日常生活で怨みを買うこと、恨みを抱くこと、全くないと言える人は恐らくそうはいないと思います。
次元の低い話で言えば、最後まで残しておいたケーキの苺を食べられたとか、ゲームで打ち負かされたとか。何十年も恨みに思いそうなところでは、初恋の相手を親友に取られただとか、お金を騙し取られて文無しになっただとか。人、状況によって恨みの深さもその晴らし方も変わりそうなものですが、ここでは恨みつらみからその制裁までなかなか激しい方をご紹介します。
平清盛などのツワモノたちが出て来た時代の犠牲者ともいうべき崇徳院。仲間だと思っていた人には裏切られ、戦には負け、さらに島流しにあい、二度と都に戻れなかった悲運・・・というか散々な人物。様々な人を呪いたくなる気持ちはわかりますね。
雨月物語「白峯」は西行法師という、元武士でこの崇徳院とも一応面識があったらしい僧と、怨霊となった崇徳院が論を競う(?)話。
最初、西行が山深い場所にある崇徳院の陵( お墓)へお参りするくだりから物語は始まります。そのとき、自分も武士であり、崇徳院がまだ政務を執っていたときの栄華を思い出して、それが結局草木生い茂る、奉仕する人もない深い山の奥で亡くなるとはと世の中の儚さを思って泣くわけです。諸行無常ということですね。そのあと少しして和歌を詠むのは、山家集まで出した風流人ならではでしょうか。
その後の文章で時刻は夜へ向かいます。骨の中まで冷え切るほど寒く、月は出ているのに樹木が繁茂しているせいで光を通さず真っ暗で・・・恐ろしいではなく、物悲しいと感じるらしい。そんな時に、眠りそうになっていると自分を呼ぶ声がするわけです。・・・普通怖いですよ、それだけで。人も来ないほどの鬱蒼とした山奥、お墓の前で、寒くて真っ暗な時自分の名前を呼ばれるなんて。
しかもそのあと、
背が高くやせ衰えた人が、顔かたち、来ているものの色も模様も定かでない人がこちらに向かってくる。様異なる人と書かれていますがまあ、普通の人間なら声も出ないか逃げ出すか絶叫かでしょうが、この西行法師は落ち着いたもので、
「ここに来たるは誰そ」なんて言っちゃうわけです。仏道の悟りを開ききった僧侶だからと書かれていますけど、悟りってすごいですねぇ。火も暑いと感じなくなるらしい。
そんなことは置いておいて。この何者かわからない何某は、先ほどの西行の和歌に返歌するために出て来たらしい。こちらもまた風流人な訳ですね。その和歌の内容から、この何某が他でもない崇徳院と知るのですから、和歌のやり取りも捨てたものではありません。それで西行は、また会えたことを喜ぶやら、現世に未練たらたらなのを悲しむやらなかなか大変です。誰でも崇徳院ほどの災難続きで死んだりしたら祟りたくもなりそうですがまあ、涼しい顔で「誰そ」のひとに言われるなら仕方ないのかもしれません(笑)
で、その真面目で本当の意味で悟りきった西行に、早く成仏してねと言われた崇徳院はカラカラと笑います。そして、実は生きている頃から悪魔道(天狗道のことらしい。決して、厨二病にあらず)に入れあげた結果、平治の乱を起こした、また大きな乱を起こすぞというわけです。こんなことを言われて真面目な西行が黙っているはずがありません。涙を流しながら、なぜ聡明なあなたがそんなことをするのか詳しく聞かせろと、こうです。
泣き落としはちょっと卑怯な気もしますけれど、崇徳院は律儀にも答えます 。
まあ・・・要は血筋とか、継承とかのことで駄々をこねます。父帝の批判もします。曰く、嫁さんに意見聞くなんてひどい!と。でも文句も言わなかった、父が死んだから、いつまでも黙ってはいられないと挙兵したんだ、とこうです。しまいには、西行は仏道と人の道(政治とか)をいっしょにして自分に説教しようとしている、と声を荒らげます。
幽霊に怒られた西行はやはり怖がるでもない。さすがです。その西行は延々中国の歴史や言い伝えを引用しつつ、最終的には、父帝が亡くなってすぐ挙兵したのは良くないことだからこそ、ひどい罰を受けてこんな辺鄙な所で死ぬことになるのだ、だからもう恨みつらみは忘れて往生してほしいとなかなかズケズケ言います。
それに対して崇徳院は長い溜息を吐きます。
間違ったことを言ってはないけれど、この辺鄙な場所では世話する人もなく、枕のそばで雁が 鳴くにつけても都が懐かしく、千鳥が明朝さわぐのを聞いても心を苦しめた。そこでただただ来世の幸福を祈り写経をしたけれど、近くにお寺もない。そこで、写経の筆跡だけでも都へと、人伝に送った・・・
それを、もしや帝を呪うつもりなのではと訝しんだ信西に、突き返されてしまうことになります。
これまで悲しみに沈んでいたその心はこの事件により復讐心に燃え上がります。ここで、先の悪魔道云々の話が出て来て、実は自分の経文を突き返して来た信西とか、流罪になるきっかけの戦いで敵に回った源義朝だとか・・・その他大勢かなりの人を祟ったり殺したりした上で、まだまだ怒り狂っていた崇徳院、ついに大魔王に。(天狗の王です。異世界に転生したわけではありません。)で、まだまだいろんな人を祟ってやるといいます。 (その中に平清盛も含まれています)
そんな有様の崇徳院に、ついに西行も何も言えなくなってしまいます。
そんな中、天変地異のようなことが起こり、崇徳院が本当に化け物のような姿になります
「朱を注ぎたる龍顔(みおもて。帝の顔が
真っ赤になったこと)に、棘の髪膝にかかるまで乱れ、白眼釣り上げ、熱き息苦しげ継がせたまふ。」
はい。人間やめています。そして突然現れた魔王様配下の化け物鳥に向かって、そろそろ平清盛らを滅ぼそうと言うと、化け物鳥はその子どもの重盛の忠義が素晴らしいのでまだ無理だけれど、干支ひとまわりで重盛の命数が尽きるから、一族はその後すぐに滅ぶだろうと言います。
その答えに崇徳院は大いに喜びます。
この有様に西行はまた涙をこらえきれずに、王侯も民も死ねば皆同じであるのにと和歌にも読んだりして遂に感情を抑えられなくなります。
その言葉に対しては化け物になっていた崇徳院も感激したらしく、元どおりになり姿を消し、化け物鳥もいなくなり、天変地異もおさまり、月も隠れ生い茂る木々も真っ暗になる。程なくして朝になり、いろいろ供養した。
これにはもちろん後日談があり、崇徳院と化物鳥の話していたとおり、重盛が干支一回りで 死んだ後、平氏一門は壊滅ということを聞き、その後の人達は崇徳院を祭った、とかなんとか。
長々と・・・そんなに長くもないものをを長くしか書けないのが、筆力のなさでしょうか。こんなに下手に書いてと祟られたら嫌ですね・・・
注意!
一応そこそこ端折ってます
細かい解釈ミスは大目にみてください
素人ですのでお手柔らかに。