今年の四月くらいから近所の人が犬を飼い始めた。番犬用に飼ったらしく、家の前を人が通ると激しく吠える。人が通ったときだけ吠えてる分にはまだいいのだが、人が通っては吠え、通り過ぎてからも吠え、車が通っては吠え、近所の人が自分のお家のお庭に出てきては吠えしているので、ほぼ一日中バウワウしっぱなし。
しかも吠えに来る時の形相がコワイ。土煙を立てながらダッシュしてきたかと思うと、立ち上って柵に前足をかけ、イッちゃってる目で一心不乱に吠える。いつ柵を飛び越えて噛みつかれるかとビクビクしていた。
偶然、京都にある有名な縁切り神社のことを知ったのが五月のこと。しばらくして、この縁切りの神様にお願いしてみたはどうだろう、と思いついた。しかし、こちらは僻地住まい。京都になんかおいそれと行けやしません。ということで、ノートにお願い事を書き出すことにした。
「✕✕ 神社様」と書いて願い事を考える。
「バウワウ犬と縁が切れますように」と書こうと思ったのだが、欲を出して「近所の騒音と縁が切れますように」と書いた。この辺りは別荘地なので、夏になると近所のテニス コートでズムズムいう音楽を大音量で流したり、隣に毎夏来る家族が夜中の三時にダンシング クイーンを合唱したりとそれはそれは賑やかなのだ。
その他の願い事(五つくらい書いた)を書いた後、「来年京都に行ってお参りをします。お賽銭は ✕✕ 円奉納しますので、よろしくお願いします」と締めくくった。それが五月の二十二日だった。
六月八日のことである。
朝から静かなのだ。
バウワウはどうした? 散歩にでも連れて行ったのか?
その日の午後、バウワウ犬の家の前を通った。バウワウ犬は相変わらず土埃を上げてダッシュしてきた。が、吠えない。
吠えられないようだった。
見慣れない首輪を着けていた。吠えると電気ショックが来る首輪のようだった。
それもなんだか可哀そうだったが、吠えっぱなしにさせてる飼い主ならさもありなん。柵に前足をかけることもなく、柵の向こうからやや興奮気味にこちらを見てくるだけだった。
その後、バウワウ犬の家の前を二回通ってバウワウ犬の姿を見なかったので「すわ、バウワウ犬失踪か?」とも思ったのだが、三回目に通ったときには植木の下で休んでいた。以前のようにダッシュしてくることもなく、横目で睨まれただけだった。どうした、バウワウ。別犬のようになって……。
ハッ Σ((゚Д゚))) これは……京都の某神様のご利益か……?
バウワウ犬だけなら、近所から苦情が来てて飼い主が仕方なく首輪を付けたタイミングがたまたまあったとも考えられる。しかし、今年はテニス コートも静かだし、隣に来た家族も不思議なほど静かなのだ。
やっぱり京都の某神様のご利益としか考えられない。
神様がリモートでも願い事叶えてくれるとか、聞いたことないですよね? お賽銭の額を言ったのが効いたのか?
これは何が何でも来年お参りに行かなくては……。