自分事で小説を書くのが得意な人と、
他人事で書くのが得意な人とがいるんじゃないか。
そんなことを最近考えています。
自分事で書くっていうのは、
小説の中に自分の人生を盛り込むということです。
必ずしも実体験を基にするという意味ではなくて、
たとえば私なら、過去オンラインゲームに熱中していたことがあったから、オンラインゲームを題材に小説を書く。
その中で繰り広げられる物語に、自分がその題材に対して抱いている思いをぶつける。
そんで、たまに実体験や、こういう体験したかったって願望を混ぜ混ぜしたり(笑)
ってな書き方をイメージしています。
私の小説で言えば、
オンラインゲームを題材にした「現実を見ろ・オンライン」や、
当時抱いていた友情観を表現したくて書いた「飛べない澄子の声」
なんかが自分事にあたります。
「飛べない澄子の声」は、
昔から親しくしていた人と疎遠になる気配があって、
そんな仲間同士で集まっていた場所も消えそうに感じていて、
それを基に書いた小説です。
別れの気配と徹底的に戦うモチベーションはないけれど、
疎遠にならずに済めばいいなあという願望だけはものすごく強かったり、
仲間同士で楽しくやっていた日々を思い起こすと、
あの日々こそが人生で最も輝いていた時と思ってしまいそうになる感傷的な心の動きだったり。
そういうタイプの自分事で書いた小説でした。
あまり星の数が増えなかったので、失敗作だと思っていた作品でしたが、
最近だくさんさんから星をいただきました。
ありがとうございます。
それを機にちょっと読み直してみたら、
失敗とは思えないくらい自分にしては上出来な小説で、
今の自分よりうまいかもしれないくらいで、びびりました。
反対に他人事で書くっていうのは、
そういう自分の人生と重なる要素を盛り込みすぎない、
あるいはそういう所に力を入れない、
という小説です。
それよりも読者を楽しませるだとか、
自分の好きな展開を入れるとかに力を入れるイメージです。
私の小説なら、ユーザー企画に投稿したものや、
「てるてるドラゴン、空の上」
が他人事で書いた小説になります。
「てるてるドラゴン、空の上」では、
楽しい時間はいつか終わってしまう、という暗い気分が自分事でした。
でもそれを主題には書いていません。
15cmコンテストのお題を自分なりに利用してやろう。
ハッピーエンドで終わらせよう。
それ以上のことは深く考えないで、王道っぽい話を書けばいいや。
なんて考えでした。
このてるてるは、
たくさんの方から星やレビューをいただけて、
それで私は他人事の方が向いているのでは、
と思い始めるようになったのです。
あと、最近梅乃あんさんから星をいただいた、
「ループする少女はいつも年上の男を好きになる」も、
他人事ですね。
これは単に、自分の好きな展開、雰囲気を真似して書いたものです。
それに共感していただけたので、とても嬉しいです。
カクヨム以外の場所で書いた小説でも、
自分事じゃない小説の方が褒めてもらえている印象があります。
だから他人事で書く方が向いているのだろうと思うのですが、
しかし私にはどうしても自分事で書いた小説に強い憧れがあります。
憧れるきっかけは、
昔から通っている狭い狭いコミュニティです。
かなり自分事で書いている匂いのする、
そしてめちゃくちゃ面白い小説がそこに投稿されて、
それ以来、いつかその小説を乗り越えたいと思うようになりました。
その小説を書いた人は、今はもうほとんど小説を書きません。
そして、たまに書いて投稿された小説を読んでも、
あの自分事の小説ほどの衝撃を私は感じられません。
自分事だったからこそ、
小説の中にものすごい熱が宿り、
文章を通じてその熱が確かに伝わってきたのだと、
私は思っています。
自分事で書いた小説には、
「熱」と呼ぶべき作者のものすごいパワーが残って、
そのパワーは読者の心の中まで伝わっていく。
それが、私の信じていること、なのです。
そしてカクヨムでも、
「これはたぶん自分事で書いているんだろうな」
という小説に出会うことができて、
その作品はめちゃくちゃ気に入っています。
そんなふうに、おそらく自分事の面白い小説、
というのに出会う度に憧れの気持ちが強くなって、
たぶん向いていないのに自分事で書きたくなってしまうのでした。
でも今はそんな思いを吹っ切って、
他人事でやりたかった小説をのびのび書いています。
これはこれでとても楽しいから、幸せです。