でそんな多くの橋が掛けられるわけがない」
    「何故に女と協力? 男一人で十分では?」
    といった疑問に、後程アンサーが出るという展開に出来ますね。

    >「しかし、『星の剣』を狙う者たちが、乃地日の居場所を知って追いかけてきました。山に逃げようとした乃地日と娘は、かずら橋の上に追い詰められました。乃地日は『星の剣』を使い、追っ手を阻もうとかずら橋から蔓を延ばしましたが、追っ手はかずら橋を燃やし、二人を川に落とそうとしました」

    ここら辺も、旧作の通りの展開だとすればまんますぎ。
    あくまで現代人の目線から読み取るべきですし、もっと落ち武者方向の解釈をつけるべきでしょう。蔦が伸びるとか、理解不能な部分は「わからない」で押し通せばいいんですし。

    ここで求められるべきは、「お伽話のような内容だが、おそらく落ち武者狩りの史実が描かれている」という説明と、現時点での解釈です。読者にバレすぎないよう、ヒントは出来るだけ絞りましょう。

    >乃地日は助けに来た男女に娘を託すと、

    ここは「男女」と書くと不自然。逆に読者に怪しまれます。
    情報を減らし「村人」と書くべきです。多少事実と異なってるくらいの方が古文書らしいですし。

    >追っ手を燃えるかずら橋と共に川へ落としました。

    ここは文章的にも昔話としてもわかりづらいです。
    具体的には

    >「火をつけた橋に、何故追手が向かってくるのか」
    普通に考えて、乃地日を落とそうと火をつけた橋に、わざわざ追ってくる人間はいませんからね。

    >「乃地日はどうなったか」
    橋を落した際、追っ手だけ落としたのか、一緒に落ちたのか。
    この書き方だとどちらにも取れます。
    「その時負った怪我で」と後にありますが、落ちてないなら、死ぬほどの怪我するような場面がないですし。なので多分、一緒に落ちたのだと思うんですが。

    おそらく真相的に書きづらいところなのでしょうが、ここも、古文書なので多少の虚偽を交えて簡略化した方がよいかと。
    むしろその方がそれっぽくなると考えます。歴史は誇張されるのが常ですしね。

    私なら
    [乃地日は助けに来た村人に娘を託すと、自ら橋を落とし、迫る追っ手もろとも谷底に落下した]

    にします。これなら間違いなく一緒に落ちてます。
    谷底(でいいんですよね?)なら死ぬほどの怪我も納得ですし。

    >残された娘は乃地日の子を産み、月食の晩に祠の前で乃地日を偲んで舞うと『星の剣』が光った、と書かれています

    うん。
    旧稿の違和感が払拭されてますね。

    >僕にはただの金属の棒にしか見えないんです。

    ここは不要だと思います。
    研究者の言葉とは思えません。鐘子が言うならともかく。
    「ただの棒にしか見えない」なら、「他の同時代の刀剣と比べてどうなのか」くらいは調べるのが研究者というものです。


    >第3話 乃地日祠と「鎮めの舞」

    細かく手が入ってますね。
    特に指摘ありません。大変よろしいかと。


    >第4話 お鐘と遠い星の仲間たち

    >懐から速登の持つ「星の剣」と同じ剣を取り出す。

    速登の持つ剣は古くてただの棒みたいだったはず。
    それと同じなのか、こちらは新しいのか。
    そもそもちゃんとした「剣」なのか。
    この辺りは、もう一言説明があってもいいと思います。

    >古文書にあなたのことが書かれていて、会いたいとずっと思ってました。

    歴史上の人物を調べる上で、普通は「会いたい」とは思わないんじゃないでしょうか。
    ここは「詳しく知りたい」とかかと。

    >「へえ。うちの名前もお寺の鐘の『お鐘かね』なんよ。この人は乃地日さん。この前の月そくの晩、星が落ちた山の中に倒れてたんや」
    >お鐘は乃地日を見る。乃地日は上を指さしながら説明した。

    宇宙人との初遭遇にしては、まったく驚きがありません。
    ここは鐘子なりが「ウソでしょ?」くらい言うべきかと。
    速登と鐘子が顔を見合わせ、にわかに信じがたい素振りをしている上でこそ、
    >「君たちには信じられん話かもしれないが……」

