※ ※ ※
こちらは、
『万年シルバーのおっさん冒険者が、パーティ追放されてヤケ酒してたらお隣の神官さんと意気投合して一夜を過ごした件、ってお前最高ランクの冒険者かよ。』
(
https://kakuyomu.jp/works/16818093073905606922)
の幕間を公開している近況ノートです。
クィナ編のネタバレを含みます。
※ ※ ※
※ ※ ※
私は昔からお姉ちゃん子だった。
一番上のお姉ちゃん。綺麗で、頭が良くて、弓とか槍の腕も凄くて、森に現れて畑を荒らしていた魔物も一人で倒しちゃった凄い人。
末っ子だった私はいっつもヨルダ姉さんの後を追い掛けて回って、姉さんも私を気に入ってくれていたのか、森で甘味が取れると真っ先に私の所へやって来て、こっそり食べさせてくれた。
内緒だよ。
悪戯っぽく笑って、だれも来ない秘密の屋根裏で木苺を食べていると、すぐに誰かが姉さんを呼ぶ。
優秀な姉さんは大忙しだ。
私も早く大きくなって、村の役に立てるようになりたい。
でも、やっぱりまだ甘えたいのも確かで、お母さんにはあんまり会えないから、私はたまに拗ねて一人で海岸へ行く。
絶対に入っちゃいけないって言われてる、荒い海を見ながら東へ進めば、結構歩いた所に船の墓場って呼ばれている場所がある。
ここは、そのほんの一部が外れて流れ込む場所で、もっと西に行けばちょっとした島みたいになっているんだって。
磯の香りに包まれながら、泣きべそを搔いて難破船の下へ潜り込む。
そうしてると、必ず姉さんが探しに来てくれるから。
ほら。
「みーつけた。もう、またこんな所で泣いてるんだー」
見付けた私を抱き締めて、しばらく姉さんを独り占め出来る。
砂浜で並んで横になったり、貝合わせをして遊んだり、砂山を作ってみたり。
「ほらっ、もう少しで繋がるよ。慎重に掘り進めるんだよお」
「う、うんっ」
「どさー」
「きゃあっ。脅かさないでよぉ」
「あはははは。ごめんごめん。ほら、ゆっくりゆっくり削ればいいの。クィナなら出来るよ」
砂山に穴を掘って、姉さんの掘った方と繋げる。
海水を掛けてしっかり固めたのに、簡単に崩れて来て、ちょっと砂が流れてくるだけで身体がビク付いちゃった。
「あ…………出来たあっ!」
「おっ!? おー、凄い凄いっ。出来たじゃないっ」
「あ……」
「うん? どうしたの?」
姉さんのほっぺに砂が付いてる。
穴を覗く時、砂地に顔を付けたからだ。
私は少し悩んで自分も身を伏せて、穴を覗き込んだ。
すると、楽し気な姉さんが反対側からこっちを覗いてきて、砂山越しに目が合った。
「みーつけた。ふふっ」
「ふふっ。見付かっちゃった」
起き上がり、笑い合っていると、姉さんが手を伸ばしてきて私の頬を払った。
「かわいいほっぺに砂が付いてるぞー?」
「ん……姉さんも」
「え? ほんと?」
うん、と応じて手を伸ばし、こっちに差し出してきてくれた頬をぱっぱと払う。
「ありがとう」
自分でも軽く頬を払いつつ、その手で私の頬を摘まんで来た。
「うー」
「クィナのほっぺはぷにぷにだなあ。食べちゃいたい」
「食べちゃだめー」
「んー、ちゅっ」
「きゃーっ」
そんなことをして沢山遊んだ後、私は後ろから姉さんに抱かれて心地良さに目を閉じていた。
きっと、もうちょっと寝てしまう。
「ちゃんとね、きっと、クィナの安心して暮らせる村にするから。他のチビ達も、お母さんとか、おばあちゃん達もさ…………ちゃんと、皆で生きていける村になれば、きっとね」
姉さんは優秀だ。
姉さんが言うのなら、それは必ず叶うんだ。
だから、私は本当に安心して良いんだ。
「あれ……姉さん、何か」
「どうしたの?」
ふと目元を掠めた光に身を起こす。
なんだか、屋根にしている沈没船の奥に、何かが。
そこは破損した穴から海水が流れ込んでいて、小さな蟹がどこかへ歩いて行く所だった。
「なにかあるよ」
「うーん?」
起き上がった姉さんの手を取って、ちょっと怖いからぎゅっとして、薄暗い奥へ入っていく。
暗いから、近くまで行けばそれはよく見えた。
浜辺に打ち上げられた小さな流木。
とても艶やかで、他の木とは何か違う。
そう。
美しさを感じる何か。
「綺麗ね……」
姉さんが流木を手に取った。
掲げてみて、その表面を指で撫でる。
何故か私にも、それはとても魅力的なものに思えた。
たった一本の木の枝。
だけど、私達で見付けた宝物。
それだけに過ぎないと、あの頃は思っていた。