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※この物語はレガシオン・センスの前日譚になります。舞台は主人公が"翔真"になる前の日本。本編2章を読了した上で読み進める事をお勧め致します。
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――SIDE:赤城駿――
SNS掲示板で可笑しなプレイヤーが居るっていう噂を聞いた事がある。言っても、世界規模のVRMMO『レガシオン・センス』だ。そんなプレイヤーは掃いて捨てる程居るだろう。
俺が言いたいのは、輪を掛けて有り得ねぇってプレイヤーの話だ。ボイチャOFF、メッセージブロック。アピールガン無視の"道化師"アバター。ログイン継続は脅威の12,000時間。廃人BOTだとか、住民Sだとか、重度のマキシ厨患者だとか、付いた呼び名は様々だ。
中でも浸透しているのが"レガシオンの亡霊"とかいう名前だろう。実際、俺も遭遇した事はあるが、ありゃあ気味が悪ぃぜ? 人工AIが動かしてるって言われるのも納得だ。
プレイヤーネーム・ソーマ。
世界ランキング第3位の男は、この世界に確かに存在している。PTを組む前提のバランスで調整されたレガシオンで、たった一人|単独編成《ソロ》でランキング上位へと駆け上った男……。
プロゲーマー集団の俺達『|黄泉比良坂《よもつひらさか》』と同等……もしくは、それ以上の話題性を持つ異端のプレイヤーだ。全く以って気に入らねぇー。
折角の集合オフだってのに、結局今日も話題となったのはアイツの事だった――
「えー、お集まりの皆さん。今日も遠路遥々御足労頂き、誠に有難うございます」
「うーわ!? 学校かよ!?」
「堅苦しいのは止めよーよ、リーダー!!」
貸し切ったスタジオの中、色取り取りの食事に囲まれながら、俺達は壇上で挨拶をする今夜の主役へとブーイングを行った。
ありゃ確信犯だな?
悪戯に舌を出しながら、直斗の奴は隣に立つマイスイートハニーへとマイクを譲った。
焦って、困り果てる|呉羽《くれは》。
そんな所もカワユイんだよな〜〜♪
「えっと、その……私達、黄泉比良坂は、今まで公式大会で優勝を取る事が出来ませんでした。3周年記念のこの大会で結果を残せたのは、多分、皆のおかげで――だからその、ええっと……」
マイクを握り、アタフタとする呉羽。
そろそろかな……?
思った俺は、周りの連中に目配せをする。
せーー、のっ!!
『――直斗、呉羽!! 世界ランキング1、2位獲得おめでとう!!』
パーン! と、隠し持ってたクラッカーを鳴らし、俺達は二人の事を盛大に祝ってやる。
「――キャッ! え!? えぇ!?」
「全く、負けたぜお前らには!」
「流石"|黄泉《よもつ》"のツートップだな!? いつかは獲るんじゃねーかなとは思ってたけど、まさかワンツーフィニッシュとはなぁ!?」
「凄いです、呉羽さん!」
「|花糸《けいと》……|駿《しゅん》……!!」
「祝勝会!! 盛り上がって行こうぜー!!」
ローストチキンを片手に、叫ぶ俺。
此れを皮切りにして、黄泉の仲間達は思い思いに皿の食事を突いて行く。
「|御剣《みつるぎ》! ケーキ!! ケーキあげる!!」
「……ありがとう、ペトラ」
お、色男がロリっ子と戯れてらぁ。
少し揶揄ってやろうかな?