    と繋ぐ価値が出るのでは、と感じます。

    >「では乃地日さんは、あの夜空のはるか向こうから来たんですね」

    驚きを呑み込んだ上でなら、この台詞もありかと。

    >「我は『ずっと一緒にいたい』と言ったお鐘のために、『星の剣』を使って谷にかずら橋を作り、村への近道を作った。ノチィヒに戻れぬのなら、ここでお鐘と共に生きようと決めたのだ」

    理由がごく自然でよいですね。
    かずらを伸ばす能力を隠すなら、ここで詳しく開示すればよいかと。

    >「乃地日さんは故郷の星の名前から名付けられたんですね。よろしければ本当の名前を教えていただけませんか」

    名前を訊ねる流れにないので、多少不自然。
    鐘子やお鐘の名前の話題の流れならありなんですが。
    ここの質問は、後の伏線なんですかね?

    この流れなら、「お腹の子供につける名前」を聞きますかね。
    そこから先祖かどうか、判明するかもですし。

    >爆風で小屋の戸が開け放たれた。

    和式の小屋ならスライド式なのでは?
    むしろ「爆風で戸板が外れて飛んでくる」の方が。守った感が出ていいかも。速登が超反応過ぎる気はしますがw

    >乃地日は自分の剣で男の「星の剣」を振り払ったが、

    これ、二人の剣が触れるくらい接近してることになりますが、そんな様子はないので引っ掛かります。
    「星の剣」は飛び道具ですし、近づく必要なさげなので余計に。

    「乃地日は相手の剣先を遮るように「星の剣」を翳すが」
    とかでどうでしょう。

    >速登がとっさに男に体当たりしたため、「星の剣」が男の手から飛ばされ、小屋の入口に落ちる。
    >「君たち、お鐘を連れて逃げてくれ!」
    >入口で残り二人の男ともみ合う乃地日が声を上げた。お鐘が立ち上がる。

    色々突っ込みどころを感じます。

    速登が体当たりはいいとして、相手は入り口付近にいるので、残り二人にすれば目の前で仲間を倒されたことになります。当然、二人は剣を速登に向けるでしょうから、そこに乃地日が駆け付け、速登を救ってもみ合いになる、という流れはどうでしょう。

    あと、バトルは小屋の入口で起きてるので、「逃げてくれ」と言われても逃げようがないのでは、と思います。相手が一人とか、入口が広いとかならまだしも。
    なので、どこから飛び出したのかは明示すべきです。
    私ならそうですねえ。鐘子が「星の剣」を使い、反対側の壁に穴を開けるとかはどうでしょう。「何故使える?」の具体的な答えにもなるし一石二鳥。


    >第5話 かずら橋落ちたら

    >(お鐘かねさんたちはうちのご先祖かもしれないんや。必ず守らんと)

    ごく自然な発想で、よいですね。

    >鐘子は明かり代わりの「星の剣つるぎ」を持ち、お鐘の手を引きながらかずら橋へと走った。

    ここでもどこでもいいですが、
    「初めて触れた「星の剣」の使い方が何故かわかる」という自覚については触れた方が自然です。「きっと速登もそうに違いない」と続けておけば、かずらを伸ばす展開にも引っ掛かりません。

    >かずら橋の欄干にしがみつく鐘子の腕を、速登の左腕が掴む。

    「左手」の方が適切。
    「腕で掴む」とは普通言わないので。


    >かずら橋のバトルについて

    疑問点が複数存在しますので、解決案を提案しときます。

    ・何故、光線で撃ち返さないのか
    相手は「星の剣」から光線を撃ってきます。
    かずらを伸ばす攻撃はどう考えてもこれより遅いので、普通に考えれば「何故、速登も相手を撃たないの?」となるでしょう。

    この疑問については、「人を撃つなんて出来ない」という現代人らしい理屈でいいと思いますが、それが暗黙で理解できるようなシチュが欲しいところ。例えば小屋のシーンで、乃地日が相手を撃とうとして躊躇う、とか。同志ですからね。

    ・かずらを伸ばす目的
    上記が解決したとして、かずらを伸ばして束縛するのはどう考えても分が悪いです。相手が橋の上にいるならともかく。
    何より、束縛されながらでも剣は撃てますし追撃可能です。実際撃たれてましたよね。

    なので、私だったら速登がかずらを操作する目的は捕縛ではなく、橋の前に「かずらの壁」を作ることにします。先に行かせた三人を守る意味でも確実でしょうし。
    しかし壁の大きさが足りず、橋を支える縄を撃たれてしまった展開にすれば帳尻は合います。

