ラノベ界隈で「おれつえー」という用語があって、他の術語というかオタク用語は排除して考えてもいいというほど、普及しているのが、この語句である。
ぼくは「異世界に転生して、突如として、最強になった」というのは、他国に亡命することで、製鉄技術を覚えて、戦争に強くなるという歴史上、よくある英雄譚と近いと考えている。
そして、英雄は色を好む傾向が強い。
日常のジャンルに移して考えると、うだつの上がらない主人公が、引っ越しを経験して、環境が変わることで、今までデメリットだった要素が裏返ることを指している。
たとえば、工業団地に住んでいた喘息の学生が、田舎に引っ越すことになり、なぜか、喘息が癒えて、徐々にサークル活動で能力を発揮し始めて、最強の座をほしいままにして、女生徒にもモテモテになっていく。
典型的な、チートとハーレムの物語の雛型だと思うが、ぼくは、イチローや大谷翔平、それに森保ジャパンなど、多くのスポーツ選手にも当て嵌まると考えている。
彼らは火星が強いから、戦闘力に秀でているのだ。
ところが、われわれが意図して描くべきなのは、少年ものであれば、青春の葛藤と共に、大人に成長するプロセス・マインドである。
現代の少年と机を並べて、等身大に共感できるように、描くのは年齢的に厳しいものがある。しかし、育児を通じて、少年ものの描写が上手くなる女性作家もいる。
むかしから、この業界では、爆発的に成長するヒントというか、人生指南というのは、示唆的に描くに留めることがポイントだといわれている。第一に説教臭い小説を書かないようにする、第二に、世の中を批判する地の文章は誰も読みたくはない。だから、最終的に倒す強敵に、さりげなく喋らせる(脚本化する)などの工夫が欠かせない。
そして、成長して一回り大人になり、人生の殻を破った主人公にとっては、今までの敵は雑魚に見えてくる。したがって、チート能力を発揮するという段取りになっている。
これが「俺つえー」という状況である。その強さを土台にして、異性に好かれるというのは、基本的に、むかしから変わらない物語の構造があると思う。
そこで、小説家は、成長のヒントを脇に控える登場人物に示唆させる役目になっていて、頭を抱える部分だ。