「よー、リーダー! 場所用意してくれてサンクスな! おかげで"負けた"俺達も楽しめてるぜー?」
「もー、赤城。またそれ言う!? 良い加減、直斗君に絡むのは止めなさいよ!!」
「うっせぇなぁ……男のプライドなんだよ! 屋代のババアは引っ込んでろ!!」
「誰がババアだ、このクソ餓鬼ィッ! 私はまだ32だっての!? ピッチピチのギャルよギャル!」
「……32歳って、ギャルなの?」
「止しなさい、|鼎《かなえ》君。口は災いの元よ?」
中坊の|鼎《かなえ》が、モデルの刹那に嗜められてやがる。そんな事言われても、俺はまだ18だから32の女はババアとしか思えねぇ。戦友に気を使うのも違うだろう? 俺は正直に生きてんだ。
「ほらほら。そんな事言ってると、また呉羽ちゃんに愛想尽かされちゃうぜ〜?」
「んだと俊樹!? またって何だ、またって!?」
「喧嘩しちゃ、駄目です……!」
「赤城君、倖田さんは年上なんだから言葉使いを悪くしちゃ駄目だよ?」
「うぐっ、く、呉羽が言うなら……」
「やーい、怒られてやんのー!」
「!!」
そっからは何時もの流れだ。俺を揶揄う倖田俊樹との追い掛けっ子。コイツは30才の大人の癖に子供相手にも容赦しねぇ、嫌な奴だ。
皆が笑い、はしゃぎ、飯を食い終わった時だ。
引っ込み思案の|野原花糸《のはらけいと》が、改めて今回の大会を振り返る。
「本当に優勝出来たんだ……」
「改まって、どうしたの?」
「何だか、実感が無くて――」
呟く花糸に、俺は仕方がねぇなぁと、スマホの画面を見せてやる。
表示したのは、今大会の順位表だ。
「見ろよ、個人成績1位から10位まで、全部俺達で埋まってやがる! 実感があろうと無かろうと、結果が全て! 俺達、黄泉比良坂は最強なんだよ!!」
「……ドベのお前が粋がるかね?」
「るせぇ!? いつかお前も抜かしてやる!!」
「それに――1位から10位までではないよ」
「――う」
「第3位が空いている。確か、プレイヤーネームはソーマだっけ?」
「レガシオンの亡霊……ね? 大会中に近くで見る事が出来たけど、あの子の"マキシマイザー"、半端じゃなかったよ?」
「あのクズスキルで、良くもあんだけ貢献度を稼げたよなぁ……? |単独編成《ソロ》で俺達と競って、団体6位ってのが信じられんね」
「へ……へへへっ! でもよ、今回でその亡霊も俺達が倒したんだっ!! 今頃掲示板では大騒ぎになってるだろうぜ!?」
「……」
「あ、あれ? 呉羽……?」
「また、彼の事を気にしてるの?」
「うん……ちょっとね……」
言って、物憂げな表情を浮かべる呉羽。今大会はレガシオンの3周年フェスと同時に行われた。ランカーであり、プロゲーマーである俺達はレガシオン・センスのプレイヤー代表として会場に登板したんだ。黄泉比良坂は人気だからな。皆にはそれぞれファンが付いていた。――と、当然俺にもファンは居るからな!? 馬鹿にすんなよ!?
……兎に角、ランカー達が一挙に合わさる会場で、遂にあの男が現れたんだ。
確か、|石動蒼魔《いするぎそうま》だっけか――?
ほぼほぼイベントを欠席して、居るのか居ないのか今一分かんねぇ男だったけど、黄泉の中でもアイツに遭遇したメンバーが出てきたんだ。
ソレが――|鶺鴒呉羽《せきれいくれは》と、ペトラ=ノーム。
「確か、意味分かんねぇストーカーに襲われたんだっけか? チッ、俺がその場にいりゃあなぁ!?」
意気込む俺だが、呉羽には響かなかっのか、言葉はそのままスルーされちまう。
「あの人、私を庇ってくれた……庇って、腕を怪我したまま大会に挑んだの。だから、今回の記録は私の純粋な力量に寄るものじゃない……!」
「呉羽……」
「何でだろう……自分でも不思議なんだけど、私、あの人の事を考えると胸が苦しいの。締め付けられる様に痛んで、でも、それが……少し心地良い」
「呉羽――! それって、"こ"――」
「待ったァァァッ!!」
「――はぁ?」
危ねぇ危ねぇ……屋代のババアがふざけた事を口走りそうになったから、俺が慌てて止めてやる。
「なぁ、呉羽――それは、風邪だ!!」
「え?」
「お前は当日ショッキングな事があって、身体が参っちまってるんだよ! さぁ、早めのパブロフだ! 母ちゃんが持たせてくれた風邪薬をお前にやるよ。これ飲んで元気になれっ!!」
「う、うん……ありがとう、駿……」
――キャァァァァッ!! 可愛いッッ!!
