昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがおりました。
おじいさんはパソコンにかじりついてFXに血道を上げ、おばあさんは私有地の川で鰻を違法に養殖して売りさばき、巨万の富を築いて暮らしておりました。
ある日、おじいさんが川で放尿をしていると、川の向こうから大きな桃が、どんぶらこっこと流れてきました。おじいさんは桃にもひっかけてやろうと試みましたが、尿の残機が心もとなかったため、諦めて桃を家に持ち帰ることにしました。
そして、家に帰っておばあさんと一緒にその桃を割ってみると、なんと中から元気な男の子が生まれてきました。
若い頃にアバンチュールな出会いを果たし駆け落ち同然の形で結ばれたものの、子宝に恵まれていなかった二人はこれを喜び、男の子を「ももお太郎」と名付けて、自分達の子供として育てていくことにしました。
その後、国内でも指折りの実業家であるおじいさんと、裏の世界にも顔が利く商売人であるおばあさんによって、ももお太郎は友だちと遊ぶ暇も無く徹底的な帝王学を叩き込まれ、やがて立派な青年へと成長していきました。
そんなある日、遠くの鬼ヶ島に住まう鬼たちが、人々から財を巻き上げ、若い娘たちを攫い、好き勝手に暴れ回っているという噂が、ももお太郎たちの村にも聞こえてきました。
近隣諸国の姫君たちまでも攫われてしまったという話を聞いたおじいさんとおばあさんは、これは、国のトップ連中に大恩を売るチャンスだと目を輝かせ、ももお太郎を鬼退治のため旅立たせることを決意しました。
ももお太郎は、おじいさんが金で雇った一流の格闘家によって古今東西の武術を叩き込まれており、勉学だけでなく、その戦闘力も相当なレベルに達していたのです。
そしてももお太郎は、おじいさんとおばあさんの薄汚い金銭欲と名誉欲を満たすための道具となり、おばあさんがお歳暮にもらったきびだんごを持たされ、なし崩し的に鬼退治に向かうこととなりました。
旅の途中、ももお太郎は、野生の犬、猿、キジに出会いました。
意地汚い獣たちは、「ももお太郎さん、お腰につけたきびだんご、一つわたしにくださいな」と、明らかにお歳暮の高級きび団子を目当てに、諸手を揉みながらすり寄ってきました。
ももお太郎は、そんな畜生共の訴えに気を悪くする様子も無く、きびだんごを全て与えてやりました。
三匹の獣は、いいカモが見つかったぜ、とほくそ笑み、そのまま、ももお太郎の旅に同行することになりました。正直鬼と戦うなんてごめんでしたが、「どうせダメそうだったらトンズラこけばいい。この若造から搾れるだけ搾り取ってやるぜ」と、どこまでも最低な考えを抱いていたのでした。
そうして、数カ月の旅路の末、ももお太郎たちは鬼ヶ島に到着しました。
筋肉ムキムキで逞しい体格と猛悪な顔つきの鬼の群れを前に、お供の獣たちはさすがにチビりそうになりました。
しかし、ももお太郎を囮にした隙にどうやって逃亡しようかと最低な胸算用を始めていた三匹の畜生を尻目に、ももお太郎は全く動じる様子も無く、鬼たちの群れの中へズンズンと進んでいきました。
「なんだぁ? ひょろっちい人間風情が、俺たち鬼に何の用だ?」
「若い女ならともかく、こっちは男なんぞに用は無えぞ!」
「構いやしねえ! ストレス解消にボコボコにしちまおうぜ!!」
ゲラゲラと嘲笑している鬼たちを前にして、ももお太郎は口の端をニヤリと釣り上げました。
「この時を……待っていた!!!」
そう言い放ったももお太郎は、手近にいた鬼を流れるような動作で組み伏せると、完全に身体の自由を奪い、混乱する鬼のパンツを力づくで脱がせてしまいました。
そしてそのまま、自らのズボンの中にしまわれていたとっておきの刀で、鬼のことを一突きにしてしまったのです。
周囲には、一突きにされた鬼の、アッーーー!という叫び声が響き渡りました。
突然の出来事に、鬼たちは言葉を失いました。
「俺はなぜか、昔から鬼に対して欲情してしまう体質でな。鬼ヶ島の話を聞いた時から、色々と昂って仕方が無かった。だが今日、ついに俺は鬼ヶ島に、自らの理想郷に到達することができた! 俺はここで、溜まりに溜まった自らの欲求を完全開放する!!!」
ももお太郎のその宣言を受けて、鬼たちは一斉に逃げ出しました。
人間より遥かに優れた膂力を有する鬼をあっさりと倒し、あまつさえ一突きにしてしまったももお太郎に対して、一瞬でトラウマを植え付けられたためでした。
幼い頃から他人とほとんど触れ合うこと無く、おじいさんとおばあさんに苛酷な帝王学を叩き込まれ続けてきたももお太郎は、その反動で、一般の人間にはおよそ理解しがたい特殊性癖を開花させていたのでした。
「モモォ……モモォ……」と呟きながら全速力で追いかけて来るももお太郎の姿は、逃げ惑う鬼たちにとっては恐怖以外の何物でもありません。
鬼たちが力で劣る人間を舌なめずりしていたぶっていた一方、人間のももお太郎もまた、鬼たちを見て舌なめずりをしていたのでした。
人間も、自らの欲望のためには鬼になる。
憐れな犠牲者と化した鬼たちは、次々とももお太郎に蹂躙されていき、その教訓を自分たちの身体に痛いほどに刻み込まれていったのでした。
「「「………」」」
そんな地獄絵図のような光景を、成り行きでついてきた三匹の獣たちは、呆然と見ていることしかできませんでした。
やがて、眼の光を失って忘我の状態で倒れ伏した鬼たちの死屍累々の中を、やたらと肌をつやつやさせたももお太郎が悠々と歩いてきました。
「さて。次は、お前たちと戯れる番だな……」
その言葉は、犬畜生たちにとっての死刑宣告でした。
「そ、そんな! ももお太郎さんは鬼が好きなんでしょう!? 僕たちはただの獣! 対象外のはずだワン!」
「仲間になる時、『お腰につけたきびだんご、一つわたしにくださいな』と言っていただろう? 折角だから一つと言わず、二つとも頬張らせてやろうと思ってな」
ももお太郎は自らの腰……というか、股下あたりのきびだんごをぶらぶらと振りながら、平然と言いました。
「あれはそういう意味じゃ無いウッキイイイイイ!!!」
「遠慮をするな。待たせてすまなかったな」
「待ってないケンンンン!!! ギャアアアアアア!!!」
こうして、鬼たちが全滅した鬼ヶ島に、畜生共の悲痛な叫び声がこだましていったのでした。
よかれと思って施した厳しい教育が、人間を歪ませることもある。
人の世とは誠、ままならぬものなのでありました……。