こんにちは、真野てんです。
拙作『精霊物語りⅡ/大地の子守歌』がこの度、連載開始から一年を経てようやく完成いたしましたことをご報告いたします。
それを記念いたしまして、今回少々、制作秘話的なものをつづってみたいと思いました。なんせ執筆に(正確には打ち出しのみに)一年以上掛かった作品というのが、本作が初めてのような気がしますので、個人的にも思うところがあり、気持ちの整理も含めまして、雑多な読み物としてお楽しみいただければ幸いです。
あ、ネタバレもガンガンしていきますので、未読の方は注意です。
よろしいですか?
まず本作の時系列は、前作『精霊物語り/火と風の輪舞曲』の本編ラストから、外伝エピソード『サムザント興記』に至るまでの約三ヶ月間に起こった出来事です。
ハッキリ言ってここに無理がありました。
じつは続編としてそもそも用意していたプロットは『サムザント興記』のあと、メイルゥが「メイルゥ商会」へと帰ってくるシーンからでした。
そして『サムザント興記』でも彼女が読んでいたエドガー・ナッシュの新作が伏線となっており、物語が展開していく、予定でした。
しかし考えてみれば、エドガーは前作本編終了後すぐに山ごもりをしており、またそこから新作を出すためにはせめて数か月のインターバルは欲しいと気づいてしまいました。
つまりは時間的な不都合を解消するためだけに『精霊物語りⅡ」というのは考えられたものだったのです。
なのでほとんどのアイデアは、そこから逆算していったものでした。
まずはブラックの拳銃問題。この時点でまだオーバーホール中だったので、エルダースレイヤーを早めに登場させました。そして弾丸を捜査してメイルゥにたどり着く刑事というのを思いつき、レナード・ヴィンセントが生まれます。
このあたりからようやく錬金術と「せむしの男」の正体をつなげるアイデアを編み出し、全体像としての『精霊物語りⅡ』が誕生したのでした。
ですが執筆する際にどうしてもモチベーションが足りません。
当たり前です。もともと時間稼ぎ的要素の強いプロットなのだから。
ずっと書き出せずにいてどうしたものかと悩んでいたときYouTubeで久しぶりに聴いた「獣の奏者エリン」のOP曲「雫」の元ちとせバージョンをきっかけとして天啓を得たかのように感じました。
背中にあった翼は 君と共に無くした
飛べた頃の記憶は 擦り傷のようには消えてくれない
君を取り戻す そればかり考えていた
時の濁流に 押し流されてしまわぬよう
*引用元スキマスイッチ『雫』
この歌詞を聞いた瞬間にサラと「あの子」の関係が脳内で再生され、気が付けば涙ぐんでいました。「ああこの衝動で書けばいいのか」といきなり理解してしまったので、ラストシーンはわりと当初から決まっていたのです。
ですがそう簡単にはいきません。
じゃあ「サラの怒りと絶望を誘うのは誰なんだ?」と。
初稿の段階では「白猫」に相当するキャラは、少年少女ふたり組のホムンクルスでした。
彼らの関係を自分と「あの子」の関係に投影して、ふたりを守るというサラの強い意思が
ふたりを失ったときに暴走する――みたいな。
しかしこれ、そのエピソードだけで10万文字書けちゃうなと思ったので、やむなくボツにするところだったのです。
どっちかというと前作で設定だけあってもれてしまった蒸気自動車の話を書きたかったからでした。
そして待ちきれなくなった私は、第一章をそのまま書き始めてしまいます。
メインは『夜会』で素っ裸の若メイルゥが腹を切り裂かれるシーン。
これとカニバリズムで一本書こうという強い決心で『精霊物語りⅡ』に立ち向かったのです。しかし第一章が書き終わった時点で『白猫』とサラの文通のアイデアを思いついてしまい「しまったあああああ」となった私は、どう考えても気持ちの悪い流れになると分かっていながら、あえて『白猫』を登場させたのでした。
女刑事ゾーイとメイルゥとの関係もスムーズに開示できたので、まあ部分的には成功したと思いたい。
デニスとシエナ姫
いかにも怪しい没落貴族が、のちに優秀なメイルゥのブレーンとなる、みたいなキャラを書きたくて登場させたのがデニス・ルブランでした。
桑樹王妃シエナの子孫である彼が、どう巡り巡って王室から遠のいたのかっていうのがなかなか難しい設定だったんですけどね。
腐敗した貴族社会へのカウンターを描きたかったんです。その象徴が彼だったんですが、色々と思いつきで書いてたんで、デウスエクスマキナ的要素が強いのが玉にきず。
第三公女シエナは『サムザント興記』でも伏線を張っており、その時点で続編に登場させる気満々でした。
シーシーとともに「シエナ・グランプリ」で大暴れするはずだったのですが、ちょっと目立たせるのに失敗した感じ。
これも全部エドガーが悪い(おい
レースの裏でことが運ぶ。
たぶん読者さまも「うわっレースやるんだっ」ていう期待感でいっぱいだったと思うんですが、それすら目くらましに使わざるを得ないほど、終盤のフルカネリのエピソードが尺的に一杯いっぱいになってしまいました。
これはもうこちらの構成ミスでしかありません。申し訳ない。しかしなんらネタがないままレースシーンだけダラダラと書いてもきっとつまんなかっただろうなとは思います。
フルカネリとは一体なんだったのか。
このテーマは後々に続いていく内容だと思うので、いまネタバレはしませんが、今回の彼が発した言葉「人間にとって都合の良すぎる精霊石」というのが、本作で一番言及したかった『精霊物語り』という世界観の根幹のひとつです。
人間に恋をしたウンディーネの盲目。
そしてウンディーネに甘いノームのおじいちゃん(笑)
そういうことなんです。
剣聖ルヴァンですら例外ではない、下級貴族たちの抱える面倒な上下関係。
これが今回の重要な部分で、サムザという魔女を中心とした一枚岩の大国ですら、月日を重ねるごとに歪みが生じており、いまでは他国の価値観が否応なく導入され、混沌を極めている。そういうメッセージが伝わればいいかなって思ってます。
今回表現で一番大変だったのは、書きたい内容をすべて書こうとすると、メイルゥの物語ではなくなってしまうというジレンマ。
なのでこの辺が限界だったのです。試験的にサラの視点のみで書いた「第10話親愛なるきみへ」ですが、やっぱりこれは外伝のみでやるべき手法だなって思いました。
なので蝋管や手紙、サラとの意識共有、魔法の封印などは、すべてこれらを克服するための苦肉の作だったのです。
こう見えてけっこう理詰めで書いてるんですよね。
実際に書き始めるとほとんどアドリブになっちゃうけど(ライブ感大事
まだまだ思い出せないだけで、いろんな問題があったような気がしますが、とりあえずこんなもんで。
もし『精霊物語りⅢ』があるとしたら、それは読者さまの後押しに掛かっています(ぁ
ではでは。真野てんでした。