やっぱ呉羽は最高だわ。
お淑やかだし、可愛いし(二度目)
他の女共にも呉羽の爪の垢を飲ませてやりたいくらいだぜ? それくらい!圧倒的にキャワ!(三度目)
「――で? それでその、ソーマ君っての。どんな顔をしてたの?」
「えっ、えっ、えぇぇ……!?」
「すごい、格好良かったよ?」
「本当、ペトラ!? ――ね。直斗君とソーマ君、どっちの方がイケメンだった!?」
「んー……ソーマっ!」
「うっはぁっ!! それ本物じゃん!?」
「言われてるぞ、直斗ー?」
「あはは。僕は別に何だって良いんだけどね?」
「ただ――怖がってた」
『え?』
ペトラの言葉に、皆が驚く。
「……まぁ、知らねぇストーカーに腕を刺されたんだろう? そりゃビビるんじゃねぇの……?」
「逆に、良く大会に出て来たと感心するねー? 俺だったら、泣いてチビって棄権してるかも……?」
|嘯《うそぶ》く俊樹に「汚いっ!!」と、直球の感想を口にする屋代。「悪い悪い」と笑っているけれど、コイツは絶対に反省してねぇな?
「――違うと、思う」
騒がしい周囲の中、呉羽が呟く。
その声には、ある種の確信を秘めていた。
「あの人は多分、他人が怖いんだと思う……だから、大会に来るのも酷く怯えてた……」
「そ、そりゃまた……」
重度のコミュ症って奴か? まぁ、知っちまえば何となく想像は付くけれど――
「それなのに、彼は私を助けてくれた――」
「……きっと、それが彼の人間性なんだと思うよ」
「直斗……」
「例え自分が傷付こうとも、自身の信じる物に対しては常に真摯で有り続ける。ゲームを通じてだけど、彼の|為人《ひととなり》は僕にも伝わって来ていた。彼はきっと、何処までも純粋で綺麗な人間なんだよ」
「綺麗……か……」
寂しそうな表情を浮かべる呉羽。
くー! 何だか無性に苛々するぜっ!?
「くっっそぉぉッ!! マキシ厨、倒してぇぇ!!」
「お前じゃ無理だよ」
俊樹の奴が茶々を入れやがる!!
っせぇ! やって見ねぇと分からねぇだろが!?
「イーフリート装備で、ソーマと戦うの? 難しいと思うけれど……」
「やるんだ! 俺はやるんだよ! |鼎《かなえ》ぇ……中坊の癖に歳上に逆らってんじゃねぇぞ……?」
「ぼ、僕の方がランキングは上だしっ!」
「なにを〜〜!?」
「ひ、ひぃ!? 助けて刹那さん!?」
悪戯をする俺を、軽く叱る刹那。
いつも通りだ。
いつも通りの光景。
何でもないこの日々が、俺にとっての掛け替えの無いものになるなんて――この時は思っちゃいなかった。
なぁ、|石動《いするぎ》――
聞いてるかよ、お前――
ボコスカ、ボコスカ叩きがって……
マキシ使わなくても分かるんだぜ?
何せお前は、恋敵だからな?
謝ってんじゃねぇよ。ぶぁ〜か。
――任せたから……な?