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『万年シルバー』㉖ サフィーナ編 サフィーナ視点

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 こちらは、
『万年シルバーのおっさん冒険者が、パーティ追放されてヤケ酒してたらお隣の神官さんと意気投合して一夜を過ごした件、ってお前最高ランクの冒険者かよ。』
https://kakuyomu.jp/works/16818093073905606922
 の幕間を公開している近況ノートです。

 サフィーナ編のネタバレを含みます。
 
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 ゴブリンの巣からの撤退戦、ぎゃあぎゃあと叫びながら敵を引き寄せる様なことまでして、最初は心底馬鹿だ最低だって思ってたのに、気付いてしまった。

 シルバーランクの戦士で、タンクで、最近三十五を迎えた。
 典型的な、経験だけは豊富な冴えない冒険者。

 クルアンへ行けばこの手の人間は山ほど居る。

 上へ挙がっていける伸びしろも見えず、意地を抱えていつまでも憧れと夢を追い掛ける、そんな吐いて捨てる様な…………私と同じ冒険者なんだと、思ってた。

「どォしたあ!!」

 射界へ駆け込んでくる彼を見て、また指先が強張ってしまう。

「だからァ……!!」

 分かってる。
 私のことじゃない。

 彼。

 彼だ。

 この十年以上も仲間を背負って戦ってきたっていう、どこにでも居る様で滅多に居ない、馬鹿みたいな思考の持ち主っ。
 タンクなんて冒険者の中で一番頭のおかしい奴がなる役処なんだから!!

 実力が無いから肉壁になるしかない!?
 騒いで割り込んで、挙句勝手にやりきった感だして倒れる荷物持ち!?

 それも一つの事実でしょうけどッ、根本的に回避も許されない状況で防御不可能と分かっている攻撃の前に立ちはだかれる人間がどれだけ居るって話なのよ!!

 腕っぷしがあれば防ぎ切れる。
 防ぐ手立てを以って立ち向かえる。
 だけどこの人は、根本的に巨人族みたいな膂力や頑丈さがある訳でもないのに、自分の肉を喰わせてでも魔物の攻撃を引き受けてしまえる。
 冒険者は皆どこかぶっ壊れてるけど、その上で限界まで自分を生かして、倒れず、味方を鼓舞出来るタンクなんて私は知らない。

 しかも、そう。

 身勝手に飛び込んできたかと思えば、しっかりと敵の機先を潰してる。
 派手に騒いで注意を引き付け、私を狙おうとしていた奴の動きを迷わせる。
 なんなら吹っ飛ばされた先でわざと無様さを晒すことで、更に敵を煽って自分を潰そうと誘導する。

 離れていても、敵へ突っ込んでいても、守られているという感覚がずっとあった。

 なんなのこの人。
 これがシルバーランク?
 ふざけないでよっ。
 包囲を仕掛ける敵の陣容を思い通りに動かして見せるタンクが、シルバー程度な訳ないでしょうがッ。

 まるで空から見降ろしているみたい。
 師匠が言ってたもんね、戦況把握の奥義は鳥の目を得る事だって。

 出来てるのかな。
 そんなこと、本気で出来るだなんて考えもしなかった。
 あーはいはい、なんかそういうのねーって、適当に流してたな。

 こりゃあ、ギルドだって評価なんてし切れないでしょっ。

 同じ目線に立てない。
 『速目』なんて言われてる私ですら、見えてる景色の先を想い描いていくので精一杯なのに。
 色々事情があるみたいなことは前以って知ってたけど、きっと今まで組んで来た殆どの奴は当たり前に享受してたんでしょうね。
 離れていった奴は否応無く思い知ったんじゃないかな。
 今まで、このキレたタンクに守られていたのがどれほどのぬるま湯だったのかってことをさっ。

 シルバーランク。
 シルバーランク……っ。

 ホント魔境だよ、このランクはさ。
 たまに居るんだよねぇ、底知れない理解不能な懐の深さを持った奴がさァ!!

 ギルドの目にも留まらないで、ゴールドの境目を行ったり来たりしちまう奴が!!

 うん? 私? そうだねえ……!!

「邪魔ッ、すンなああ!!」

 放った矢が、彼の背中に突き刺さった。

「っっっっ!?」
「っ、っははははははは!! 痒い痒いぜェ!! もっと来いやああ!!」

 矢傷を諸共せず、見構える敵集団へ突っ込んでいく。
 明らかな無茶。
 でも、私本来の援護が出来れば難なく処理出来る、そういう底まで掴み取られたような動きを見た途端、罪悪感と苛立ちがバッチバチにぶつかり合って、頭の中で火花を散らした。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、っっもう!!!!」

 分かってるけどね!!
 煽られて乗せられてるの!!

 分かってるけどさア!!