    ・敵がかずら橋落下に巻き込まれる
    ここが一番謎。
    伸ばしたかずらの大元は「かずらの絡む木の幹」とあります。
    いわばかずらが命綱になってるのに、落下に巻き込まれるのは意味不明です。木ごと落下してるなら話は別ですが。何より、状況がわかりづらい。

    これの解決は簡単で、速登と乃地日は、かずら橋からかずらを伸ばせばいいのです。これなら束縛された三人は橋に繋がるので、巻き込まれても当然ってことになります。

    ・火力が足りない
    これは単なる感想ですが、「燃えるかずら橋」は柄的にすぐく映えるので、もっと炎や燃え上がる描写を強めるべきです。ワンシーンでいいので情熱的な描写を加えれば、ぐっと盛り上がると思います。
    去年にも似たようなこと言った気がしますがw


    >先ほどのタイムリープと同じ感覚だ。

    「先ほど」はちょっと違和感。
    結構時間過ぎてませんかね?
    「来た際のタイムリープ」とかでよいかと。


    >第6話 阿波池田行きのバスへ

    >上空には光が戻り始めた満月が輝いている。

    イマイチな表現。
    「光が戻り始め」なのに「輝いている」とは?

    [上空には光を取り戻し始めた満月が浮かんでいる。]

    握りしめたままの「星の剣つるぎ」は元の黒い塊に戻っている。

    >「そんなこと、考える間もなかったですよ」

    ラブコメ度を上げるなら、
    「まだ鐘子の腕を握っていた手を、慌てて離した」とかあってもいいかもですね。

    >握りしめたままの「星の剣つるぎ」は元の黒い塊に戻っている。

    「星の剣」が変化した描写ありましたっけ?
    と思いましたが、これは「光が消えた」って意味合いですかね。
    別に過去に戻ったら新品になってた、とかじゃないですよね。

    >「ゆうべの事、なんだか今でも夢みたいやな。お父さんもずっと眠らされてたみたいで何も覚えてへんし」

    ここだと鐘子は敬語じゃないんですね。
    距離が近づいた表現としてはむしろアリなのですが、それならこの回の最初、現代に戻った時点から敬語なしにした方が効果的では。命を助けてもらったわけですし。

    >「そら嬉しいわ。秋の紅葉も素敵なんよ。今度は一緒にかずら橋を渡ろ」
    >「ありがとう。君と一緒なら渡れそうだよ」
    > 鐘子の誘いに速登が笑顔で答える。奥祖谷のバス停に、阿波池田行きの路線バスが入ってきた。

    さわやかな物語の締めくくりですね。
    大変よいと思います。


    ────────────────


    アフターサービスのわりにがっつり指摘しましたが、まあほとんど新作みたいなものですしね。

    細かな改訂が施されていて、前回に比べ格段にストレスなく読めました。終わり方も前よりよくなったと思いますし、キャラの超推理感も消えて、ようやく読めるものになった感じです。

    残る問題点は大きく二つで、一つはバトルや動きの微妙さ。
    小屋と橋の上のアクション部分が、まだこなれないというか、実際に追っていくと首を傾げる部分があります。プロットを組む際、簡単でもいいので、地図や現在位置を書いて動きを把握すれば、この手のミスは減るはずなので、ご参考までに。

    ここら辺については細部まで指摘と改善案を出せたと思います。

    もう一つの問題は、序盤でのヒントがまだ多すぎること。
    大筋を知っているので予想しやすいということを差し引いても、まだ最初から答えを出してるも同然の書き方です。

    もっと古文書の絵や説明を読みづらくし、速登の推理も平家寄りの勘違いを増やし、読者が「宇宙人」の「う」の字も出て来ないくらいにすべきです。その意味で古文書で「かずら伸ばし」を出すのは反対。あの時点でもう「平家の落ち武者そんなこと出来んやろ」なので。おとぎ話に寄せる案も出しましたが、徹底するのが大変なので、やはり隠す方を勧めます。

    ここに具体的な改善案を出さなかったのは、全体的なバランス調整を求められるので、作者以外にはなかなか手を入れずらい部分だからです。自作だったなら、あちこち細かく手を入れてバランス取れるんですが。

