・フィルニカ王国の航空機事情
ヘリコプターはティルトローター機に比べて巡航速度で大幅に劣るが、回転翼に用いる超伝導モーターが一基で済むため経済的とされ、フィルニカ王国ではヘリコプター部隊を航空騎兵隊と呼称する。
これはフィルニカ王国における航空機の運用が、大小様々な貴族領=藩の限られた領空内に留まっていたことに由来する。
広大な領土を征服しその維持に追われていたベガニシュ貴族が、航続距離と速度に優れたティルトローター機を貴族の乗り物と珍重したのと対照的である。
フィルニカ王国における武装ヘリコプターの歴史は古く、中世暗黒時代――最も軍事貴族の権力が強かった時代までさかのぼることができる。
ベガニシュ貴族が航空機を娯楽や移動の手段に限定して運用していた時代から、フィルニカ王国は人間狩りにヘリコプターを用いてきた。
記録に残っている最も古い武装ヘリコプター(通常のヘリコプターに機関銃やロケット砲を取り付けたもの)は、フィルニカ王国で発明されたとされる。
遺跡の生産プラントを独占する貴族が、地上の反乱軍を狩るための武具、言うなれば無敵の「空の騎士」として武装ヘリコプターは君臨していた。
つまるところ当時のヘリコプターは対地攻撃機的な存在ではなく、空飛ぶ戦車《チャリオット》だったのである。
歴史上、数万人規模の反乱をたった3機の武装ヘリコプターが鎮圧したという記録も残されている。
初歩的な小銃しか持たなかった平民と、貴族が保有する武装ヘリコプターの大型ガウスガンはその射程に大きな差があったのだ。
この貴族一強体制を打破した武装が、バナヴィア王国から伝来した携帯式防空ミサイルシステムであり、また対装甲ガウスガンだったとされる。
武装ヘリコプターから攻撃ヘリに対地攻撃機が移り変わったのは、こうして制圧対象が重武装化してきたことが背景にある。
こうした攻撃ヘリコプターは現在でも圧倒的な攻撃能力を保持しているが、低空飛行時にバレットナイトの対空砲火で撃墜された事例が数多く報告されている。
・ロックウェルの思惑
ガルテグ連邦はベガニシュ帝国を強烈に敵視しているが、大陸遠征軍の敗退によって停戦協定を結ぶほどに疲弊した。
少なくとも民意は、これ以上の戦争継続を断念させようとしている。
しかしベガニシュ帝国の中に戦争継続を望む貴族派(1章でエルフリーデと交戦した公爵軍など)がいるように、ガルテグ連邦にも主戦派は存在する。
GCIフィルニカ支部長キース・ロックウェルもその一人であり、彼は両国の和平の流れを仲介するフィルニカ王国の体制転覆を図った。
ロックウェルは戦争継続のための2つのプラン「シャドウソード作戦」「ダークファイア作戦」を主導した。
これらはフィルニカ王国の体制転覆のための秘密作戦で、ベガニシュ帝国と隣接するこの国を混乱に陥れ、和平の仲介そのものをなかったことにする意図。
先王の遺児ラト・イーリイを利用したクーデター煽動「シャドウソード作戦」が失敗に終わると、「ダークファイア作戦」が発動した。
ロックウェルの計算外だったのは、忠実な工作員リザが土壇場で裏切ったこと、そして投入した秘密兵器の制御システムがブラックボックスである電脳棺だったことである。
・GCIフィルニカ支部
元々は本国のGCIの派閥の一つが、とある不祥事を機に左遷されて島流しにされた感じの支部。
半ばロックウェルの私兵集団と化しており、彼の独断専行を止めるものがいなくなっていた。
巨大人型兵器の建造含めてやりたい放題していた集団であり、ロックウェルの強い思想とは別に、そもそも組織としての規律に怪しい面があったのは否めない。