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 「サフィーナって容赦ないよなぁ」

 昔の記憶。
 何度も何度も思い返す、私の後悔。

 本当は違うんだって、言わなくちゃいけなかった私の本音。

「そーお? まあ、私ってば将来ミスリル確定なんて言われてるくらいの狩人だからさー、一緒に戦えるのを光栄だって思ってくれなきゃー」
「でたよ大口。けどまあ、ソイツに散々助けられてる身からすると、ははーっ、って一度くらいやってあげた方がいいのかねえ?」
「やってから言えー。おいリーダー、靴磨けー」

「はははっ。駄目だよサフィーナ、いくらウチのリーダーが冴えないタンクだからってさ」
「そうだぜ。噂の万年シルバー程じゃないけどな、そろそろ年季が入ってきた頃合いだよな」

「おいお前らっ!?」

 いつもの冗談で大笑い。
 この程度の当て擦りは日常だよ。
 命を預け合う冒険者同士、傷を撫で合うくらい出来ないと、いざって時に信用し切れなくなるからね。

 でも、さ。

 言えなかった。

「おっとー? そういえばこの前の戦闘でも、無策で敵に突っ込んでいって私に助けられた人が居ましたよねー」
「あれはっ、だってお前いつも上手くやってくれるじゃん! 結果的に俺も殆ど無傷だったしなっ! もうバンバン身体掠めて矢が飛んで来たけどな!!」
「大きな身体が邪魔だったんだよねぇ。いっそ削って縮めてやろうかと思ってさ」
「おーい!」

 本当は怖いんだよ。

 『速目』なんて二つ名が付いてから、周りはそういうもんだって受け入れてくれるけど、本当に止むに止まれぬ状態でないと敢えて無茶はしない。

 誰か好き好んで味方掠めて敵を射抜きますか。

 邪魔しないでもっと冷静に状況を見て。
 敵を倒そうと前のめりにならないで。
 私が見てるからって無茶をするから目が離せなくなるの。

 結果的に腕は磨かれたけど、いつも肝を冷やしながら、そうしないと危ないから、必死になってやってるんだ。

「まあこれからも頼むぜ、サフィーナ」
「私達の守護神」
「このままパーティも成長させてっ、もっともっと名を挙げましょう!」

 うん。

 うん、頑張るよ。

 私が皆を守り抜いて、一緒に夢を叶えるんだ。

 あぁ、本当に。

『勘弁してよ』

    ※   ※   ※

 やり易い。
 安心出来る。
 壁が一枚うろうろしているなんてもんじゃない。
 分からない奴には絶対分からないだろうけど、砦の中に居るみたいな安心感がある。

 きっと限界はあるんだろう。
 守り切れない時もあるんだろう。
 でも、それは限界を越えて更に一歩先まで、この人が守ってくれた後だ。

 私ならその限界を更に引き延ばしてやれる。

 彼と思考を同調させられる。
 追いつけないけど、振り切られずに、なんとか付いていける。

「――――っはは!!」

 面白いんだよねぇ、こういうの!

 笑ってる場合じゃないし、命懸けなんだけどさっ。
 盤遊びで練りに練った新手で相手をハメ倒せた時みたいな面白さがある。
 構築、実践、成功は気持ち良い。

 あれだけのことがあって、まだこの感覚を思い出せるなんて。

「はっはははははは!! 調子が上がってきたじゃねえ――――痛っ!?」
「っっっっ!? ごめっ」
「うおおおおおおおお痛ええええええええええ!? 馬鹿やろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「だからごめんって!!!!」

 あははははははは。

 ホント、笑ってる場合じゃないんだって。
 なのにさ、ふざけてる癖にさ、私がやって欲しい事あっさり読み切って実践してくるんだよ、この人は。

 カチリとハマる。
 即席の新手。
 相手が浅い読みで自滅したら辿り着けない、十手先、二十手先の景色。

 今日それが、初めて見えた気がする。




6件のコメント

  • こうして堕ちる女の子が増えていく訳ですか…
    リディアさんもそっぽ向いてる場合じゃ無いぞ?これは(苦笑)
  • リディアとの出会いで意識が変わったとはいえ、初期状態でも結構ちゃんとタンクしてたロンドくんです。
    後衛にとって安心出来る壁が居るって結構重要ですよねぇ。
    その上で各自の役割や思考を理解して、連携した壁になってくれるから、そこらを気にする中堅層にこそ刺さるものがあるかも……?
  • MANNENシルバーの“M”はドMのM?(´Д`)
  • あるかもしれない。
  • だから何度も言う!
    玉を射止めろ!
    ヤツの玉を射止めろ!!

    玉にあててこそ
    本当の狩人だ(エセ師匠)
  • ナニを狩ってるんですかねぇ。
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