    あとやはり、この二人は驚きが足りないと思います。まだ。
    せめて鐘子だけでも、もう少し生っぽい反応が欲しいと思いました。
    読者を驚かせるには、キャラを驚かせて共感させるのが一番早いですからね。


    ──以上、大田さんへのアフターサービスになります。
    二度目の感想なので、これ以上の指摘はしない方針ですが、質問があれば受け付けますし、相談には応じますので。

    もし必要なら、専用ノートの設置をお求めください。
  • 見直しありがとうございます。ご指摘のあった部分を中心に、書き直してみましたのでご確認ください。


    2.『乃地日草子』と星の剣

     速登はそっと冊子を開いた。森に囲まれたかや葺き屋根の家々の上に、丸い月のような物体が光っているのが筆で描かれており、絵の脇には崩し字で文が書かれている。
    「なんて書いてあるん」
     鐘子の問いに速登は文章を指さしながら答えた。
    「『月そくの夜 奥祖谷の里に 星落ちぬ』。『月そく』というのは月食のことだと思われます」
     速登が次のページをめくると、木がなぎ倒された森の中で、着物姿の女性が鎧姿の男性を介抱している絵が描かれている。
    「村の娘 星落ちた山にて 乃地日と名乗る 白き鎧の男見つけ 介抱す」
    「祖谷は平家の落人をかくまった隠れ里やもんな。昔から困っとる人に優しいんや」
     鐘子のうなずきに貴星が相づちを打つ。
    「確かに、平家の落人なら鎧を着ていてもおかしくはないですね」
     その次のページには、剣を持った男と扇を持った女がかずら橋の横に立つ絵がある。
    「傷癒えし乃地日は携えし『星の剣』を振るい 谷にかずら橋を架けぬ 娘は『月の扇』を掲げ舞い踊れり」
    「娘さんへのお礼にかずら橋を架けるなんて、ロマンチックな話やな」
     感心する鐘子とはうらはらに、貴星は書かれた文字を見つめて言った。
    「確かにうちにある『乃地日祠』と同じ字ですね。かずら橋も昔はたくさんあったそうなので、もしかしたらかずら橋を作ったご先祖がいたのかもしれません」

     次のページには、かずら橋の上に立つ乃地日と娘、橋のたもとに剣を持つ人々が描かれている。
    「半年後 娘は乃地日の子を身ごもりしが 乃地日を捕らえんとする追っ手が祖谷に現れ かずら橋を燃やして二人を追い詰めり」
    「ひどいことをするもんやな」
     鐘子は身を乗り出さんばかりに絵を見つめる。
    「娘を村人に託した乃地日は 剣をふるいて追っ手とともにかずら橋を落とし 亡くなりぬ」
     絵では燃えるかずら橋が川に落ち、向こう岸で娘が乃地日の剣を抱きしめている。
    「娘は乃地日の子 地星を産み 残されし剣を祠に納めん 子孫は月そくの晩に 祠の前で乃地日を偲びて舞えり」
     冊子は小さな石の祠の前で扇子を持って踊る娘が描かれて終わっていた。
    「へえ。今はお盆やけど、昔は月食の晩に舞ってたんや。扇子持ってるのも一緒やな」
     鐘子は浴衣の懐から竹でできた扇子を見せた。
    「山乃端家の先祖がここに来たときにあった出来事が、乃地日と娘さんの話になったのかもしれませんな」
     貴星が腕組みしてうなずいた。
    「僕の地元の神社には平家の落人が眠っているという『地星祠』があります。祖谷の伝説について調べていて、『民宿 山乃端』の裏に『乃地日祠』があり、『鎮めの舞』という門外不出の踊りが伝わっていると知ったので、古文書と関係があるか気になり、今回の月食に合わせてぜひ踊りを見たいと手紙でお願いしたのです」
     速登は本を閉じると桐の箱を開いた。中には30センチほどの黒ずんだ金属の棒が入っている。
    「これは乃地日の『星の剣』だと伝わっていますが、大学で調べてみても刃が付いていた痕跡が無いんです。『乃地日祠』に何か手がかりがないか、ご存じないでしょうか」


    3.乃地日祠と「鎮めの舞」

     光が消えると、鐘子は速登と共に森の中に立っていた。周りの木々がなぎ倒されており、ぽっかりと開けた空には月食の満月がのぞいている。
    「怪我はないですか」
     光る「星の剣」を掴んだままの速登が、息を弾ませながら鐘子に話しかけた。鐘子は辺りを見回す。
    「うん。それより、ここは一体どこなん? 祠もお父さんもおらへんし」
     鐘子の問いかけで、ようやく速登も辺りの状況に気づいたようだ。
    「鐘子さんにも分からないんですか。それにしても」
     速登は「星の剣」の光で辺りを照らしている。
    「この木が倒れている景色、あの本にそっくりではないですか」
     速登の声は興奮を抑えきれないようだ。鐘子はおそるおそる尋ねた。
    「それじゃ、ここはあの星が落ちてきた場所ってこと?」
    「まだ分かりませんけど」
     鐘子は耳を澄ます。しばらくして、馴染み深い音が聞こえてきた。
    「こっちから川の音が聞こえるよ」
    「では、一緒に様子を見に行きましょう」
     速登が鐘子が指さした獣道の先へと「星の剣」をかざした。

    「この剣が懐中電灯代わりになって助かりましたよ」
     二人は山の獣道を下っている。鐘子を不安がらせないようにか、速登が明るく呼びかけた。
    「でも、どういう仕掛けなんかな」
     鐘子の問いかけに速登も考えているようだ。獣道をしばらく進むと森は途切れ、二人は川を見下ろす渓谷の上に出た。道は渓谷に沿って続いている。


    4.お鐘と遠い星の仲間たち

     二人が小屋に近づくと、物音に気づいたのか入口が開き、着物姿の若い男が出てきた。速登は丁寧に呼びかける。
    「すみません、ここはどこですか」
     男は厳しい表情をした。髪は速登のような癖のある巻き毛で、光に照らされた肌は緑色がかって見える。その視線は速登の持つ「星の剣」を見ているようだ。速登は敵意はないことを示そうと手を広げた。
    「僕たちは祖谷の里から来ました」
     鐘子も戸惑いながら同じ仕草をする。
    「月食の晩に踊ってたらこの剣が光って、気がついたら森の中にいたんです」
    「そうか、剣の力でここに呼ばれたというのか」
     男は二人をしばらく見つめ、敵意はないと判断したようだ。懐から速登の剣と同じくらいの長さの光る棒を取り出す。
    「剣が光ったので、星の仲間が来たと思ったのだが、君たちはここではない祖谷から来たようだな」
     すると、男の背後から着物姿の若い女が顔を覗かせた。
    「乃地日さん、迷い人かね」
    「乃地日さん?」
     鐘子が驚きの声を上げる。速登は小声で鐘子にささやいた。
    「もしかしたら、僕たちは乃地日さんの時代にタイムリープしたのかもしれません」
    「まさかそんな」
     立ちすくむ二人に娘が声をかけた。
    「よかったら中で休んでや」

     速登と鐘子は勧められるままに板間の上がり口に腰掛けた。
    「僕は斗南速登と言います。古文書にあなたのことが書かれていて、ずっと調べていました。この『星の剣』は我が家に昔から伝わっていたものです」


     お腹の膨らみをなでるお鐘を見ながら鐘子が言った。
    「そうなんや。もしかしたら、うちのご先祖様かもしれんね」
    「乃地日さん、地星という名前に心当たりはありませんか」
     速登が尋ねたその時だ。突然外から轟音が響いた。まばゆい光が室内を包み、爆風で小屋の戸板が吹き飛ばされた。速登がとっさに鐘子に被さる。
    「何が起きたの?」
     戸惑う鐘子の隣でお鐘が声を上げた。
    「また星が落ちてきたん?」

     光に包まれて現れたのは、緑がかった肌に白い鎧のような宇宙服を着た三人の男だ。手に「星の剣」を握った男が呼びかける。
    「チセイ」
     それに応えるように、乃地日が「星の剣」を持って立ち上がった。男と乃地日はノチィヒ星の言葉で話しているようだが、鐘子と速登にはテレパシーのように会話の内容が伝わってくる。
    『ようやく見つけた。他の仲間はどこにいる』
    『我は仲間とはぐれ、助けてくれたお鐘とここで生きることに決めた。この星を襲おうとしたお前たちに協力する気はない』
    『仲間の行方を吐け。さもないと』
     男は小屋の奥にいるお鐘に「星の剣」を向ける。
    『よせ!』
     乃地日は自分の剣で男の「星の剣」を振り払ったが、直前に剣から放たれた光に脇腹を貫かれた。男の手から飛ばされた剣が鐘子の足下に落ちる。
    「乃地日さん!」
     速登が自分の剣を出すと乃地日に駆け寄った。男が驚く。
    『現地人がなぜ、我々の剣を使えるのだ』
    「君たち、お鐘を連れて逃げてくれ!」
     残りの二人が近づくのを見た乃地日が声を上げた。
    「いやや!」
     鐘子は乃地日に駆け寄ろうとするお鐘を遮り、落ちた「星の剣」を掴んだ。「星の剣」から光が伸び、小屋の壁を切り裂く。
    「あそこから外に出よ」
     鐘子はお鐘の手を引いて小屋を飛び出した。剣を奪われた男が叫ぶ。
    『あの女を捕まえろ!』

    5.かずら橋落ちたら

    「乃地日さんはお鐘さんたちと先に逃げてください。僕が追っ手を食い止めます」
    「かたじけない」
     乃地日はお鐘の手を借りながら橋を渡り始めた。速登が「星の剣」を掲げ、かずら橋の前に立つ。民宿へ向かう途中、彼が高所恐怖症だと言っていたことを鐘子は思い出した。
    「うちが助けるから一緒に渡ろ。怖いなんて言ってられんよ」
    「剣が使えるのも、男の言葉が聞こえたのも、僕たちが乃地日さんの星の血を引いているからでしょう。それなら僕にもかずらが伸ばせるはずです」
     速登は髪をかき上げると「星の剣」でかずら橋を指し示した。
    「うちにも手伝わせて」
     鐘子は橋を引き返そうとするが、速登は「星の剣」を構えた。
    「いえ、君をこれ以上危険にさらすわけにはいきません」
     三人の追っ手はすぐそこまで近づいている。速登の「星の剣」から光が伸びた。
    「お願いだ、かずらよ伸びてくれ」
     「星の剣」の光がかずらを照らし、かずら橋の入口を塞ぐように蔓が伸びていく。その光と交錯するかのように、先頭の男が持つ「星の剣」から光が放たれた。光は橋を支えるかずらの蔓を切断し、橋が大きく傾く。
    「ああっ!」
     鐘子は傾いた橋に足を取られて倒れた。とっさに欄干へしがみついた拍子に「星の剣」が川面に落ちる。
    「鐘子さん!」
     川の流れる音を切り裂くように、速登の声が響いた。

     かずら橋の欄干にしがみつく鐘子の腕を速登の左手が掴む。鐘子は思わず呼びかけた。
    「なにしとるん、斗南さんはかずらを伸ばしてや」
    「大丈夫だ。乃地日さんが手伝ってくれてる」
     確かに、橋の向こう岸から光の帯が伸び、男たちが伸びたかずらに絡めとられている。

     その時、追っ手の「星の剣」と乃地日の「星の剣」が交差するように光を放った。かずら橋が炎に包まれ一気に燃え上がり、追っ手たちを巻き込んで崩れ落ちる。炎に照らされた向こう岸で、乃地日がお鐘に支えられながら伸ばしていた剣を下ろした。
     呆然と見守る鐘子と速登の目の前で、光に包まれた乃地日とお鐘の姿が揺らいでいく。タイムリープした時と同じ感覚だ。鐘子と速登は叫んだ。
    「お鐘さん、元気な子を産んでね」
    「二人ともお幸せに」


    6.阿波池田行きのバスへ

     気がつくと、二人は「乃地日祠」の前に立っていた。上空には光が戻り始めた満月が浮かんでいる。
    「どうやら現代に帰れたみたいですね。鐘子さんのお陰です」
     速登が満月を見ながら鐘子に呼びかける。
    「斗南さんこそ高いところは苦手やのに、うちを助けてくれて」
    「そんなこと、考える間もなかったですよ」
     礼を述べた鐘子に、速登は髪の毛をかき上げながら照れくさそうに笑った。握りしめたままの「星の剣」は元の黒い棒に戻っている。
    「それにしても、まさか乃地日さんが宇宙人だったとは思いませんでした」
    「乃地日さんとお鐘さん、あれからどうなったんかな」
     鐘子が扇子を懐に入れながらつぶやいた時、祠に寄りかかって眠っているような貴星の姿が目に入った。
    「お父さん、起きてちょうだい」
     鐘子が揺り起こすと、貴星は懐中電灯を持ったまま立ち上がった。
    「あれ、もう皆既月食は終わりましたか。20世紀最長とか言ってましたが、なんだかあっという間でしたな」
    「お嬢さんの踊り、見せていただきありがとうございました」
     速登が貴星に頭を下げる。
    「もう遅いし、そろそろ家に入ろっか」
     鐘子は何事もなかったかのように浴衣の懐を叩いた。





  • 改訂お疲れさまです。

    >2.『乃地日草子』と星の剣
    の古文書は、ほどよくぼかされていい塩梅になりました。
    これなら宇宙人とは事前に予想できないでしょう。

    その他の修正箇所も、ほぼほぼ違和感なく読めました。
    よい修正だと思います。

    二点だけ、引っ掛かった部分を指摘しておきます。

    >「君たち、お鐘を連れて逃げてくれ!」
    >残りの二人が近づくのを見た乃地日が声を上げた。
    >「いやや!」
    >鐘子は乃地日に駆け寄ろうとするお鐘を遮り、落ちた「星の剣」を掴んだ。「星の剣」から光が伸び、小屋の壁を切り裂く。

    ここの「いやや!」が、鐘子が言ったように読めます。
    あらためて読み返すと、おそらくお鐘の台詞だと理解できますが、引っ掛かりやすい書き方になっているかと。
    これは台詞の直後に「鐘子は~」と鐘子を主語にした文章が続くからだと思われるので、先にお鐘を主体にした描写にすれば直せるかと。

    >「星の剣」の光がかずらを照らし、かずら橋の入口を塞ぐように蔓が伸びていく。その光と交錯するかのように、先頭の男が持つ「星の剣」から光が放たれた。光は橋を支えるかずらの蔓を切断し、橋が大きく傾く。

    この書き方だと、まだ速登の意図が理解しづらいと思います。
    はっきりと「蔓が壁を作る」と書き「光を何発か防ぐ」描写もあった方がよいです。今の書き方だと何の役にも立っていないように読めるので。せっかくの速登の見せ場ですしね。
  • 見直しありがとうございます。

    乃地日の剣の力を補足しました。



    「お鐘は傷ついた我をこの小屋に運び、『乃地日』と名付けて熱心に介抱してくれた。我はお鐘や村の者たちを通してこの星の言葉を覚えた」
    「やっぱり昔から祖谷の人たちは優しかったんやな」
     鐘子は速登を見ながら頷く。乃地日が自分の剣を取り上げた。
    「ノチィヒの者はこの剣を通して自分の思いに力を与える。我の一族は植物に光を与え、茂らすことができるのだ。お鐘の持つ扇子も力を使うのに役立ってくれた」
    「そんな、うちはただ踊ってただけやのに」
     お鐘が頬を染める。



    >ここの「いやや!」が、鐘子が言ったように読めます。

     これでどうでしょう。


     残りの二人が近づくのを見た乃地日が声を上げた。お鐘が叫ぶ。
    「いやや!」

    >この書き方だと、まだ速登の意図が理解しづらいと思います。
    はっきりと「蔓が壁を作る」と書き「光を何発か防ぐ」描写もあった方がよいです。今の書き方だと何の役にも立っていないように読めるので。せっかくの速登の見せ場ですしね。


     書き直してみました。


     「星の剣」の光がかずらを照らし、蔓が伸びていく。瞬く間にかずら橋の入口は生い茂る蔦で塞がれた。間一髪、男の放つ剣の光が蔦の壁で阻まれる。
    「ならば!」
    男の持つ「星の剣」から再度光が放たれた。光は橋を支えるかずらの蔓を切断し、橋が大きく傾く。

  • お疲れさまです。
    問題なく読めるようになりました。
    能力説明もよい追加だと思いますよ。

  • コメントありがとうございます。

    「ならば!」のカギ括弧はノチィヒ語なので『』ですね。
    生い茂る「蔦」も「かずらの蔓」に直します。

     後は文字数と相談の上調整します。

     お付き合いありがとうございました。
  • ああ、確かに。
    それなら蔓(つる)はルビがあった方がいいかもですね。

  •  本文の修正を終えました。ありがとうございました。

    祖谷の乃地日草子 〜月の扇子と星の剣〜https://kakuyomu.jp/works/16818093089376914182
  • 格段に良くなりましたね!
    お疲れ様でした。
  • こちらこそ、また機会がありましたらよろしくお願いします。
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